敗北と逃走
なんとか投稿できました。
闇に包まれていた全モニターが、今度は光り輝いていた。
「全ての都市にだと!!ルシファーに分身能力はない!!しかもこれは・・・この光は!?」
イシュタルの動揺した声を始めて聞いた。
イシュタルは俺の方に振り向き・・・
「ヒデキ!私にかけてある術を解け!!今すぐだ!」
「いったい何が!?」
「良いから!早く!!」
俺はすぐさま『ドッペルゲンガー』のフォルダを呼び出し、
「消えろ!!」
と叫んだ。
その瞬間にイシュタルの姿は掻き消え、ずっと座っていた人物が立ち上がる。
イシュタルの本体だ。
本来の作戦はこうだ・・・
イシュタルのドッペルゲンガーに活躍してもらい、イシュタルの力を間違って認識させる。
ドッペルゲンガーを倒せる上位魔族が登場したら、本体が出撃、全力で撃破する。
イシュタルの分身を倒せる上位魔族はルシファー以外は存在しないという予想をもとに立てた作戦だった。
だが、どうやらこちらの目算は崩れたようだ。
「イシュタル殿、何があったのですか?その慌てようは尋常ではありませんぞ!!」
「くそっ!!ルシファーにしてやられた!!」
「!?それは一体、どういう意味しょうか?」
「今映っている光は、天使の降臨の光だ!!」
「天使?天界の介入ですか?」
「違う!!あれは下級天使の光だ。命令されるがままにしか動かない操り人形だ!!」
「!!すると・・・」
エバートンは何かを察したようだが、俺にはわからない。
聞くは一時の恥・・・説明してもらおう
「イシュタルさん、詳しく教えて下さい!!ルシファーにしてやられたとは?どういう意味ですか?今一度分かり易く説明して下さい」
イシュタルは拳を悔しげに震わせて、言った。
「今、各都市に降臨している下級天使はルシファーの手駒だ!!奴が堕天する前にルシファーに従っていた天使達だ!!天界でルシファーに従った者は、殆どルシファーと共に堕天したが、一部下級天使は、天界に残ったのだ。それが今、各都市に降臨している」
「でも天使ですよね?」
「奴ら下級天使のスキルは只1つだけ、人間の心の操作だ。魔族の襲撃を二度退け、さらに警戒していたところに、天使の降臨だ・・・ルシファーの手先だとは気付かずに簡単に篭絡されるぞ!!この後ネオローマ王国のテンプル騎士団がやってきて、支配は完了だ!!」
「そんな簡単に!?イシュタルさんの力でなんとかできないのですか?」
「無理だ!!ここを守ることは出来るが、他を守る事は出来ぬ」
イシュタルが絶望的な表情になる。
「この屋敷だけならばなんとかなるが・・・私もずっとここにいる訳にはいかん。今回は我々の負けだ!!」
「そんな・・・」
「ヒデキ殿!イシュタル殿の言うとおりです。ここは一旦退きましょう」
「退くといっても・・・どうすれば・・・」
「この屋敷のある部屋に、1つの転移魔法陣があります。それを使って跳んでください!!そこには、ネオローマ王国の手は及びません」
「それは何処です?」
「東の果て、その僻地に、私の師匠がいます。世捨て人で誰も近付きません。そこなら安全です」
「エバートン参謀はどうするのです?」
「私はガウラン辺境伯を守りに向います」
「だったら、俺も「いえ!!ヒデキ殿は切り札です!要人が一緒に行動するべきではありません!!」
ここは腹をくくるしかないか。
「分かりました!転移魔法陣へ案内して下さい」
「クロエに案内させましょう。ホットラインはこちらが安全を確保できたら、繋げます。それまではヒデキ殿から連絡はしないで下さい。居所が露見したら最後です」
俺は黙って頷く。
クロエに案内してもらい、ある部屋に向う。
エリーが俺の部屋から、ショルダーバッグを持って来てくれた。
いつもは素通りしてしまう部屋の鍵を、クロエが開ける。
そこには、1つの転移魔法陣が描いてあった。
「私もご一緒しますので」
クロエは大きな荷物を持っている。
中には魔力回復ポーションがぎっしりと入っているとのことだった。
俺もエリーも目一杯ポーションを持っている。
