第3階層
暑いですね、皆様ご自愛を。
エバートンの的確な指示と魔方陣術式のおかげで、第2階層は脱落者を一人も出すことなく、突破できた。
俺達は今、第3階層入り口にいる。
「デトレフ殿、このホットライン魔方陣に手を・・・」
「こうですかな」
「そう・・・」
魔方陣が一瞬光った。
「これでデトレフ殿とも離れても話が出来る。これを・・・」
エバートンはローブの内ポケットからシルバーのブレスレットを取り出し、デトレフさんに手渡した。
デトレフさんはすぐにブレスレットを左手に嵌めた。
「今回は分岐した場合最大に4手に分かれる、アイオロス、サラサ、デトレフ殿、そして私の4手だ。分岐での矢印は必ず署名するように、そしてこれ以上はチームを分けないように。」
攻略組全員にエバートンの指示が飛ぶ。
「今から私の指示を待ってサラサ、アイオロス、デトレフ殿のチームが間をおいて出発する。ボス部屋の手前領域ボスのエリアにたどり着いたチームは私に連絡、すぐに他のチームに私から連絡する。もちろん私がたどり着いても同じだ。何か質問は?」
アイオロスが発言した。
「領域ボスとは単独で戦っても良いのですか?」
「第2階層の領域ボスでも、単独チームでは苦戦する。戦力の消耗を防ぎたいので、我々が到着するまで待機だ」
「承知しました」
「万が一脱出不能の危機に陥った場合は、タイムロスを気にせずに連絡をするように、戦力の減少が最終的はロスタイムが大きくなると肝に銘じておきたまえ!!」
エバートンの立て板に水を流すような説明が終わる。
「他に質問は?・・・ないようならば、これより第3階層攻略を開始する!サラサ隊出発!!」
「中隊前へ!!突入!!」
サラサがガウラン辺境伯私設騎士団左翼中隊を率いて、第3階層の入り口へ入って行った。
しばらくして、アイオロスが出発の準備を始めた時、サラサからホットラインがエバートンに来た。
魔方陣にサラサのホログラムは浮かび上がる。
「どうした?サラサ?」
「エバートン様、最初の分岐が4つになっています」
「!?そうか・・・これはアリの巣ダンジョンか・・・報告ご苦労!そのまま進め!」
「了解です!!」
サラサのホログラムが消え、エバートンが魔方陣のスクロールをしまった。
「サラサの報告により、第3階層はアリの巣ダンジョンであることが判明した!これより全チーム突入する!」
エバートンが素早く命令を変更し、全員が第3階層に突入した。
アイオロスが率いるガウラン辺境伯私設騎士団右翼中隊、エバートン率いる親衛隊、デトレフさん率いる冒険者チームの順番に進む。
「デトレフさん、アリの巣ダンジョンって何ですか?」
「ああ、アリの巣を掘り出して見ると、複雑に道が分かれているのに例えて、分岐が多いダンジョンのことを言うんだ。戦力が分散して、被害が出易い」
「攻略に時間がかかりそうですか?」
「普段ならそうだが、エバートン殿のホットラインがあるからな、4チームのどれかが正解を見つければ、すぐに駆けつけられる」
「エバートン参謀の魔方陣・・・凄いですね」
「うむ、彼は魔族を全て滅ぼすことを目標に、生涯をかけて研究している。常に新しい武器や魔方陣を開発しているのだ」
「魔族を滅ぼす・・・そこまでの思いはどこから来るのでしょうね?」
「彼はブルネルの片田舎の育ちだが、彼の村は魔族に滅ぼされた。家族も友人も全て殺された。彼が王都の魔法大学で学んでいた時のことだ。大学で天才と謳われていた彼は王城での仕官を蹴り、ガウラン辺境伯に仕え、魔族への復讐に全てを捧げたのだ」
重い話だ。
彼の魔族に対する思いは、並々ならぬものがあるのだろう。
エリーの事は伏せておいて、彼の屋敷で一度話をしてみたい。
俺の正体を明かしても魔方陣を写真に撮らせてもらいたいものだ。
サラサから報告のあった分岐にはすぐに着いた。
ここで3チームに分かれてダンジョン攻略に挑むことになる。
4つに分岐した道、サラサは左に進んでいる。
残り3つの道、左からアイオロス、エバートン、そして俺達が一番右で進むことになった。
ここからは、シルバーファング、ゴールド・エクリプス、デトレフさん、俺とエリーでダンジョンを行く。
