エバートン
この物語の要となる人物の登場です。
エバートンと言う男が入って来たら、エリーの態度が豹変した。
(エリーどうした?具合が悪いのか?)
俺はエリーに念話で聞いた。
聞かなければと思わせるほど、エリーの顔色は悪かった。
(エバートンという男、私を檻で飼っていた男です!!)
なんだと!!あいつがエリーを!!
いかん、思わず殺気が出そうになった。
押さえろ、押さえろ!クールダウンだ!!
(落着けエリー!気付かれてはいないのだろう?)
(はい、恐らくですが)
(なら、普通にしているように)
(分かりました)
俺はエバートンを慎重に観察した。
細身で長身、歳は50代前半ぐらいか、老眼鏡だろう眼鏡をかけていた。
眼鏡は初めて見たな。
襟に金の紋章が入った、真っ黒なローブを纏い、いかにも魔術師、しかも悪人風だ。
髪は赤味が入った、ブロンドを短く切りそろえていた。
目は細く、どこを見ているか分からない。
声は若く、よく通った。
「エバートンよ、デトレフの報告だが、魔族が現れたらしい」
「ほう、魔族の格はどの程度でしょうか?」
「分からん!しかし、人狼と魔人が配下にいたらしい」
「なるほど、魔人がいたと言うことは、最低でもデーモン以上と言うことですな」
「であるな・・・そこでまずは調査隊を派遣したい。エバートン、調査隊の編成を至急始めろ。ここにいるシルバーファング、レイト村冒険者ギルド支部長デトレフ、及び魔術師ヒデキ殿、その妻魔術師エリー殿を含めた編成にするのだ」
「ヒデキ殿?初めてお聞きする名前ですな」
エバートンが眼鏡の位置を右手で直しながら俺の方をジロリと見た。
「ヒデキと申します。旅の魔術師で、こちらは同じく魔術師で妻のエリーです」
二人してエバートンに礼をした。
エバートンは、今一度俺とエリーをジロリと見た。
エリーがビクッとする。
(エリー、心配するな!)
(は、はい)
「ヒデキ殿は変わった服を着ていますな、どちらの出身で?」
うまい具合にエリーよりも俺の服装が気になったらしい。
「出身は帝国の山奥ですが、現在は旅人で、国は持ちません」
人に出会った時に、絶対に聞かれるであろう服装の事についての答えは、以前からエリーとノーマに相談して決めていたのだ。
「ほう・・・・異邦人か・・・」
エバートンは、呟いた。
異邦人・・・当たりだ。
しかも異星人だ。
「して、ヒデキ殿とエリー殿の得意な魔法は?」
「闇以外は一通り使えますが、得意なのは火、水、土、風です、妻は火が得意です」
この場合「得意」と言うのは最低でも上級魔法は使える事を意味する。
「それは素晴らしい!それでは、此処にいるメンバーを含めた調査団、及び街の防衛ラインの編成をいたします」
「どれくらいの時間が必要か?」
「街の防衛ラインを考えますと、私設騎士団の8割は残しておく必要があるでしょう」
「ふむ、となると片翼の隊長と中隊だけか。後はS級冒険者を雇うことになるか」
「そうです、今から私設騎士団と冒険者ギルドに行って交渉、準備に2日、調査団の出発は3日後でいかがでしょう?」
「王都からの使者が来るのに、早くても10日・・・よし、そのように手配せよ!!」
「はっ!!早速手配に赴きます。しからば皆様、失礼致します!!」
エバートンは後ろのドアを開け、ローブを靡かせて颯爽と出て行った。
どう見ても悪の魔道師だが。
外見で損するタイプだろうか?
