名前
前回の予告、完全に間違ってました。
反省しています。
翌朝、日の出と供に目覚めた。
スライムとの激闘の疲れからか、短時間なのにぐっすりと眠ることが出来た。
ゲームと違ってスライム1匹倒すのに両腕骨折、両肩脱臼、両足膝関節捻挫。
スペランカーか?俺は?
現実の恐さを思い知った昨晩だった。
スライムに転生した者はいるけれど、スライム1匹倒すのに、ここまで苦労した奴は俺だけだろう。
・・・倒したのはサラマンダー君だが・・・
妖精を助けて満身創痍になった。
あやうく寝たきりになるところだった。
しかし、助けた妖精に回復治療をしてもらえたので、忘れよう。
もっと差し迫った問題があるのだから。
当面は食料問題、人がいる場所を探す、ここは何処か?諸々問題ありすぎてやばい。
とりあえず空腹をなんとかしたい。
そう思って、バッグの中からカ◎リーメイトを取り出そうとしていたら、燃え残ったスライムの残骸から、先に目覚めていたサラマンダー君が何かを咥えて持って来た。
(マスター、これを食べましょう。スライムが死んで、消化途中になっていたレッサーラットの肉です。ブレスで丁度蒸し焼きになっていました。)
「ラット?食えるのか?」
(よく焼けています。食べられますよ)
サラマンダー君は食料を探していたのか?
なかなか優秀だ。
劣化鼠?にしては肉の塊は牛肉ワンブロックくらいの大きさがあった。
ふーむ、ヌートリアかカピバラのような動物かな?
まあいいや、サラマンダー君が言うように、火が通っているようだし、腹を壊すこともないだろう。
なんにせよ、非常食(カ◎リーメイト)を消費せずに済むのは助かる。
寝床にしていた新聞紙の上に胡坐すわりをして、肉はバッグに入れてあったカッターナイフで、拳大の塊を2つ切り出した。
一つをサラマンダー君に、もう一つは手づかみでかぶりついた。
調味料がないのが残念だが、所々焦げていてその苦味が味付けとなり、食べられないレベルではなかった。
生きるためには贅沢は言っていられない。
ここは俺がいた文明社会ではないのだ。
いや、もしかしたら人が住んでいる所へ行けば、文明社会が広がっているかもしれないが。
もそもそと二人で焼肉を食べていたら、妖精が起きて来た。
妖精は脱いだ俺の上着の胸ポケットをベッドにしていたのだ。
「やあ、おはよう、君も食べるかい?」
「おはよ~。いらないわ、私、固形物は必要ないの。朝露で充分よ」
「ほう」
「見ていてね!」
妖精は人差し指を立て、目を閉じ、右手を頭上に上げた。
水色の光が指先に点ると、綺麗な水球が出現し、大きくなっていく。
妖精の顔の大きさになった水球はふわふわ宙に浮いている。
その水球に口をつけて、妖精はおいしそうに飲み干した。
「はい、食事終わり!!」
「早!!」
なんと安上がりな!!
妖精とは、なんと経済的な存在なのだろう!
「その力は朝露を集めるだけかい?」
「ん?いいえ、朝露だけじゃなくて、周りにある水なら何でも集められるわよ。朝露は魔力が含まれていておいしいから、朝露にしただけ。」
「その力を使うのって、大変かい?」
俺は妖精に顔を近づけて、真剣な面持ちで尋ねた。
妖精はちょっと面食らったような顔をした。
「全然大変じゃないわよ。これは私たち妖精族が生まれながらに持っている能力で、魔力は必要ないのよ。それがどうかしたの?」
俺は、あわててバッグからペットボトルを取り出し、中に少しだけ残っている水を飲み干し、空のペットボトルを妖精の前に置いた。
「この中を朝露でなくてもいいから、水でいっぱいに出来るかい?」
「へえ、不思議な入れ物ね?ガラスと違って、やわらかいし、何で出来ているのかわからないわね。ま、いいか。羽が生えそろうまで守ってもらうし、持ちつ持たれつ行きましょう」
「おお!頼むな!!」
妖精はペットボトルを抱き締めるように両腕を回した。
一瞬水色の光が見えたが、光が収まると、ペットボトルの中は一杯になっていた。
「ありがとう、これで水の心配はなくなったよ」
(この草原ならレッサーラットも多くいるでしょう、食料も問題ありません)
その鼠の肉をぺろりとたいらげたサラマンダー君が助言してくれた。
ん?この子は飢え死しかかっていたよな?
