毛玉
引き続き魔族との戦いです。
膠着状態・・・いや違うな・・・
俺達は徐々に消耗しているのだ。
魔族への攻撃はほぼ効果はない。
少しの時間絶対零度からの緩和がせいぜいで、その間に魔力回復ポーションを補充して、防御結界の維持なり、攻撃魔法を準備して攻撃、絶対零度の支配から逃れる。
この繰り返しだ。
幸か不幸か魔族はそれ以上の攻撃はして来ない。
と言うかこれしか攻撃手段がないのだろうと、エバートンは推測している。
そのエバートンだが、絶対零度が緩む僅かな時間を利用して魔法陣のスクロールを取り出しては、書き込み、またしまうという地道な作業を繰返していた。
エバートンの術式の完成が早いか、俺達の魔力が尽きるかの勝負だ。
「このままでは我々が先に力尽きる、少し長めに書き込む時間が欲しい」
エバートンの声にヘンドリクが答えた。
「エバートン様、私が奥の手を使いましょう、一旦撤退も考えたのですから、戦力の出し惜しみはなしにしましょう!」
「・・・そうだな・・・頼めるか?術式を組むまでの時間を稼いでくれれば良い」
エバートンは一瞬だけ逡巡したが、決断を下した。
「承知!!ヒデキ殿、今一度この支配を解いていただけますか?」
「了解です!!行きますよ」
俺は『スーパーノヴァ』を発動させた。
少しの時間だが、絶対零度の支配から解放される。
その瞬間を見逃さずヘンドリクは魔族に突撃して行った。
少しでも援護になればともう一発『スーパーノヴァ』をぶちかます。
魔力切れで倒れそうになったが、エリーが直ぐにポーションを手渡してくれた。
援護が利いたかどうかは分からないが、ヘンドリクは魔族を攻撃できるところまで達していた。
ヘンドリクの体から凄まじい闘気が迸る。
その瞬間ヘンドリクの身体が青白く発光をし始めた。
「!?」
魔族の顔から余裕の表情が消える。
「全員耐熱防御!!高熱に備えろ!!」
エバートンはスクロールを取り出し、書き込みを始めながら、指示を出した。
ヘンドリクは発光しながら、高温を発して魔族を剣で攻撃している。
両手に持っている剣はオリハルコンだから、高熱など物ともしない。
魔族はその攻撃を防ぐため、絶対零度を解くしかなかった。
絶対零度によって凍りついていた床や壁が急激な高熱で暖められ、大量の水蒸気を派生させて視界を閉ざしてしまう。
鳴り響く剣戟の音だけが、ヘンドリクが戦闘を続けている証だった。
そんな中、エバートンは術式の書き込みを続けている。
絶対零度から開放された皆は、武器や防具の点検、魔力回復に余念が無い。
俺はスマホの中から、この後最初に使う攻撃魔法を選ぶためフォルダーを見直していた。
エバートンの額から汗がぽとりぽとりと落ちている。
凄い執念だと思った。
ふいに剣戟の音が止み、暫くすると水蒸気が消え視界が戻り始める。
そこにはヘンドリクをネックハンギングのように両手で持ち上げる魔族の姿があった。
「なかなか頑張りましたが、これまでです!!」
魔族はこちらへヘンドリクを力任せに投げつけた。
ヘンドリクの身体はごろごろと転がり、俺達の前で止まる。
その瞬間に配られたヒーリングが発動した。
つまり即死ではないが、死ぬ一歩手前だったと言うことだ。
「完成だ!!ヘンドリク!!よくやった!!」
エバートンが叫び、5つの魔法陣に魔力を込めた。
魔族が再び絶対零度を発動しようと手を翳す。
同時に魔法陣から光の壁が立ち上がり、徐々に魔族のほうへと向かって行った。
薄い光の壁を境にして、魔族の方は絶対零度、こちら側は通常の気温、と完全に分けられている。
その光の壁が魔族に到達した時、バシッという鋭い音が聞こえ、壁は消滅した。
そしてこの空間そのものが常温となっていた。
「ここまでやるとは・・・予想外ですねぇ~」
魔族から感嘆も声が漏れた。
「その余裕もここまでだ!!この野郎!!」
セルゲイが怒鳴りながらバスターソードを振り下ろし、ダミアンが剣を横薙ぎに払った。
「!?ナッ!!??」
魔族はバスターソードとロングソードを右手と左手を使って1本ずつ受け止めていた。
「効果が広範囲に及ぼさなくなっただけで、私の力がなくなった訳ではないのですよぉ~私に触れると言うことはぁ~・・・こういう事です!!」
魔族が少し力を込めたように見えた。
一瞬でバスターソードとロングソードが凍りつき、そのままセルゲイとダミアンも凍りついてゆく。
「やべえ!!」
セルゲイとダミアンがあわててバックステップを踏んだ。
バスターソードとロングソード、さらに二人の篭手までが砕け散る。
辛うじて二人の両手は無事だった。
篭手の部分がなくなり二人とも素手になってしまってはいたが・・・
魔術師達の攻撃魔法が一斉に飛んだ。
しかし、翳された両手に無効化されてしまう。
