情報
ようやく歩き始めた主人公達ですが、今回は情報整理だけのお話です。
大草原を東に向かって歩きながら、俺はノーマとエリーに質問を続けていた。
この大草原はサテラ大草原。
今俺達が目指しているのは、ダウの森。
森と言う名前だが、入ると陽が差し込まない、鬱蒼とした樹海らしい。
ダウの森を抜ければ、すぐに開拓村があり、その先にブルネルという街がある。
ブルネルはサテラ草原、ダウの森を含めた地方の名前でもあり、ブルネル地方を貴族が治めている。
ブルネルはザイツデンという国の一地方だと言うことだった。
では、この星(世界)は何と言うか?と聞くと、どうも『星』という概念がなかったみたいで、二人とも「????」だった。
グローバルな世界として、ここは「ザナ」という大陸らしいことは分かった、大陸の周りは大きな湖(きっと海だ)に囲まれ、果てまで行った者はいないと言うことだった。
世界観は、大航海時代以前の中世と言ったところかな?
恐らくだが、他にも大陸があるのではなかろうか?
この世界に季節が存在するのかと言うと、普通に存在するらしい。
今の季節は、この世界での初夏に当たるらしく、過ごしやすい季節だと言う。
あと30日も経てば、暑くなり、真夏に突入するらしい。
一年は360日で、俺のいた世界と同じく一ヶ月30日で12ヶ月に分かれている。
一年のうち、今は6番目の月らしい。
一日は日の出から日の出の時間をスマホで計ってみたら、およそ24時間だった。
文明レベルは、科学医学と言う分野はなく、魔法学という学問に統合され発達している。
まさに剣と魔法のファンタジー世界を地で行っている世界だ。
ノーマは森と草原を行ったり来たりして、暮らしていたと言うことだった。
そのわりに人間の街とか人間界に詳しいと思ったら、500年以上生きている妖精だと言われた。
知識も豊富なはずだ。
ブルネルに街が出来る前は、人里にも結構顔を出しては、妖精事件を起こしては遊んでいたと言う。
妖精事件とは、わざと姿を目撃させたり、足跡だけ残したり、人間の小物を隠してしまったり、と言ういたずらである。
この世界では妖精は高価な商品として取引されるため、人々は妖精を捕まえようと躍起になる。
ノーマはそれを逆手にとって遊んでいたのだ。
ブルネルが街になり、道路も整備され、人口が増えると、ノーマは人里に近付かなくなり、ダウの森とサテラ大草原を行き来する生活に変わって行った。
普段は、下位種族のピクシー達とおもしろおかしく遊んで暮らしていたと言うことだだった。
一昨日森と草原の境あたりで、透明なスライムに捕まり、消化されるのを待つばかりだったらしい。
危機一髪だった。
エリーはというと、あまり自分の記憶がないらしい。
いつの間にかブルネルのどこかで人間に飼われていたと言う。
記憶がないのに、元々色々な知識があり、最初から人語は理解できたそうだ。
人語だけではなく、たいていの魔物や動物の言葉が理解できる事に逃げ出してから気付いたそうだ。
しかし、その人間はエリーを実験動物だと思っていたらしく、檻の中に閉じ込め、毎日微弱な電撃や炎を浴びせたり、冷風にさらされたりしていて、辛かったと、エリーは語った。
会話もできないし(俺みたいに念話が通じなかったらしい)、隙を見て檻から逃げ出し、町の中を逃げている最中に何かに衝突。
気が付くと俺と出会った場所にいたらしい。(俺と少し状況が似ているな)
町で30日ほど逃げ回っていた時に、飲まず食わずだったらしく、ここに来た時は空腹で動けなくなっていた。
とてもじゃないが、狩りをする元気はなく、飢え死を待つばかりだったそうだ。
(ヒデキ様から食料を分けていただかなければ、私はそのまま力尽きていたことでしょう。)
ノーマは森を抜けるまでだが、エリーは俺と一緒に来てくれるらしい。
この世界の常識を一切知らない俺にとって、とても有難いことだった。
(エリーは一生ヒデキ様について行きます)
忠犬ならぬ忠龍といったところか?
