分岐点
今日は早めの投稿です。
エバートンが転移魔法陣を書いている間、俺達は休憩中だ。
その休憩中にセルゲイとダミアンがとんでもない事を俺に頼んで来た。
万が一このダンジョン攻略戦で死んだなら、『エクセレント・ヒール』を使ってくれと言うのだ。
「あの魔法は死者を生き返らせる魔法ではありませんよ!」
「わかっているさ」
「承知しております」
「第5階層で危うく全滅しそうになるダンジョン・・・エバートン殿とヒデキ殿がいなければ、その前に全滅していたことでしょう」
「ここから先、俺やダミアンが生き残れる確率は低いだろう」
「いやいや、そうなる前に撤退しますって」
俺は首を横に振りながら二人に言う。
言ってはみたものの、第5階層の事を考えれば、二人の懸念も最もだ。
「それにあの魔法を死んだ者に使うとどのようなことが起きるか分からないんですよ」
「ならなおさら実験すればいいじゃねえか!頼むヒデキ!!俺はここまで自分を無力に感じた事はねえ・・・」
セルゲイが悔しそうに拳を握って振るわせる。
「親衛隊のヘンドリクみたいに奥の手を出すぐらいしか、俺には活躍の場がねえんだ。その奥の手だって、さっきみたいな魔族なら使う機会もねえ・・・」
セルゲイが頭を下げた。
「ヒデキ!!万が一だ!!俺もみすみす死ぬ気はない!!だが、何の活躍もないままお陀仏になったとしたら、俺はあの魔法にかけてみたい・・・頼む!!」
「ヒデキ殿・・・私は王国騎士団の生き残り・・・隊長の身でありながらエバートン参謀の忠告に耳を貸さず、部下を全員死なせてしまった」
ダミアンは悔しさと後悔からだろう、身体を小刻みに震わせている。
最初あれだけ傲慢だった態度は見る影も無い。
謙虚になったダミアンは好青年だ。
「私はもとより、生きて王国に帰れるとは思っていない」
「止めて下さいよ、そんな自殺志願者みたいな言い方」
「すまない、あくまでもその心構えでこの戦いに臨んでいると言いたかったのだ」
「それなら・・・まあ・・・分かりますが・・・」
「私もセルゲイ殿と同じなのだ・・・先程も活躍の場もなく全滅するところだった・・・」
「第3階層でベリアルに一矢報いたじゃないですか!!」
「そう、部下の無念は晴らせました。だがそれもエバートン殿とヒデキ殿のおかげです。今度は私が役に立ちたいのです」
俯いていた顔をきっと上げてダミアンは俺を見る。
「私もむざむざ死ぬような事はしません!!ですが犬死だけは嫌なのです!!お願いしますヒデキ殿!!」
これは承知しなければ、二人とも引き下がらないな。
「分かりました・・・エバートン参謀の許可が下りるなら、万が一ですよ・・・万が一が起きたなら、あの魔法『エクセレント・ヒール』を使いましょう!!」
「かたじけない!!ヒデキ殿!!」
「有難い!!約束だぜ!!ヒデキ!!」
二人は深々と頭を下げた。
まあ良い、二人を死なせないように俺とエリーで立ち回ればいいだけさ・・・と、俺は心の中でつぶやいた。
「それじゃあ俺達も武器と防具の補充申告をして、一休みするわ。邪魔して悪かったな。お二人さん!!」
「それでは失礼します。ヒデキ殿、エリー殿」
二人は立ち上がり、武器と防具の補充申請をするためだろう、デトレフさんの方へ向かって行った。
「ヒデキ様、よろしかったのですか?」
「うん!ああでも言わないと、二人とも引き下がらないと思ったからな」
「では『エクセレント・ヒール』は使わないのですか?」
「いや、約束した以上、万が一の時には使うさ。エバートン参謀の許可が出ればだけど」
「許可が出ないかも知れませんね」
そう言いながらエリーは俺にもたれかかる。
俺もエリーにもたれかかり、お互いの身体を休ませる。
ふとエバートンの方を見ると、直径10メートルはあるだろう魔法陣を徐々に文字で埋めている。
丁度三分の一ぐらいの進み具合だろうか?
まだまだ時間がかかりそうだ。
スマホを取り出して、時間を見ると午前3時を過ぎたところだった。
第5階層とのボスとの戦いでかなりの時間を使ったのに気付かされた。
「エリー、少し眠ろう。このままの体制で眠れるか?」
「いえ、先程まで私は眠っていたようなものなので、ヒデキ様がお眠り下さい」
エリーは膝枕の体制を取って、膝をぽんぽんと叩く。
「そうか、じゃあお言葉に甘えるかな」
俺は午前6時半にスマホのアラームをセットして、エリーの膝枕に頭を乗せた。
「何かあったら、すぐに起こしてくれ」
「はい、畏まりました。お休みなさいヒデキ様」
俺はゆっくりと目を閉じた。
相変わらずエリーの膝枕は気持ちが良い。
すぐに眠りに落ちて行った。
□ □ □
恵理子がいた。
あれ?何で?