俺も『スーパーノヴァ』をぶつけて見たが、簡単に無効化されてしまった。
ならば・・・と振り返り、出口を塞いでいる分厚い氷の壁をファイヤー・ノヴァで攻撃した。
が、氷の壁は魔法を全く受け付けなかった。
「無駄ですよぉ~。その氷は私と繋がっているので、私を倒さない限り溶けません~」
魔族はやれやれという仕草で、首を横に振り、肩を竦めた。
「面倒ですが一人ずつ片付けて行くしかないですかねぇ~」
魔族はゆっくりとした歩調でこちらへ近付いてくる。
それに呼応する様に、サラサとアイオロスが突進して切りかかった。
魔族は先程のように、両手で剣を受け止めようとしたが、二人はうまくそれを避けて、魔族の身体に剣を突き刺す。
が、刺さった剣はすぐに凍り始め、二人は剣を手放して下がるしかなかった。
「無駄ですよぉ~」
魔族はさらにこちらへと歩みを進める。
そこへ炎系と闇の魔法が連続して放たれた。
相変わらず無効化されてしまうが、魔族の歩みは止まる。
その隙にエリーがファイヤー・ノヴァを放った。
再び魔術師からの攻撃魔法が連続で魔族を襲う。
とにかく足止めをするのだ。
何故ならば、エバートンが再びスクロールを取り出して、術式を組み始めたからだ。
足止めならば・・・俺は15連発の魔法を発射する。
効果など皆無なのだが、足止めには最適だ。
その後、エルザがレイピアを旨く使い、魔族を牽制した。
エルザの剣速はレイピアの剣先が凍りつく前に引き抜かれ、再び突き刺すという芸当をやってのけている。
その芸当も魔族が掌でレイピアを受けるという手段で終わりを告げた。
レイピアは即座に凍りつき、エルザはすぐさま手を離し、自身の腕を守るため身を引いた。
「完成だ!!今一度、魔法攻撃をして、魔族の目を逸らせ!!」
魔術師がそれに応え、攻撃魔法の雨を降らせた。
「ヒデキ殿『不可視』を使い、奴の側でこの魔法陣の発動を!!」
「分かりました、奴に目に物見せてやりましょう!!」
俺はスクロールを受け取り『不可視』を発動させた。
そのまま魔族へ向かって、こっそりと歩いてゆく。
魔族の側まで行き、スクロールを広げようとした瞬間、魔族に腕を掴まれた。
「残念ですがぁ~あなたの技はききませんよぉ~」
魔族はにやりと笑いながら言った。
「エッ!?」
俺は驚いて声を上げてしまった。
決して捕まれるはずのない。腕を掴まれたからだ。
「ヒデキ様!!」
エリーが叫び物凄いスピードで駆け寄って来た。
どうやら『不可視』は完全に破られてしまったらしい。
エリーが俺を庇うように抱きついた瞬間に、魔族は俺を冷気で覆った。
「きゃあ!!」
エリーが弾き飛ばされ、床に転がる。
全身が凍りついていた。
俺は急激に体温が奪われ、意識が飛びそうになる。
「ヒデキ!!」
「ヒデキ殿!!」
セルゲイとダミアンの声が遠くで聞こえた。
その時だった。
エリーの肩に止まって、あたかもアクセサリーのように振舞っていた毛玉が急に動きだしたのが横目で見えた。
動き出した瞬間、毛玉は一挙に分裂を開始した。
その数はあっと言う間に100を超え増え続ける。
そしてエリー、俺、魔族に引っ付き始めたのだ。
冷えていた身体が急に暖かくなる。
エリーの氷もすぐに溶け、エリーの顔に血の気が戻って来ていた。
そして毛玉に取り付かれて全身を覆われた魔族は・・・
「何だ?こいつは?私の魔力を吸い上げてゆくだと!?しゃらくさい!!凍ってしまえ!!」
魔族が余裕の口調でなくなっていた。
毛玉は凍らされ、床に落ち砕けるが、すぐに分裂した別の毛玉が魔族を覆ってしまう。
俺はその隙に気力を振り絞り、スクロールを広げ魔法陣に魔力を込めた。
魔族の身体が一気に燃え上がった。
「この程度の炎が切り札ですか!?」
魔族はすぐに炎を消す。
しかし再び炎が魔族の身体を焦がし始める。
「消えないだと!?おのれ!!おのれ!!」
魔族は再び炎を消す。
その瞬間に今度は毛玉がまとわりつき、魔族の魔力を吸収する。
毛玉を凍らせて、毛玉を振り払う。
すぐに身体が燃え上がる・・・
この繰り返しだ。
先程俺達が経験させられた、消耗戦を今度は魔族自身が味わっているのだ。
「たかだか人間のちっぽけな魔法で、この僕が・・・」
燃え上がる、炎を消す、毛玉が取り付く、凍らせて振り落とす。
このループ暫く続き、最後に魔族の身体が崩れ落ちて燃え尽きてしまった。
長時間に渡る戦いは、ようやく終わったのであった。
最初の「スタートレック(宇宙大作戦)」のエピソードでトリブル騒動という話がありまして、毛玉のような生物がエンタープライズ内で分裂を繰り返し、エンタープライズを埋め尽くしてしまうのです。
最後はクリンゴンの宇宙船に転送して、押し付けてしまうという落ちでしたが、今でも覚えていて、一度使ってみたいネタだったのです。