まあ当面の知識はある程度得た。
俺が何故ここにいるのか?地球へ還る方法はあるのか?
そんなことは後回しだ。
まず生きて行かなければならん。
この前も同じこと言ったな。
そう言う事だ。
(ヒデキ様、獲物がいます。少々お待ち下さい)
横を歩いていたエリーが、急に駆け出して行った。
エリーの生体センサーは的確に獲物の位置を捉えることが出来るみたいだ。
ものの1分もかからずに、エリーはレッサーラットを咥えて戻って来た。
哀れ鼠君は、喉笛を噛み切られ、お亡くなりなっていた。
(今晩の食事、確保いたしました。)
エリーは有能だ。
もはや食料で困ることはない。
「なかなか大きなレッサーラットだな。明日の朝と昼もいけるな!偉いぞ!エリー!」
(もったいないお言葉です。)
エリーが謙虚に、はにかみながら答えた。
丁度夕暮れ時になったので、今日はここで休むことにする。
バッグを降ろし、上着を脱いで、周りの草を踏みしめて野宿する場所を確保する。
平らに踏みしめた草の上に、新聞紙をしいている間に、少し離れたところでは、エリーがごくごく威力の小さいファイヤ・ブレスで先ほどの獲物を焼いていた。
焼き具合の調整が出来るなんて、素晴らしいブレスの能力だ。
(ヒデキ様、焼けました~)
「上手にか?」
(えっ?)
「いや、冗談だ、すまん」
心に余裕が出てくると、冗談も出るようになる。
食事が終わり、くつろいでいる間に、自分の持ち物の確認をした。
複数の満月が夜空に輝き、光源としては充分だ。
新聞紙の上に、ショルダーバッグ、上着、ズボンのポケットに入っていた物まで全部出して並べた。
まずショルダーバッグから、会議用の時に使うA4サイズのレポート用紙100枚綴り93枚・3色ボールペン2本・システム手帳1冊・スマホ用ソーラーシステム充電器・40ギガバイトのスマホ用SDカード・消しゴム付きシャープペンシル1本、中に芯が6本・マーカーペン1本・カロリーメイト1箱(4ブロック)と1ブロック・認印と朱肉・読みかけの文庫本・スポーツ新聞・ペットボトル500ミリリットル・B5サイズノート40ページ1冊・カッターナイフ1本・修正ペン1本・スティック糊1個・ホッチキス1個・ホッチキス替え刃小1箱・使い捨ての剃刀1個
上着のポケットから、スマホ・ハンカチ
ズボンのポケットからポケットティッシュ・財布・名刺入れ
財布から、クレジットカード2枚・ス○カ定期1枚・各ポイントカード5枚・牛丼屋の割引券1枚・1万円札3枚・5千円札1枚・千円札4枚・500円硬貨1枚・100円硬貨6枚・10円硬貨7枚・5円硬貨2枚・1円硬貨4枚
名刺入れから、自分の名詞12枚・取引先の名詞23枚。
壊れた折りたたみ傘1本。
以上が俺の全財産だ。
この世界で使える物、まったく使えない物も含めて、なんとか生き抜いてやる。
「ねーねーヒデキ!これ、な~に?教えて~」
決意の緊張が一気に崩れてしまった。
ノーマがクレジットカードを持ち上げて、不思議そうに見ていた。
また、説明し辛いものを!
「ノーマ、それは俺の国ではお金の代わりになるものだ」
「へ~、ヒデキの国って便利ねえ」
(ヒデキ様!ヒデキ様!これはヒデキ様のお国の紙幣と硬貨ですか?すばらしい印刷技術です、しかもこの紙幣に使われている紙、どうやればこのようになるのでしょうか?さすがはヒデキ様のお国です!!)
「その紙は和紙と言って、特別な作り方で、破れにくくするんだ。印刷も特別な染料が使われていて、偽札を作りにくくしている・・・」
エリーはいい所に目をつけているな。
まあ、その紙幣も紙幣としては使えないけどね。
こうやって、ノーマとエリーの質問に答え続けて夜は更けていった。
世界観の説明をしましたが、ぶっちゃけ、月の数と文明、魔法、魔物以外は地球と一緒です。
持ち物は、今後、以外な所で役に立ちます。