俺は、真白な何もない空間に恵理子と向かい合って立っていた。
「ヒデキ・・・久しぶりね・・・」
「恵理子・・・恵理子なのか?」
「そうよ、正確にはあなたと恵理子とエリーの深窓意識の中にいる恵理子よ」
「相変わらずよくわからん」
「分からなくて良いわ。いい!!よく聞いて・・・このまま進むと、あなた達は全滅するわ」
「例え夢でも縁起の悪いこと言うなよ」
「夢であって夢ではない・・・シュバルツシルト面であなたがた全員の運命は全滅する事が判明している」
恵理子はたんたんと話す。
夢の中の恵理子は前も同じように話したな・・・
「判明しているって、それは変えられないのか?」
「現時点での変更は可能・・・だからこそ、あなたに会える機会を待っていた」
「そうか・・・ありがとう・・・で、どうすれば変えられる?」
「今の因果律から脱するには、3つの事、機会を間違わずになさなければならない」
恵理子は指を3本立てて語った。
「3つの事?」
「そう1つ目は、ヒデキのスマホにある6大魔法の発動」
「おい、いきなり無理じゃないか!!」
「無理ではない。何故一人で発動させようとする?ヒデキとエリーの絆は、そんなにやわではない!!」
「エリーとの連携実験ならさんざんやったさ。だけど引き継いでの魔法陣の発動は成功しなかった・・・」
恵理子は首を横に振った。
「やり方がそもそも間違っている。引き継ぐのではない、魔力を併せて巨大な魔力にする」
「併せて?個人の魔力は指紋と同じで同じものはない。併せるのは不可能だ」
「普通はそうだけれど、エリーはヒデキの魔力と同じ魔力にすることが可能」
「それは本当か?」
俺は思わず恵理子の肩を掴んで前後に揺らしてしまった。
恵理子はそれに動じずに続ける。
「エリーは特殊なドラゴンで、今は私の記憶を使い見事に擬態している。隅々まで私にそっくりだ」
それは認める。
夜の・・・いや・・今は関係ないか・・・
「であれば、エリーがヒデキの魔力を擬態すれば良い。なるべく同じ魔法を使うようにして、同調してゆけば、必ず同じ魔力になる」
「どれくらいかかる?」
「第6階層の守護者に出会うまでには出来るはず」
「そうか・・・なるべくエリーと同じ魔法を使えばいけるのか・・で、2つ目は?」
恵理子がVサインのように指を2本立てた。
「2つ目はエリーが切り札を使う事」
「切り札?ファイヤー・ノヴァなら使っているぞ・・・それとも毛玉の事か?」
恵理子は首を横に振る。
「そうではない。エリーには絶対的な切り札がある。それを使わない限り今の因果律からは抜けられない」
「絶対的な切り札・・・まさか・・・それは俺には強制できないぞ・・・」
「大丈夫・・・エリーは私・・・つまり恵理子・・・ヒデキのためならば必ず切り札を使う」
「俺は命令しないからな!!」
恵理子はにっこりと笑い、うなずいた。
「それでこそヒデキ・・・だからエリーはそれに応える・・・」
「まあいい・・・最後3つ目は何だ?」
恵理子が再び指3本を立てる。
「3つ目はヒデキ自身が切り札を使う事」
「俺自身の切り札?それは何だ?6大魔法じゃないのか?」
「それを使える事は大前提。あなたの首に切り札がある」
「首だって?」
俺は首に掛かっているロケットに触った。
「ノーマか!?だがこいつはいつ目覚めるかわからないんだぞ!!」
「確かに分からない。でも思い出して欲しい、ノーマは元来なまけもので、寝てばかりいる」
「そうだな・・・寝てばかりいたな・・・てっきり羽を復活させるためだと思っていたが」
「羽は何をしていても、復活する。しょっちゅう寝ていたのは元来のノーマの性格」
「なるほどなぁ・・・じゃあ、どうすれば目覚める?」
恵理子は悲しげに首を横に振った。
「私にも方法は分からない、何かきっかけがあれば必ず目覚める」
「きっかけねえ・・・わかった、ノーマを起こすのが一番簡単そうな気がしてきたよ」
「それは良かった」
「で、どうなんだ?因果律は変わったかい?」
「私があなたに3つの課題を出したことにより、あなた達の運命は2つに分岐した」
恵理子がにっこりと笑う。
「全滅の道筋以外に生還する道が出現した。どちらの分岐に進むかは、あなた次第」
「そうか!!生還できる分岐に進めるように努力するよ。ありがとう恵理子・・」
「いいえ、私はヒデキのためだけに存在する」
「甘えついでに聞いておきたい、生還ルートならば、セルゲイとダミアンは死なないで済むよな?」
「少し待って、見てみるから・・・分かったわ・・・彼らは」
という所でアラームの音が聞こえ、恵理子は消えてしまった。
彼らは・・・
いや、絶対に死なせないぞ。
久々の恵理子の登場でした。
突っ込みはなしで願います。




