狂戦士
ダンジョンや魔物の解釈に異論はあるでしょうが、この世界はこうだという認識でご容赦下さい。
ヴァンパイヤの奇襲で俺はいきなり首を絞められ、持ち上げられていた。
「ヒデキ様を放せ!!」
エリーがヴァンパイヤの腕を狙いファーヤー・キャノンを極細の光線にして放った。
ヴァンパイヤは意に介さない。
「どけ!エリー!俺がそいつの腕を叩き切ってやる!!」
セルゲイがバスターソードでヴァンパイヤの腕を切ろうとするが、剣に当たった部分だけが、霧となり、バスターソードは床を叩いた。
「ちくしょう!!ヒデキ!!しっかりしろ!!」
「ヒデキ様!!」
エリーとセルゲイの声に、俺は気力を振り絞り、ポケットのスマホに魔力を込めた。
至近距離で対アンデッド用の魔法が発動した。
「!?何だと!!」
ヴァンパイヤは初めて苦悶の表情を浮かべ、俺の喉から手を離した。
俺の体は床に落ち、右肩を強かぶつけた。
その激痛のおかげで、意識がはっきりした。
起き上がり辺りを確認する。
ヴァンパイヤは玉座の方に戻っていた。
全体を見渡すと戦況が見えて来た。
石像は2体が倒され、残りの3体も腕を数本落とされて、ぼろぼろで最早勝負アリ。
エルダーリッチはいつの間にか全て滅ぼされ、そこに存在したという証は床に落ちているローブだけだった。
ヴァンパイヤが召還した人狼5匹が前衛と戦闘を繰広げている真最中で、それも完全にこちらが押していた。
このままいけば、玉座にいるヴァンパイヤ以外なんとかなる!!
そう思った時、ヴァンパイヤが再び動いた。
凄まじい数のブラックウルフ、吸血蝙蝠を召還したのだ。
その数は100対以上・・・いや200以上か・・・
「敵ヴァンパイヤは真祖と判明!!眷属を撃破した後、総攻撃をかける!!」
アイオロスの声が響き渡る。
それに答えて、デトレフさんの声も飛んだ。
「後衛、眷属を攻撃しつつ、ヴァンパイヤに対して牽制攻撃を頼む!!」
それに応えて、リーナ、ライサンダー、ライザ、エリーが、それぞれ得意な攻撃魔法を召還された眷属の群れに打ち込んだ。
リーナはファイヤーボール、パワーボムのライサンダーはライトニング・ボルト、ゴールド・のエクリプスのライザはストーン・キャノン、エリーはファイヤー・キャノン・・・
騎士団の後衛3人からもファイヤーボールが放たれ、召還された眷属たちの数を大幅に減らした。
俺は同じ魔法を打ち込んで、ヴァンパイヤを牽制する。
俺の攻撃を簡単に避け、ヴァンパイヤは不敵に笑った。
また何かやる?と思った時、騎士団の後衛から攻撃魔法がヴァンパイヤに飛んだ。+
これがS級のレイド戦・・・声を掛けなくても連携が取れている!
前衛のセルゲイ、エルザ、クラウス、アイオロス、デトレフさんは、淡々と眷属を減らして行く。
俺も含めて、ヴァンパイヤへの牽制も魔術師同士でうまく連携が取れている。
しかし、かなりの眷属が減ってきた時だった、ヴァンパイヤは一切動きを見せなかったにも関わらず、敵が出現した。
出現と言うか、玉座の後ろ左右にあったでかい像が動き出したのだ。
でかいので、てっきりオブジェだと思っていた。
向かって左はサイクロプス、右はグリフォンだった。
どちらも5メートルはあるだろう、巨大な青銅の像だ。
「「一旦下がれ、体勢を立て直すぞ!!」」
アイオロスとデトレフさんの声が同時に響いた。
前衛の面々が後衛のすぐ前まで下がる。
前衛が下がった時、ヴァンパイヤが召還した眷属たちは、ほぼ殲滅されていた。
だが、ヴァンパイヤの前にゆっくりと回りこんで来た青銅の化物二体をどうにかしなければ、攻略はおぼつかない。
「しかし、このダンジョンは異常だ、第1階層でこの配置は普通ありえない」
アイオロスが冷静に分析している。
サイクロプスとグリフォンに動きはない。
「何故あの2体は攻めて来ないのでしょう?」
俺はデトレフさんに聞いた。
「ダンジョンは基本守れば良い、時間が経てば経つほどダンジョンは成長し、手に負えなくなるからな」
