宿屋へ
何もない回です。
飛ばしても影響ありません。
トムから仕事をサボったことを指摘されても、イレーネ悪びれもしなかった。
イレーネはにやりと笑い、これ見よがしに俺の左腕に抱きついて言った。
「仕事してるよ~、この人の頼みで、村を紹介しながら、宿屋まで案内してるんだから~」
「なっ!?何言い訳してるんだ?、
「言い訳じゃないもん!!本当だもん!!」
イレーネはぺろりと舌を出す。
言いながら、13歳にして大きな膨らみが押し付けられた。
俺より前に、エリーが反応した。
(こ、この小娘!ヒデキ様から離れろ!!ヒデキ様にそうして良いのは、私だけだ!!)
「なによ?このトカゲ!威嚇してるの?」
エリーはさながら、毛を逆立てる猫のようであった。(毛はないけど)
(エリー!スットプ!落着け!落着け!胸はお前のほうが圧勝だ!!)
(は、はい、取り乱して、申し訳ありません!)
「な、何だ、そいつ?冒険者か?変な使い魔を連れているし」
(変とは失礼な!!)
トム君、人を指差すのは、やめなさい。
「そうよ!とっても強いの!魔物の大移動を抜けて来たのよ!たった一人で!」
イレーネが、さも自分のことのように自慢した。
トムが訝しげな表情をした。
「はあ?ダウの森の大移動を一人で?そんなの嘘に決まっているだろ!去年だって上級ランクの冒険者4人パーティが帰って来なかったじゃないか!!一人で大移動を抜けるなんて不可能だよ!!」
「トムには不可能でしょうよ!でも、ヒデキさんがダウの森から出てくるのを、私見たもの」
「きっと大回りして、ダウの森から出てくるように見せただけさ!」
「あんたはそう思っていればいいわ。だいだいそんな回りくどい事やって、ヒデキさんに何の得があるのよ?」
「そ、それは・・・」
「私はこの人について行って、冒険者になるって決めたの!」
勝手に話が進んでいる・・・
トムの表情が益々厳しくなる。
「おい、お前、イレーネを騙して、どうするつもりだ!?」
「いやあ、騙すも何も、イレーネとは何もないよ」
「ちょっと、ヒデキさん酷い!!約束したじゃない!!」
お!?おじさんからヒデキさんに格上げされたぞ!!
と言うか、約束って何だ?約束って?
「イレーネと約束とかした覚えはないからな」
「イレーネ!お前また嘘を!」
「嘘じゃないもん!私決めたんだもん!」
「分かった分かった、ヒデキさんだっけ、イレーネのいつもの悪い癖なんです。冒険者がこの村に来ると、自分もついて行こうとするんですよ」
おおトムという名前に似合わず、大人だ!
将来は大物になるかも知れん。
イレーネの事がが好きなのは、ばればれだが。
まあイレーネもトムの事を好きみたいだし、お似合いだな。
「誤解が解けたところで、宿屋への案内を頼むよ、すぐに日が暮れる」
「そうだったわ!!こっちよ!ヒデキさん、じゃあねトム!!」
「おい、話はまだ・・・・」
呆然としているトムを無視して、イレーネは俺の腕から手を放すことなく、ぐいぐい引っ張って行った。
めげない子だな。
「いいのかい?ボーイフレンドを放っておいて?」
「違いますぅ!トムはただの幼馴染ですぅ!」
「なるほど、なるほど、幼馴染ねぇ」
田舎でよくありがちなシチュエーションだった。
イレーネは変わらず元気だ。
エリーが飛び掛からなければ良いが・・・
「はーい!着きました!!ここが村一番の食堂兼宿屋でーす!もっとも、村に一軒しかないけどね」
普通の二階建ての民家に、読めないが看板がかかっていた。
店の名前か何かだろう。
「案内ありがとう、じゃあここまでで・・・おいおい!」
イレーネは先ほどの冒険者ギルドの時と同じく、そのまま扉を開けて、先に入って行った。
「お母さーん、お客さん連れて来たよー」
「おか・・なるほどな」
何か余裕があると思ったら、宿屋がイレーネの自宅だった訳だ。
本当にちゃっかりしている子だ。
入ると中は食堂になっていた。
