第97話 出向
「鈴成くん、1年間の限定ではあるけど、出向に行ってもらえるかい?」
秋が深まり寒くなってきたころ、大和田さんから出向の打診をもらった。ファンタジー村として田舎村は稼働し、全国的にも有名になってきて村民の意識もだいぶ変わったらしく、俺の受け持ちの仕事が少なくなってきた今のタイミングで。
俺は即答が出来ず、その案件は持ち帰って母さんとシアンに相談することにした。
「和哉がいいと思うなら行ってきたら? 出向があければ正職員として雇ってもらえるという条件なんだし、いいと思うよ」
母さんは賛成の意向だ。
反対にシアンはかなり仏頂面である。
「わたしはここの村から出られない。だからマスターが行くというなら……しばらく会えない」
シアンが戻ってきてからまだ3ヶ月が立ったばかりで、ここの生活には慣れてきたけど、俺とは仕事も私生活もほぼシアンと一緒だったので、シアンはかなり寂しそうにしている。
そういえば、シアンが戻ってきてからすぐに魔王が煽りまくったので、俺の布団にシアンが潜り込んだりして、最初は大変だった。
魔王なら猫だから添い寝しても別に構わないんだけど、シアンは別でしょ。
なので、シアンが俺の布団に入っていたときには、俺は居間で座布団を並べて寝るというよくわからない生活を送っていた。おかげさまでどこでも眠れるというスキルを手に入れてしまったが。
「うーん、1年ってのは長いよね……」
俺も悩んでしまった。
行き先は田舎村から新幹線で2時間プラスバスで3時間ほど下った山間の村らしい。全国的には忍者の里として有名な場所であるが、昨今の人口流出で田舎村より過疎化が進んでいる場所だそうだ。
新幹線で2時間の時点で、通勤できる距離ではない。週末なら戻ってこれるだろうけど、それでも往復はきついだろうな。金銭面的に。
ブチブチと悩みまくって結論が出ないまま、一晩過ごすことになった。
シアンはまた不安になったのか、俺の布団に潜り込んできたけど。そして俺は居間で寝るのが寒くなってきて厳しい環境ではあったが、頑張って寝た。
「鈴成くーん。出向にいくなら早めがいいと思うなぁ」
大和田さんが急かすように俺に言ってくる。
なぜ俺なのか、そして急ぎっていう理由はなんなのかを聞くことにした。
「いやね、忍成村では村おこしってことで、大々的に忍者の里で売り出していたんだけど、過疎化してきてそれが活発じゃなくなったのと……もうひとつ、異世界化しているという話も聞いている。つまり田舎ファンタジアと同じ状況になっているという話だよ」
うわ、ドッキリの疑いから始まったあの状況か。アレは厳しいよなぁ……。
ということは、俺と同じように勇者的なものに担ぎ上げられて困っている人がいるということだ。それは放っておけない。
「もしも異世界化したものが早期に解決できるようなら、早めに忍成村への出向を解いてもらっても大丈夫ですか?」
「うん、問題が解決できたなら早めに戻ってきていいよ」
大和田さんにお気楽に言われる。
……まあそんな難しいことではないんだろう。イベントをこなして怪異をやっつければ、それで終わりなんだから。
「わかりました。出向の日は11月1日からでいいですか?」
「キリがいいしその辺でいいよ。じゃあ向こうの役場に寮を準備してもらうように話を通しておくから、よろしくね」
こうしてあっさりと出向が決まった。




