発端、そして出会い
突然非日常的な世界に、何の能力を与えられず放り込まれたら、どうなるのだろう?
主人公は前向きに生きてみようと、努力していきます。
立ち尽くす。
人は自分の理解力を超えた事態に出くわすと、一言も発せずに立ち尽くすらしい。
俺の目の前には、見渡す限りの草原が広がっていた。
草原だ。
おかしいな?
俺はいつものように朝7時起床、歯を磨き、洗顔してから、身だしなみを整えた。
量販店のスーツを着込み、自宅の1ルームマンションを出て会社へ向かった。
途中のコンビニでカロリー◎イト4ブロックを2箱、500ミリペットボトルのミネラルウォーターを1本買った。
ビジネスバッグ代わりの、やや大きめなショルダーバッグに入れて、電車で読むために買ったスポーツ新聞を片手に駅へと向かったのだ。
いつもよりもコンビニが混んでいたため、いつも乗る電車の発車時間が迫っていた。
仕方なく路地へ入り、走った。
放置自転車や違法駐輪の自転車が置いてあり、走りにくいことこの上ないが、駅へはこの道が一番近いのだ。
これで5分は短縮できる。
そう思い、狭い路地を曲がった瞬間だった。
出会い頭という言葉がぴったりの衝撃が来た!
ドンっ!と、誰かとぶつかり、俺はその反動で尻餅をついてしまった。
「いたたた、、すみません!急いでいたもので、、、、あれ?」
どちらが悪いという訳ではないが、礼儀として謝罪した。
ところが、だ!?
ぶつかったはずの相手は見当たらなかった。
いやっ!それどころかそこは、駅への近道の路地でもなかったのだ。
□ □ □ □ □
草原である、そう!!大草原!!
足首ぐらいまでの新緑色の草が生茂る大草原だった。
小さな家でもあれば、絵になるが、何も無い草原だった。
「そう、そう」煩いかもしれないが、草原しかないのだから、ご容赦願いたい。
???何故こんなことが?ここが何処なのか?何故俺はここにいるのか?さっぱりわからん。
「此処は何処?私は誰?」
いや、誰かは分かっているんだけどね。
一度は言ってみたい台詞だったので、言ってみただけだ。
いかん、会社に遅れる、、、、、とか言っている場合じゃないな、、、、
まずは会社に遅刻する旨を連絡しなければ、、、、
俺はスマホを取り出した。
電車に乗る為にマナーモードになっているスマホの画面を見る。
うん!予想通り、圏外だった。
そんな気はしていた。
電波中継の基地局がるにようには見えなかったから。(大草原に一人ぼっちですもの)
とりあえず、落着いて頭を整理しよう。
俺はその場で胸ポケットからハンカチを取り出し、草の上に敷いて腰を下ろした。
まず空を見上げる。
普通にお天道様が、真上にある。
真上?俺が誰かにぶつかって尻餅ついたのは、朝だった!
通勤途中だったのだから、間違いない。
スマホの時計を見ると、午前8時を少し回ったところだ。
時間がずれている?
スマホの故障ではないだろう。
では、ここは日本ではないのか?
太陽の位置を見るに、今正午くらいか、時差4時間とかどれくらいの距離かよくわからない。
しかし、なんらかの理由で(ほぼぶつかった衝撃が原因だろうが)俺は、日本じゃない何処かへ瞬間移動してしまった、と言う可能性が大きい。
頭が柔軟に出来ていて良かった。
普段からSFやファンタジーを読んでいたおかげかな?
俺のオタク脳に感謝だ!!
周りを見回す。
360度どこを見ても草原が続くだけだ。
家屋どころか、木の一本もない。
すこし休憩して、太陽がどちらに移動するかを見ることで、方位を確認することにした。
俺はバッグからコンビニで買ったカロリー◎イトとミネラルウォーターを取り出し、カロリー◎イトを齧り、ミネラルウォーターを一口飲んだ。
人心地がついたので、近くを見回してみた。
胡坐座りをしていたつま先の方をなにげなく見たら、それがいた。
全身ライトグリーンの色をした、大きなトカゲが横たわっていたのだ。
大きいな・・・
□ □ □ □ □
俺は樋口英貴。
年齢27歳、某商社勤務、係長に昇進したばかり。
身長175センチ体重70キロ標準体型、顔の出来も標準だと思う。
趣味はサブカル系全般。
特にSFとファンタジーが好きだ。
ライトなオタクである。
決してヘビィではない。
今時、オタクなんて珍しくもないはずだ。
このように絵に描いた様な標準的な俺が、標準ではない非日常に巻き込まれていた。
会社に遅れそうだったので、駅への近道を走ったら、路地裏で誰かとぶつかり、尻餅をついた途端に見渡す限りの大草原にいた、という、とんでもない事態に見舞われていたのだ。
気を静めて腰を下ろし、ふと足元を見たら、全身緑色のでかいトカゲが転がっていた。
遠くばかり見ていて、全く気付かなかったのだ。
全身ライトグリーンだ。
保護色の役目も果たしているのだろうか?