丸テーブルが3つに、それぞれ背もたれのない丸椅子が4つ置いてある。
奥は厨房になっていて、手前にカウンターテーブルがあり、椅子はなかった。
その奥、イレーネの母親らしい女性がいる。
イレーネと同じ髪の色、紺色のワンピースにエプロンを着ていた。
一見メイドに見えなくもないな、と思った。
ただ、髪の色はイレーネと同じだが、他は似ていなかった。
いや、正確には顔立ちは似ているのだが、全体に恰幅が良かったのだ。
まん丸の顔に巨乳。
しかし、横にも大きかった。
娘と結婚する前に、母親を見ろと言うが、将来イレーネがこうなるとはとても思えなかった。
まあ、胸だけは間違いなくこうなるだろう。
良かったなトム。
君の未来は明るい。
「イレーネ、トムが探していたわよ!あなたまた仕事サボったんですって!?」
「違うよ!お客様を冒険者ギルドに案内して、その後村を案内しながら、ここに連れて来たんだよ」
「まあ、お客様?冒険者様でしたか?娘が失礼な事言いませんでしたか?」
「いえいえ、村を案内してもらいまして、助かりましたよ」
「ほらね?ちゃんと案内してるでしょ?」
「なら良いのですが・・・私はルーラ、この子の母です。この村に冒険者がいらっしゃるのは、めったにないんですよ。依頼も冒険者用じゃなかったでしょう?」
「ヒデキと言います。そうですね、路銀が少ないので少し稼ごうと思ったのですが、困りました」
「冒険者さんなら、ブルネルまで行かないと稼げませんよ」
「お母さん、ヒデキさん、凄いのよ!ダウの森の大移動を抜けて来たんですって!!」
「まあ!!大移動を?去年上級の冒険者が帰って来なかったんですよ!大丈夫だったのですか?」
「ええ、まあ、死にかけましたが・・・なんとか生き残りました」
「では、他の仲間の方は・・・」
「いえいえ、仲間はこの子だけです。この子のおかげで生き残れたんですよ」
俺はエリーに顔を向けて言った。
「あら?可愛いトカゲちゃんね。使い魔かしら?」
(違います!!ドラゴンです!!)
(まあまあ、おちつけエリー!!)
「いえ相棒です。今日はこの子と一緒に泊まりたいのですが、良いですか?」
「使い魔って事にするから良いわよ、夕食朝食付きで1泊銅貨7枚ね。食事はここで取ってね。夕食は今から作るから、しばらくしたら、娘を呼びに行かせるわ。これが部屋の鍵、二階に行って一番奥の部屋が客間よ」
てきぱきとして、気持ちの良いおかみさんだ。
俺は銅貨7枚を支払い、鍵を受け取った。
階段を上ると、エリーもトコトコとついて来た。
「本当に良く慣れているトカゲちゃんねぇ」
(トカゲじゃありません!!)
二階は手前左右に2部屋ずつ4部屋、そして奥の正面に1部屋あった。
奥の部屋に入ると、ベッドがひとつに、一人用の椅子と机が置いてあるだけだった。
ショルダーバッグを床に置き、上着をベッドに置くと、胸ポケットからノーマが出てきた。
ノーマは大きく伸びをして、あくびをした。
「ふあーあ、良く寝たわぁ」
「ごめんな、窮屈な思いをさせて」
「大丈夫よ、私は一日中寝ることができるのよ、その間は魔力も減らないの」
冬眠みたいなものかな?
便利な妖精だ。
俺なんか長時間寝ると、偏頭痛がしてくるのに。
うらやましい事だ。
「エリーもお疲れ様」
(あの小娘、ヒデキ様に馴れ馴れしいです)
「まあまあ、あれはトムに対するあてつけさ。イレーネはトムの事が好きなんだよ」
(そうなのですか?でも羨ましいです。私もヒデキ様とああしたいです!)
「分かった、分かった、服を手に入れたらやってやるから、それまで辛抱してくれ」
(本当ですか?約束ですよ!!)
「約束する」
エリーが嬉しそうにはにかんだ。
すると、ノックが聞こえた。
「夕食の準備が出来ましたー」
イレーネの元気な声が聞こえた。
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