エリー
投稿し忘れるところでした。あぶないあぶない。
いつの間にか夜が明け始めていた。
朝靄が湖の上に湯気のように揺らいでいる。
俺の頭は地面ではなく、いつもの新聞紙でもなく、柔らかい物に乗っていた。
目が覚めても、俺は恵理子の膝枕に寝ていた。
違いと言えば、恵理子が全裸な点だ。
豊満な乳房が、俺の目の前にあった。
もう1つ昨夜のウンディーネと違うところがあった。
昨夜の恵理子はモノクロームだったが、今はちゃんと色が付いている。
モノクロフィルムがカラーフィルムになった印象だ。
恵理子は健康的な肌色をしていた。
大学時代に何度も肌を重ねた、恵理子の健康的な肌色だった。
俺に膝枕をしながら、恵理子は俺の顔を覗き込んでいる。
昨夜の恵理子とのやり取りが思い出されて、なんとも言えない気持ちになってくる。
少し、感極まってしまう。
「恵理子、どうして?こちらの世界に来られる訳ないと、夢で言っていたじゃないか?それとも、さっきのはただの夢で、本当は俺と同じように、こちらの世界に来たのか?」
「あ・あ・あ・あ・っぁぁぁ」
恵理子の頬が痙攣し、何かを言おうとしている。
喉に何かが詰まって、吐き出したいような感じだ。
「あ・あ・あ・あ・っぁぁぁ」
「どうした?恵理子?具合が悪いのか?それとも口が聞けないのか?」
「い・い・い・え・え・え・い・い・い・あ・あ・あ・あ・あ・あ」
「恵理子!いったいどうしたんだ?」
恵理子は一生懸命声を出している。
まるで発声練習をしているようだ。
「い・え・き・ひ・て・き・ひ・て・き」
「もしかして、恵理子・・・」
「ヒ・・・デ・・・キ・・・ヒ・・・デ・・・キ・・・ヒ・・・デ・・・キ・・・」
恵理子の口からたどたどしい声が漏れ始めた。
「ヒ・デ・キ・さ・ま・わ・た・し・え・り・い・で・す」
まるで喋る事を覚えた子供のような喋り方だ。
何?え・り・い・・・エリー!?
「エリー!?だって!?本当にエリーなのか?」
「はい!エリーです!!うまくしゃべれました!!舌の使い方がポイントですね」
すぐに普通の喋り方になり、全裸の恵理子がにっこりと笑った。
「恵理子ではない?じゃあ、その姿は?一体どうしたんだ?」
「私がウンディーネにやられて気を失った後に、恵理子様の気持ちが私の心に流れ込んで来ました。その時に私の体に急激な変化が起きたようです」
恵理子は確かこう言っていた。
「(なんとか残留思念だけを残して置く)」
「それが、その姿?」
「はい、本来の姿ではなく擬態ですが」
「擬態?そんな力もあったのか?」
「どうもそのようです。元からあったものか、今発現した能力かは分かりませんが・・・」
恵理子の顔でエリーが微笑んだ。
膝枕をしながら、俺の頭を愛しむように撫でる。
気分が良い。
「こうしてヒデキ様に触れる事が出来て、嬉しいです」
「そうか・・・エリー、すまなかったな、昔の彼女から名付けられるなんて、嫌だったろう」
「いいえ!いいえ!!ヒデキ様のお好きだった方のお名前をもらえ、ましてやその姿になれて、嬉しいです」
再度にっこりとエリーが微笑んだ。
「そして初めて声を使って、ヒデキ様とお話できました。感激です!!」
「そうだな、俺も嬉しいよ」
エリーは俺の頬を撫で続けた。
「はいはい、いちゃ、いちゃしてないで、そろそろ起きなさい。具合が悪いわけじゃないんでしょ?ヒデキ!」
ノーマが俺の額に飛び乗って来た。
「そう言えば、ウンディーネはどうなった?」
名残惜しいが、エリーの膝枕から頭を上げて周りをキョロキョロと見回した。
今回助かったのは、ノーマの魔法のおかげだ。
ノーマがさっと、額から飛び降りる。
「あんな下級精霊、私のアストラルサイドへの攻撃で、跡形もなく飛散ったわよ。暫くは実体化しないと思うわ。」
ノーマの説明によれば、実体のないウンディーネには物理攻撃は一切効かないそうだ。
完全に消滅させるのは困難で、精神体・所謂アストラルサイドへの攻撃しか効果がない、しかも、効果があっても霧散するだけで、時間が経つとまた復活すると言う。