しかし、エリーを檻に閉じ込めていたと言うから、本当に悪党かも知れない。
油断はしないで置くのが吉だ。
エリーは未だに怯えていた。
エバートンが退出して、場にあった緊迫した空気は霧散していた。
「ふぅ~」
俺も緊張が解けて、つい息をついてしまった。
「ヒデキ殿、エリー殿、そんなに緊張せずともよかろうに」
ガウラン辺境伯が声を掛けてくれた。
よほど緊張した表情をしていたのだろう。
ようやく肩の力が抜けた。
「よろしい!!出発は3日後。それまでに準備は整えておくように!!これでよろしいでしょうか?ガウラン辺境伯?」
「うむ!!」
デトレフさんが、ガウラン辺境伯に確認する。
「それでは皆、かいさ「待て!!ヒデキ殿に聞きたいことがある!!」
「エリーはあげませんよ!!」
間髪入れずに答えた。
「お主、わしに対する認識はどうなっておる?・・・リーナ、お前、ヒデキ殿に何を吹き込んだのだ?」
「私単独指名ですか?」
リーナがいかにも不本意そうに自分を指差した。
「そうだ!お前しかおらん!!」
「ええ、まあ私がヒデキ殿に言いました!」
「何と言った?」
「辺境伯は美女に目が無いので、注意しなさいと!」
「わしは人妻には手を出さん!」
「騎士団の左翼隊長サラサさんを口説いていると聞きましたが?」
「あやつは、夫と別居していて、もはや夫婦ではないだろうが!!」
「でも、離婚していません、今口説いたら、強奪です!!」
「うぐぐぐぐ・・・」
「リーナさん、ガウラン辺境伯に対して、やたら強気ですね」
「ああ・・リーナは以前に辺境伯から口説かれた時に、きっぱりと断ってな。その気風の良さに、辺境伯がほれ込んでしまったのだよ」
「なるほど・・・」
デトレフさんが詳しく解説してくれた。
ガウラン辺境伯はがっくりと、頭を垂れた。
公務が終わると、気さくなおっさんだなガウラン辺境伯。
「わかった!わかった!わしの負けだ!!相変わらず気が強い女だわい」
「話を逸らして申し訳ありません。それで私に聞きたい事とは?」
「おお!そうであった、ヒデキ殿、お主が先ほどからメモしておる紙とペンだが、見せてもらえぬか?」
あーなるほどなあ、インクもないのにメモしていたものなあ。
珍しいだろうなあ。
欲しいとか言われるのかな?まあいいか。
「これですか?どうぞ」
俺はレポート用紙と3色ボール面をガウランに差し出した。
紙はともかく、3色ボールペンはミスったかもしれない。
だが、ガウランの興味はレポート用紙のほうだった。
3色ボールペンは、すこしレポート用紙に試書きをした後に一言
「インクを使わないペンか、面白い魔道具だな。さすが異国の魔術師だ。だが、この紙の束はすばらしい!このように美しい紙は見たことが無い!」
ガウラン辺境伯は熱心にレポート用紙を見ていた。
「どのような製紙技術を用いれば、ここまできめ細かな紙に出来るのか?製法をヒデキ殿はご存知か?」
えッ?そっち?
あれ?ボールペンより、紙の方だった!!
「申し訳ありませんが、製法は存じ上げません」
「であるか・・・ヒデキ殿、この紙の束を譲ってもらえないだろうか?もちろんそれ相応の金は出す」
これはこの世界の路銀を稼ぐチャンスかもしれない。
開拓村から村人を避難させるため殿で戦った功労に対する報酬は、銀貨30枚だそうだ。
当座の生活費は問題ないだろうが、金はあって困るものではない。
「相応の金と言いますと?いかほどでしょうか?」
「そうだな、この紙1枚につき、金貨1枚ではどうだ?製法を研究したいので、最低でも20枚は譲ってもらうのが条件だ。どうだ?」
「値段はそれで結構です、30枚お譲りしましょう。但し、他でも売ることが出来るというのが条件です」
「ふむ、製法が解明されたとしても、ブルネルの独占にはしないという事か・・・よかろう。金貨30枚を持って来い」
ガウラン辺境伯が執事に命令すると、すぐに金貨30枚が用意された。
俺は、レポート用紙を30枚切り取り、執事に手渡した。
「よし、取引成立だな。では3日後の出発に備えて、各々準備をしておくように。当日、日の出前にこちらに集合。日の出と共に出発する」
「では解散!!」
デトレフさんが〆て、ガウランに挨拶して屋敷を出た。
今日は少し苦戦しました。
明日も頑張ります。