「さあヒデキ様!!急ぎましょう」
クロエに促され、俺達3人は転移魔法陣に身を投じた。
― ― ―
「なんじゃ?3人も来客とは!?エバートンの奴め!!何を考えておる!?」
転移先は、小さな部屋だった。
転移魔法陣の奥に椅子とテーブルが置かれ、その椅子に80代ぐらいの老人が、魔術師の装備で座っていた。
「エバートン参謀の師匠ですか?」
俺は敵意のない事を示すために、両手を広げてその老人に問いかける。
老人は肩を竦め、俺に答えた。
「やれやれ、エバートンは、師匠の名も教えておらぬのか!?まあ良いか・・・我輩の名は、ジョン・グレイストークじゃ」
まるで、イギリス人貴族のような名前だ・・・
「これは、ご挨拶が遅れて、申し訳ありません。俺の名はヒデキ、こちらがエリー、そしてクロエです。いきなりの訪問失礼いたしました」
俺たち3人はグレイストークに、取り急ぎ挨拶をした。
「エバートンがホットラインもよこさずに、いきなりお前達を飛ばして来たのには、それなりの訳があるのじゃろう!?今椅子を用意するから、座って詳しく話せ」
グレイストークが手を叩くと、扉が開き、メイドが椅子を運んで来た。
メイドはエバートンの所でも使われていた自動人形だ。
どちらがオリジナルを開発したのだろう?
そのメイドが入れてくえたお茶を飲みながら、俺はこれまでの経緯をかいつまんでグレイストークに説明した。
「なるほど、ルシファーが人界に手を出したか・・・宗教と下級天使を利用するとは、さすがと言うしかないのう」
グレイストークは感心したように言う。
「なんとか巻き返しをしたいのです。手を貸していただけないでしょうか?」
俺は椅子から立ち上がり、再び頭を下げた。
「今すぐには無理だな・・・ここまでやられてしまっては、逆転の目はない」
「そんな・・・ではどうすれば良いのですか?」
俺の問いかけに、エリーも不安そうな顔をする。
グレイストークは無表情で言った。
「ヒデキの話を聞いて・・・現状を判断すればネオローマ王国が、この大陸を支配したのは確実じゃろう」
何!?この『大陸』と言った!?
この世界に別の大陸がある可能性はあると思っていたが、科学知識が遅れているこの世界では、その概念は誰も持っていないはずだ。
いや、エバートンが以前にそのような事をほのめかしていたか?
俺は元々師匠の仮説だとエバートンが語っていたのを思い出した。
「地下に潜伏し、レジスタンとして活動するか、他の軍勢を連れて来るしない。レジスタンとして活動しても、国を取り戻すのには時間がかかるだろう。それに国王や皇帝の処遇が決まり、下手をすれば御家断絶の憂き目になるかもしれない。ここは賭けに出るべきだ!他大陸に飛び、加勢を連れてくるのだ!!」
グレイストークは淡々と、とんでもない事を俺に向かって言い放つ。
「連れて来るのだ・・・と言われましても、どこに他大陸があるのです?そしてどうやって行けば良いのでしょうか?」
「明日だ、明日!!今日はもう休め。いや、食事を用意させるから、それを食べてから休め!!」
「はあ・・・分かりました・・・」
釈然としないが、グレイストークの言葉には逆らうことが出来なかった。
メイドが食事の用意をしてくれて、俺たちはグレイストークと共に食事を取り、ベッドを用意してもらって、眠りについた。
最初は小さな屋敷だと思っていたが、グレイストークが少し魔力を込めると、俺たち3人が寝るには充分なベッドが置いてある部屋が現れた。
これもエバートンが使っていた能力と同じだ。
ベッドに横になって眠ろうとしたが、今日の敗北が思い出され、なかなか眠れなかった。
エリーもクロエも同じなのか、寝返りを何度もするのが分かった。
結局、一睡も出来ずに夜が明けてしまった。
この話で、アリベリ王国篇は終わりです。
唐突感はありますが、予定通りの構想で書き上げました。
次回から新章が始まりますが、プロットの確保のため、次回の投稿は10月16日を予定しています。
新章もなにとぞよろしくお願いします。




