転生したら石だった件
ある男が死んだ。
あの世で神に会った男は恨み事を言う事にした。
「その日食う食べ物の為に日銭を稼ぐために働き、苦しんで死ぬ。ただそれだけの人生だった。謝罪と賠償を要求する」
それを聞いた神は。
「では、食べ物に困らず、働かず、死なない存在になればよいのか?」
と尋ねてきてた。
「そんなものにしてくれるのか?」
と男は尋ね返す。
「望みとあらば」
神にできないことはない。
「是非頼む」
男は即答した。
次の瞬間、男は真っ暗闇にいた。
手も、脚も、まったくうごかなかった。というよりそれがなかった。
いやこれは。
「俺、石ころになってねぇか!??」
そう。彼は石の塊になっていた。
身動きを取ろうにも、周りは完全に土だらけ。彼は土の中にいる!!
もっとも、石になった彼には呼吸など必要なかった。もちろん食事も必要もなかった。
食べ物に困らず。働かず。それでも死なない存在に彼はなっていた。
「どうすりゃいいんだ・・・」
最初のうち彼は自分をこんな姿にした神に対して悪態をついていてたが、そのうち彼は、そのうちかんがえるのをやめた・・・。
少し。眠っていたようだ。
世界が滅びるよりもだいぶ早く。
彼の目を覚ます音がした。
土を掘り返す音。
それはだんだん彼に近づいてくる。
グワキンッ!
鋭利な金属が彼に。いや石に命中した!
「痛いっ!」
ガツン、ガツン。となおも彼を。いや彼の周囲の土を。シャベルかツルハシのような金属で誰かが堀回している。その度に彼。ではなく石が削れている。
「ぐあああ!!や、やめろおお!!!!やめてくれえぇええ!!!俺の体が削れてしまう!!!」
やがて彼は土から掘り出され、地上へと運び出された。おそらくは道路工事か、トンネル工事だったのだろう。乱雑に彼。あーもうただの石でいいや。石は箱の中に投げ入れられた。
「ぐああ!も、もう少し丁寧に俺を扱え・・・」
ゴトン。箱が動き出した。
「ヒヒン。ブル」
馬の鳴き声も聞こえる。どうやら馬車の荷台に石は乗せられたようだ。一体どこへ運ばれていくのだろう。ジリジリ照りつける熱い日差し。
「み、水・・・水をくれ・・・」
近くで馬と、御者が
「ぷはぁ!生き返るぜぇ!こんな砂漠の真ん中を水なしで歩いたら死んじまうぜぇ!!」
などと言ってるのが聞こえた。
おい。俺をこんなクソ熱いところで日傘もささずに荷台に放置するんじゃない。
だが彼は死ねなかった。どんなに乾いていても、今の彼は単なる石に過ぎない。神に願ったとおり、彼は不死身なのだ。
少なくとも、砂漠の太陽の下、50度くらいの真昼で放置されたくらいでは死なないのだ。
さすがに火山の火口に放り込まれればドロドロに溶けて消滅するだろうが、5日間ほど昼間は死ぬほど熱く、夜は死ぬほど寒い砂漠の旅の間、彼は死ぬことはなかった。
やがてとても賑やかな場所に来た。街の中に入ったのだ。
久しぶりに屋根ある場所に石は運び込まれた。ようやく一息つける。石はそう思った。
「どうです、旦那?」
「ふむ。こいつは見事なもんだな。ではさっそく」
あれ。もしかして俺。
墓石にされるのか?
ガン!
ハンマーで何かを叩く音。当然石が削り取られているのだ。
「ギャアアアアアアアアアア!ぐあああああああああ!お、おれのからだがばらばらにいいいいいいいいいい!!!!」
ガイリ!ギャリ!ギャリイイイイイ!!!
ゴリイイイイイイイ!!!!
容赦なく削り取られていく石。
「おー少しばっか休憩にすっぺ」
「んだんだ」
「あーやっぱ汗をたっぷり書いた後は砂糖を沢山入れたお茶に限るよな」
「・・・て、てめぇら。石職人の分際で呑気に茶なんて啜ってんじゃねぇ・・・」
「親方。今なんか言いました?」
「あ?そうだな。お前もそろそろ出来上がってきたことだし。ちょっと仕上げをやってみるか?」
「え!やらしてくれるんですか!!」
「ああ。じゃあこの石を研磨してみろ」
「はい!喜んで!!」
「な、なにをするきさまらー」
ジョリイイイイイイイイ!!!!
「・・・・・!!!!!」
「おー綺麗に研磨されていきます!」
「おい、ぶつぶつ悲鳴みたいな声あげてないで真面目にやれ!手を切るぞ!」
「悲鳴じゃありません。親方、俺は喜びの声をあげてるんですよ!!」
やがて石は狭い箱の中に押し込められた。もうどうにでもなーれ。
次に気が付いた時、『石』の眼の前には怯えた表情の奴隷の娘がいた。
褐色の肌の手錠をかけられた、ファンタジー世界の特産品である。
「な、なんでも言う事を聞きます・・・!だから酷い事をしないで・・・!!」
「・・・あれ?」
何かがおかしい。
『石』は、自分の顔を触った。
変だ。顔がある。いや。顔を触る為の手がある。失ったはずの脚もあり、それで床の上に立っている。
「失礼します。王様、食事の用意が・・・」
扉が開いて、部屋の中に兵士が入ってきた。
「これは失礼。お楽しみの最中でしたか。では私は外で待機しております」
兵士は出て行こうとした。
「待て。王様というのは、もしかして俺の事か?」
『石』は自分の顔を指さした。その左手には。
綺麗な宝石の、指輪がはまっていた。
「はい。ガロア国王は貴方ですが?それが何か?」
なるほど。そういう事か。
食うに困らず。働かず。不死身。
なんと素晴らしい神様なのか。
「うむ。では食事はこの娘と一緒に部屋で取るから給仕にそう伝えるように」
「はい。畏まりました」
兵士は何の疑問も抱かずに出て行った。
『石』は、いや。国王は奴隷の娘に自分の左手の宝石を見せると。
「これはとても大事な宝石でな。もし私が病気や事故で死んだらお前にくれてやろう。お前が身に着けるのだぞ」
と、言った。
それから十年後。ガロア国王は暗殺されてしまった。
「・・・てて。くたばるのは二回目だが、やっぱ気持ちのいいもんじゃねーなー」
王様の言いつけ通り、暗殺された国王の死体から素早く指輪を取り、自分の左手につけた奴隷の娘は自分の部屋でそんな事を言い始めた。
「まぁ十年間いいもん食わせ続けただけあって、なかなかどうして。立派な体つきじゃねーか」
娘は自分の体を胸を触ったり、尻を触ったりしている。その直後、右手の匂いを嗅ぎながら。
「・・・こいつ、今朝俺の尻を拭かせた時にちゃんと手を洗っているだろうな?」
と、心配そうな表情を浮かべた。部屋の扉が乱雑に開けられる。
「おい!貴様!!国王のお気に入りだったな!!こんなところで何をしているっ!!親父が暗殺されたんだぞっ!!!」
怒鳴っているのはガロア国王の息子である。
「おう、わかっておるわ・・・・じゃなくて、はーい。わかりましたー」
最初、50過ぎのおっさんが自分の子供にかけるような声を出してから、思い直したように15歳くらいの年頃の娘の声で話し出した。
「とりあえず。自分の葬式の準備でもするかな」
そう言うと、石は部屋から出ていくのであった。