「そうか、ノーマは回復だけじゃなくて、攻撃魔法も使えたんだな」
「アストラルサイドへの攻撃魔法なら、お手の物よ。他も使えるけど、魔力の消費が半端ないのよね。ダテにハイピクシー500年やっているわけじゃないわよ。」
「そりゃ頼もしいな、これからも助けてくれよ。」
「まかせなさいよ!」
思い切り胸を張るノーマ。
得意のポーズだ。
これで等身大だったら、下半身がやばかったな。
さてと、体は少しだるいが行動を開始しよう。
まずはエリーの格好だ。
俺的に全裸はさすがにきつい。
「エリー、せっかく人間の姿をしているところ悪いが、元の姿に戻ってくれるか?」
(はい・・・かしこまりました)
エリーは少し残念そうだった。
が、一瞬、恵理子の体が光って、あっという間に元の姿に戻った。
俺の上着を着せて、恵理子の姿のままでいさせても良かったかもしれないが、攻撃力の面を考えても、エリーは龍体型のほうが良い。
荷物を片付け、湖畔沿いに歩き始めた。
ノーマはいつものように、俺の胸ポケットに収まってくつろいでいる。
歩き続けて、日が真上に来たところで休憩にした。
少し湖畔から森に入り、野草を探してみることにした。
初志貫徹である。
肉ばかりでは確実にビタミン不足で、いずれ倒れてしまう。
周りを警戒しながら、下草を探して歩く。
エリーはいつものように、狩のため森の奥へ入って行った。
俺は奥へは入らない、森に少し入ったところで、野草を探す。
野草についての知識は皆無だが、ノーマが胸ポケットから顔を出し、偉そうに食べられる野草を教えてくれた。
「それは毒!隣に生えているのは根が食べられる。あっちのは葉っぱが美味しい、あそこの木の実は甘くておいしいから、たくさん取って!」
生で食べられる野草をいくつか摘み、ノーマが美味しいと言った木の実をいくつか捥いで来た。
湖畔に戻り恒例の新聞紙を敷いて、エリーを待つ。
(お待たせしました。)
エリーはまたダウクイナを咥えていた。
よし、今日は蒸し焼きにしてみよう。
湖畔の砂浜に穴を掘り、羽をむしったクイナを入れて砂を被せる。
そこでエリーに加減したブレスを頼む。
少し待ってから、掘り起こすと見事な蒸し焼きが完成していた。
砂を払い、カッターで切り分け、エリーと食べる。
野草は少し苦かったが、生でかじった。
木の実は形はりんごみたいだったが、あけびのような甘さがあった。
エリーは気に入ったのだろう、人型に戻っている。
目の毒なので上着を羽織らせた。
「美味しいですね、人間の姿だと、よけいに美味しく感じます。」
「そうか、人間の姿になると、舌の構造も人間と同じになるんだろうな。」
「この姿になれて、私は幸せです。」
「街に出る時には、エリーの服を手に入れないとまずいな。さすがに上着を羽織っただけでは、まずい。」
「??」
エリーはよく分かっていないみたいだった。
街に近付いたら、改めて説明しよう。
人間の女の子が裸で街を歩いていたら、大変な事になるんだよ!と。
エリーに服を買ってやるにも、金が必要だ。
財布に入っているのは、日本の金だからなあ。
両替もできそうもないな。
色々前途多難だが、なんとかしなければならない。
やはり冒険者になるしかない。
人里に出たら、冒険者ギルドへ行かなければ。
この後、湖の対岸に付くまでは、何事もなかった。
水妖に襲われる事もなかったし、湖に水を求めてやって来る獣もエリーとノーマの敵ではなかった。
出会った魔物も、ゴブリンだけだ。
エリーが速攻で片付け、ゴブリンが持っていたお粗末なナイフが一本手に入った。
カッターナイフよりも獲物の肉を切るのに便利だった。
そして、俺達は湖の対岸へとやって来た。
この先はまた森の中だ。
陽の光もあまり差し込まない森林を抜けなければ、人里へはたどり着けないのだ。
ここからが正念場だ。
俺達は再び暗い森へと、下草を掻き分けて入って行った。
早く人里につかないかな?と思いつつ明日も投稿します。