ベッツとローラが先行して、罠を探知しながら、ゆっくりと進む。
暫く進むと、モンスターと遭遇した。
リザードマンソルジャーの団体だ。
数は20体、鉄兜に青龍刀、安普請な木の盾を持っていた。
俺、エリーのファイヤー・キャノン、リーナのファイヤーボールが先制する。
5体のリザードマンが吹っ飛び、周りのリザードマンが怯んだ。
その隙にデトレフさん、クラウス、エルザが切りかかり、リザードマンを倒して行く。
苦戦することなく、殲滅した。
何事もなかったように再び進み始める。
「ヒデキ様、この先に数えきれないほどの魔物の気配が感じられます」
「本当か?魔力はどうだ?」
「かなり大きな魔力です!」
俺はすぐにデトレフさんに進言した。
「デトレフさん、この先に大きな魔力を持った魔物が多数潜んでいるみたいです!エリーが探知しました!」
「エリー殿が?・・・皆止まれ!この先にモンスター溜まりがあるそうだ!エリー殿が感知した。モンスター溜まりに行き着くまでに分岐がなければ、この道ははずれだ!」
「エリーさんが?さすが!!」
エリーの探知能力はレイト村での調査で証明済みだからな。
あれがあったから、皆、信用してくれる。
「ここから先はより慎重に進むように!!エリー殿、ベッツとローラと並んで先行してくれ!魔物溜まりがいよいよ近付いてきたら声かけを頼む」
「分りました」
3人の先行で歩くこと5分ぐらい、
道が2つに分岐していた。
「エリーさん、魔物溜まりはどちらの道か分る?」
「はい、左に行けばすぐです」
ローラの問いにエリーが答えた。
ローラがエバートンさんの方を見た。
「右にいくしかないが、どうも気に食わん。やはりこの道は、はずれのような気がする・・・皆、最大の警戒で進め!!」
デトレフさんの言葉に皆が緊張した。
右に矢印を描きデトレフさんが署名、左には×をつけた。
ベッツとローラはより慎重に進んで行く。
俺はスマホの画面を連続攻撃の画面に切り替えた。
「はずれのような気がするとは?何か根拠があるのですか?」
俺はデトレフさんに聞いた。
「ん?勘・・いや、経験からくるものかな?あからさまに危険を避けられる道があった時、避ける道のほうが、より危険な罠がある場合があるのだよ」
「一度エバートン参謀と相談してみてはどうです?」
「そうだな、暫く進んで、ある程度探索が進んでから、相談してみよう」
それから1時間ほど、少数の魔物を撃退しながら探索を続けた。
途中何度か分岐があったが、左を選ぶと、必ずすぐに行き止まりになり、引き返して右を選ぶことになっていた。
「一旦休憩だ、警戒しながら休んでくれ!」
デトレフさんはそう言って立ち止まり、皆はパーティごとに休憩の陣形を組み座った。
その陣形は、パーティの五人が背中合わせに円になり、360度警戒ができるようになっている形だった。
俺とエリーはデトレフさんがエバートンと話すのを警護するため、前後に立った。
デトレフさんがエバートンから受け取ったブレスレットに魔力を込めた。
「デトレフ殿、いかがなされた?緊急事態でも起きましたかな?」
魔方陣がないため、ホログラムは浮かび上がらなかったが、エバートンの声がブレスレットから聞こえた。
「緊急事態ではないのですが、どうもこちらの選んだ道は罠のような気がしましてな」
「根拠は?」
「魔物溜まりが確認されまして、その直前で分岐があり、その後右へ右へと誘導されているのです」
「魔物溜まりが・・・まだ第3階層だが、このダンジョンはその10倍の階層にいると想定したほうが良いレベル・・・警戒をするに超したことはない・・・デトレフ殿、ほぼ罠だと判明した場合、引き返して良い。貴殿のチームを損耗させる訳にはいかん」
「承知した、暫くこのまま進むことにします」
「うむ、くれぐれも無茶はせぬように、それでは・・ご武運を!!」
ホットラインの通信が終わった。
「皆、聞いていたと思う。罠だと思えた時点で引き返す!!では再開するぞ!!」
全員素早く立ち上がり、元の隊列に戻って進み始めた。
しかし、この後、俺達はとんでもない事態に巻き込まれる事になる。
お話作りとしては、そうそうトントン拍子には進ませません。




