龍の国へ
少し遅れました。投稿します。
「あいつは?」
「お察しだと思うが、宰相の部下だ。この酒場で人間化したドラゴンを見張っている」
「見張って?」
「悲しい事だが、ドラゴンの社会でも権力争いが日常茶飯事でね。ライバルの弱みを常に探しているのさ」
俺は、カウンターで時々こちらをちら見している男を観察した。
細身で目が鋭く、いかにも目ざとい感じで、陰気な男だ。
俺と目が会うと、あわてて目をそらして正面へ向き直り、酒を口にした。
しかし、暫くすると再びこちらをちら見し始める。
「あからさま過ぎる。あれでは弱みなど握れないのでは?」
「見張っているぞと牽制も兼ねている、それでも起こってしまう不祥事であれば、宰相の餌食になるという具合だ」
どこまで用心深い宰相なのだろう。
エリーが女だとばれたら、とんでもない事になるな。
「明日の宰相との謁見だが、宰相はこの世界には他にも大陸があることは知っていると思う」
「その根拠は?」
「皇帝と宰相の会話で時々地名を明かさない土地の会話があるからさ。『かの地』とか『あの地』とかな」
「この大陸の知られていない国のことかも知れないのでは?」
「この大陸に知られていない国や土地はないよ。我ら龍族がくまなく調査をしているから」
この自信・・・ドラゴンは俺が思っているよりも知的レベルが高いようだ。
ならば増援も期待できる気がしてきた。
エバートン、ムカイ、冒険者のみんな、無事でいてくれよ。
ミタは・・・あいつは普通に無事な気がする。
科学と魔法の相性が良すぎるからな。
どう考えても、俺、ムカイと比較しても、よりチートだ。
「大陸の存在が周知の事なら、説明の手間が省けて助かる」
「それよりも、宰相に対する接し方が重要だ。好色だが切れ者だ。何かエリー殿の大陸で珍しい物はないか?交渉を有利に進められるのだが・・・」
ありていに言えば賄賂かな?
ならば久しぶりに地球産の物が役に立ちそうだ。
クロエに言って、ショルダーバッグを久しぶりに取り出してもらう。
中からレポート用紙を取り出し、ラスタに見せる。
「これなんかどうかな?」
「ん?何だ?これは?紙?いや・・これほど綺麗な紙を製紙する技術がヒデキ殿の大陸にはあるのか!?」
良かったこの大陸でも製紙技術は発展していないみたいだ。
呼び名がヒデキ殿に変わった。
少しは見直したかな?
俺がいた地球の技術も捨てたものじゃないな。
この事件を片付けて、ミタに製紙工場でも作ってもらおうかな。
などと考えていたら・・・
「これならば、宰相はどうにかなりそうだ・・・いや、この紙の製造法は?ヒデキ殿はご存知なのか?」
「おおまかなことは知っているが、詳しい製造法となると知らないな」
「目ざとい宰相は、必ず製造法を問うてくるだろう。うまい言い訳を考えておいてくれ」
「その点な大丈夫だ。考えがある」
丁度いいや、ミタに全部押しつけてやろう。
そんな思惑も、まずはルシファー達を退ける事ができてからの話。
宰相を通して龍皇帝に謁見し、協力を取り付けねば、まさに絵に描いた餅だ。
エリーは男装というか、本当に男として宰相に謁見し、俺はレポート用紙を餌に、皇帝陛下との謁見の交渉をする・・・こんあところだろう。
宰相を口説ける目処が立ったのなら、後は礼儀作法の確認とか、細かいところをラスタにレクチャーしてもらい、宿屋へと帰って休む。
ルシファーに一杯食わされて敗走してから、そんなに経ってはいない。
反撃の糸口がこんなに早く見つかるとは思わなかった。
明日次第か・・・
そう考えながら眠りについた。
つもりが、なかなか眠れなかった。
□
翌朝、ラスタと共に朝食を取り、街道からはずれた山林にある広場に移動した。
「さてここでドラゴンの姿に戻って飛んで行くが、どうするかね、私の背に乗ってゆくかね?」
「いえ、翼竜を召還します」
俺はラスタに答え様に、翼竜を召還する。
エリーがドラゴンに戻ると、服を脱いで、また着なければならない。
翼竜に乗れば問題ないだろう。
ついでだから、ラスタも乗せてやるか。
と思っていたら、ラスタは速攻でドラゴンの姿に戻った。
着ていた服は・・・破れて飛散っている。
「服が粉々だが、まさか人型になると復活するとか?」
「そんな訳ないだろう。自宅に寄り道して、新しい服を着るさ」
なら翼竜に乗れば手間もかからなかったのでは?