何かのっぴきならない事が起こって、鼠も捕まえられなかったのだろうか?
色々わからない事が多いが、一つずつ整理して行こう。
「よし、少し情報を整理しよう。あ、その前に名前が知りたい。俺は樋口英貴君達の名は?」
「名前?私はないわ」
(私もありません、名前をいただいてはおりません)
あれ?何か変だな?
二人(一人と一匹かな?)とも知性がある種族っぽいのに名前がない?
名前がないと不便だな。
ならば・・・
「そうか、じゃあ俺が名前をつけてもいいかな?」
「え?名前をくれるの?」
(よろしいのですか?マスター?)
「ん?いいよ、今考えるからな」
名前に特別な意味でもあるのかな?
まあいいか・・・・
さて、まずはサラマンダー君から・・・
じっと見つめると、サラマンダー君は恥ずかしそうに目を伏せた。
最初に会った時も思ったけれど、本当に色っぽいんだよな、このサラマンダー君。
今は綺麗なライトグリーンだけど、攻撃色は赤だし、色の名前な無理があるな。
女の子みたいだし、そうだな、昔好きだった女の子の名前をもらおうか。
「君はエリコ、いや、エリーでどうだい?」
(エリー!・・・こんな良い名前、ありがとうございます。マスター!!)
「マスターは照れくさいよ、ヒデキで良いよ」
(はい!有難うございますヒデキ様!!)
エリーは凄く嬉しそうだ。
俺の膝頭にすりすりと頭をこすり付けて来る。
「次は妖精君か・・・」
掌の上に乗せてノーマを間近で見た。
首をかしげてこちらを見上げている妖精をまじまじと眺める。
それにしても、凄いプロポーションだな、しかも全裸とか、変な気分になってくる。
ダークグリーンのボディペインティングをしたグラマーな美女が、目の前に3Dホログラムで小さく投影された感じだ。
この色っぽさは尋常じゃない。
ならば・・・
「決めた!君の名前はノーマでどうだい?」
マリリンでモンローだった往年のセックスシンボルだった女優の本名だ。
「ノーマ、ノーマ、ノーマ!!うんっ!気に入ったわ、ヒデキ!ありがと!」
ノーマは全身を震わせて、喜んでいた。
人間の大きさなら、さぞやブルンブルンとバストが上下に揺れたことだろう。
「じゃあノーマ、聞きたいのだけど、人間がいる方向はあっちでいいのかい?」
俺は朝日が昇って来た方向を指差した。
「うん、正解よ。あちらに2日くらい飛ぶと、今は飛べないから、人の足で5日くらいかな、行けば森があって、森を抜ければ人間の村があるよ。」
「森を抜けるには、何日くらいかかる?」
「うーん、だいたい30日くらいかな?私の羽が生えそろうくらいだと思う。」
「なるほど。じゃあ、森を抜けるまで一緒に行こう、エリーはどうする?」
(もちろんヒデキ様とご一緒させて下さい。)
「わかった、俺はここに来たばかりで、ここのことは何も知らない。歩きながらでいいから、二人とも色々教えて欲しい。」
「いいわ!!まかせて」
(承知いたしました。私のお答えできる事なら、なんなりと!)
よし、村ある方向が確定した。
これで迷うことなく、進んで行ける。
俺は、ペットボトルをバッグに入れ、しばらく考えてから、残ったレッサーラットの焼肉を新聞紙一枚で包み、残りの新聞紙を折りたたみ、同じくバッグに入れた。
壊れて折れ曲がってしまった傘は、熟考した後、できるだけまっすぐに伸ばして、手で持って行くことにした。
何かの役に立つかもしれない。
スーツを着て、ショルダーバッグを肩に襷がけにして、準備万端だ。
「さあ行こう!!」
俺達は朝日が昇る方へ歩き出した。
ちなみにノーマは俺の胸ポケットだ。
前回後書きで、旅が始まるような事書いたのですが、始まりませんでした。
申し訳ない。
プロットは30話まで出来上がっているのですが、5話の内容がぽっかりと抜けていました。
ちゃんと確認しないとだめですね。
気をつけます。次回こそ旅が始まります。