「ダンジョンが成長し続けると、どうなるのでしょう?」
「百階層以上成長したダンジョンは、魔物があふれ出す。その被害は、人が生活する街へ及ぶようになる。ここは辺境なので、放置はそのままここが、魔界となることになる」
俺が考えていたよりも重大事のようだ。
「隊長さんよ、あと少しすれば、増援が来るよな?」
「ダンジョン出現の報告は、ガウラン辺境伯に届いている。すぐに騎士団と冒険者パーティの増援が来るはずだ」
「なら、俺がリタイアしても問題ないな・・・奥の手使って良いかい?」
セルゲイがデトレフさんに許可を求めた。
「ふむ、アイオロス殿、この階層はこちらに譲っていただけるかな?」
「かまいませんよ、我等の目的はあくまでもダンジョン攻略です。セルゲイ殿がそれで良いなら・・・」
「よし、皆、少し下がっていてくれ」
セルゲイが前に出る。
バスターソードを構え、腰を落とした。
セルゲイが前に出たところで、サイクロプス、グリフォンがセルゲイに襲い掛かってきた。
その瞬間セルゲイの身体から、物凄い闘気がほとばしり床の埃が舞い上がった。
セルゲイはサイクロプスの振り下ろす棍棒を受け止め、グリフォンの爪を足首から切り落とした。
そのままバスターソードを1回転させ、サイクロプスの左足首に叩き込む。
足首はあっさりと叩き折られ、サイクロプスはもんどりうって、倒れた。
そこでセルゲイは止まらない、倒れたサイクロプスの単眼にバスターソードを突き刺し止めを刺す。
それを引抜き、足首を失ってバランスを崩しているグリフォンの首にバスターソードを叩き込んだ。
首は皮一枚を残して、垂れ下がり、グリフォンはどうっと地響きを立てて倒れた。
「凄い!!・・・」
俺は思わず唸ってしまった。
「あれがセルゲイの奥の手・・・狂戦士だよ。自分の生命エネルギーを一気に爆発させ、相手を殲滅するまで止まらない。ただしあれを使ってしまうと1週間は動けなくなる」
「一週間も・・・」
「そうだ、その代わり、ほらご覧、この階層の攻略は決まったよ」
デトレフさんが落ち着いて解説してくれた。
セルゲイは2体のモンスターを倒し、ヴァンパイヤに切りかかっていた。
ヴァンパイヤは当然のように霧状になって、バスターソードを素通りさせる。
バスターソードはそのまま玉座を破壊した。
返す刀で、霧状になっているヴァンパイヤに切りつける。
いつの間にか、ヴァンパイヤとセルゲイは5メートル四方の結界に囲まれていた。
パワーボムのキュロスが、アンデッドだけに使えるヒーリングを応用した結界を張り巡らせたらしい。
いかに真祖とは言え、ずっと霧状でいられる訳にはいかない。
しかもアンデッド用の結界に囲まれ、遠方への回避も不可能だ。
セルゲイは1週間分の力を今使っている。
相手が全て倒れるまで止まらない。
30分程セルゲイは暴れ続け、ヴァンパイヤは逃げ続けたが、最後セルゲイのバスターソードに胸を貫かれた。
そのままヴァンパイヤを串刺しにしたまま、セルゲイは動きを止めた。
ヴァンパイヤは暫く痙攣をしていたが、力尽き、さらさらと灰になり、その姿が崩れていった。
壊れた玉座の奥の床が開き、いつの間にか下り坂の道が出来ていた。
パワーボムのラザロスがセルゲイを背負い、他のパワーボムのメンバーも帰還の支度をしていた。
「セルゲイよくやってくれた、これで速やかに次に進める。1週間充分な休養を取ってくれ」
「ああ、後はまかせますぜ、デトレフさん。このダンジョンかなりやばいから、慎重な攻略を・・・」
「うむ、騎士団もいることだし、素早く慎重に攻略を進めることにする・・・ではパワーボムの諸君、ご苦労だった」
「それではダンジョン攻略チームの皆さん、パワーボムは一度帰還します。ご武運を!!」
パワーボムの面々が帰還していった。
ようやく第1階層突破である。
ようやく第1階層突破です。
最初なので、じっくりと描写して行きましたが、この後は状況に応じて省略します。