そう言おうと思ったが、後の祭りなので、口にはしなかった。
俺、エリー、クロエで翼竜に乗り、上空へと飛翔する。
「ついてきたまえ!!」
ラスタが翼竜の鼻先をかすめ、遠くにそびえる山脈に向って加速を始めた。
速い!!
翼竜が全速で飛んで、ついて行くのがやっとだ。
やはりラスも只者ではないと、改めて実感した。
俺達は、ドラゴニアがあるという山脈に向って飛び続ける。
眼下をみれば、街道と街道を繋ぐ町並みが途切れ途切れになってゆき、森林地帯となって、街道が完全に見えなくなってしまった。
森林から時折だが飛行能力を持った魔物が飛び立つが、ラスタの姿を視認すると、怯えてすぐに森林に消えて行った。
やはり上位種のドラゴンは格が違うようだ。
翼竜の飛行速度が速いので、結界魔法を使って振り落とされないようにする。
まだまだ時間がかかりそうなので、用意していた弁当で食事をする。
干し肉と野菜をパンにはさんだだけのサンドイッチだが、ダンジョンで食べる保存食よりは食べ易い。
ホットウォーターの魔法を使い、コップにお湯を注ぎ、お茶にする。
夕べ色々考えすぎて眠れなかったので、仮眠を取ることにした。
結界魔法を張ったままにして、横になる。
ついでに太陽光発電機を使いスマホの充電もしておくことにした。
ミタの技術のおかげで、どこでも緊急充電は可能だが、用心するに越したことはないだろう。
腹が満たされたので、すぐに眠くなった。
「ヒデキ様、私が見ておきますので、ゆっくりお休み下さい」
「いえ、私が見ますので、エリー様も一緒にお休み下さい」
エリーの言葉にクロエが言葉を重ねる。
「今日はエリーが主役だ、休め」
「ですが・・・」
「休め」
「は、はいっ!!」
有無を言わせずに、命令してエリーに休息を取らせることにした。
横になったエリーの隣に寝転び、俺も目を閉じる。
すぐに眠気が襲ってきて、まどろみの中に落ちて行った。
□
「ヒデキ様・・・エリー様・・・そろそろ到着です」
クロエの声に、俺とエリーが夢の世界から現実へと引き戻される。
目を擦りながら、前を見ると、岩山を削り建てた見事な城が見えた。
眼前で飛んでいたラスタが降下を始める。
翼竜に後を追わせて、降下させる。
城の前には小さな町並みが並び、ラスタは大きな屋敷の中庭に降りた。
「直ぐに着替えてくるので、表で待っていてくれ」
ラスタに言われるままに、
中庭から表に出る。
外は街道になっていて、一本道が城まで続いていた。
人通り・・・あるいは人型のドラゴン達はいない。
何か生活感のない街だ。
もしかすると、この街はドラゴンが人型になるためだけの街なのかもしれない。
「やあ、お待たせ~」
人型になったラスタが出てくる。
城の方へ向き直り・・・
「さあ、行こう!!」
元気に歩き始めた。
俺達もあわてて後に続く。
暫く歩いたが、誰一人として出会うことはなく、城門に着いた。
城門は閉じられていて、左右に門番が立っている。
こういうところも人と同じだが、ただ1つ違うのは、武器を何一つ携えていない事だ。
ドラゴンの力を使えば、武器など不要だろう。
「ラスタである。宰相との謁見を申し出てあるのだが。いかに?」
ラスタが畏まった口調で、門番に言うと
「はっ!!ラスタ殿、前触れの眷属より伺い、準備は整っております。後におられる3名が、謁見を望まれているのでしょうか?」
「そうだ。案内を呼んでくれ」
「暫くお待ち下さい」
門番の1人が城内へ消えて行った。
さあ、ここからが正念場だ。
次回も1週間後を目安に投稿します。