全長1メートル50センチくらい・・・イグアナかな?とも思ったが、妙に首が長い。
四肢もひょろっとしている。
こんなトカゲは見たことないぞ。
小さい頃に見た、動物図鑑にも載っていなかった。
「生きているのかな?」
恐る恐る顔を近づけて見ると、かすかに腹部が上下している。
おお生きている!
俺の気配に気付いたのか、トカゲはうっすらと目を開け、首をすこし上げてこちらを見た。
綺麗なルビー色の瞳だった。
じっと俺の顔を見つめる瞳に、知性が感じられた。
しばらく見詰め合っていると、(お腹が減って死にそうなの、何か頂戴!)と聞こえた気がした。
実際は聞こえた訳ではないのだが、この綺麗なトカゲから飢餓感が伝わって来た。
「お腹が減っているのか、これを食べられるか?」
幼少期に見たアンパンが顔のヒーローじゃないので、俺の顔を食べさせてあげる訳にはいかない。
俺は食べかけのカロリー◎イトをトカゲの口元に持って行ってやった。
トカゲはちょっと逡巡したが、空腹には勝てなかったのだろう、カロリー◎イトにかぶりついた。
口を開けると、小さな歯が並んでいた。
噛み付かれたら、すっぱりと切れそうだ。
そんな俺の懸念なぞどこ吹く風で、トカゲはカロリー◎イトを器用に齧っている。
直ぐにカロリー◎イト1ブロックを食べきったトカゲは、ぺろりと舌を出して引っ込め、体を起こし(もうないの?)と言わんばかりに首を少しかしげた?
妙に色っぽい、こいつは女だ!と直感で分かった。
トカゲの色気に負けたわけではないが(俺は漫画の神様とは違うのだ)、もう1ブロックやると、今度は味わうようにゆっくりと食べ切り、もう一度こちらを見た。
(ありがとう、おいしかった)
気持ちがまた伝わって来た。
この色っぽい?トカゲは、なにか微弱なテレパシーとか持っているのかも知れない。
そうこうしているうちに、真上にあった太陽が少し動いて低くなって来た。
これで方角が分かる。
とりあえず、南に向かってみようかと思い立ち上がった。(ここが北半球であればだが)
トカゲはこちらを見上げている。
すごく親しげだ。
(何処行くの?ついて行ってもいい?私も一緒に行きたいの!)
また気持ちが伝わって来た。
「ああ、一緒に行こう」
旅は道連れ、世は情けである。
単純に一人では、心細かっただけかもしれない・・・
そう言うと、トカゲは嬉しそうに俺の足首に体をこすり付けて来た。
(ありがとう)
歩き出すと、トコトコと俺の横に並んでトカゲは小走りに付いて来た。
□ □ □ □ □
このトカゲを見ても分かるけど、ここは日本じゃないよな。
どこだろう?さっぱり分からない。
とにかくこの大草原を抜けて、町でも村でもいい、ここが何処だか分かる所にたどり着くことだ。
しかし、行けども行けども草原が続く。
どこまでも続く足首までの草を踏みしめ歩けば、踏みしめる足元から、時折羽虫のような小さな虫が飛び出しては逃げて行く。
例のトカゲはいつまでも俺の横をついてくる。
エサをやったから、食べ物をくれる人間と認識したのだろうか?
人里に出れば、どこかに行ってしまうかもしれないな。
数時間、南に向かって歩き続けた。
日はもう既に地平線に懸かっている。
しかし、大海原のような大草原は終わらない。
もうすぐ日が落ちる。
俺はこのまま歩き続けようか少し迷い、野宿するために立ち止まった。
暗くなる前に寝床の準備だ。
準備と言っても、畳一畳ぐらい広さで草を踏みしめて平らに均しただけだ。
そこに今日買ったスポーツ新聞の半分を敷いて寝床にした。
簡易ベッドの出来上がりだ。
『座って半畳、寝て一畳』である。
買ったカロリー◎イトをバッグから取り出し、1ブロックを今度こそ俺が食べた。
ペットボトルのミネラルウォーターを一口飲んで一息ついた。
寝床の新聞紙に横になった時、夜の帳が下りて、満天の星空が広がった。
今まで見た事もないような美しい星空だった。
夜空を見上げた時、俺は驚愕の事実を知ってしまう事になる。
暫くは毎日更新を目指します。




