第96話 スペシャルカレー
俺たちの帰宅時間になった。今日の俺は久し振り、というか魔王を倒す前以来の定時上がりである。そう、シアンがいなかった間の帰宅はいつも午前様だったのだ。
「あら、シアンちゃん、また来たのねー。和哉から連絡もらったから今日はスペシャルカレーにしたよ」
「よろしくおねがいします」
とシアンは母さんに丁寧に挨拶した。
以前のぶっきらぼうな感じはまだあるけど、最初に会った頃のシアンと何も変わっていなくて、俺は嬉しくなった。
「も! もれは……ひゃっはりむはい!」
もはや何を言っているのかわか……ってしまった。うまいうまい言いながらスペシャルカレー、以前のカレーにとんかつを乗せてある豪華版カレーである、を食べているシアン。俺も母さんも優しい視線でそんなシアンを見守る。
『ふん、龍族の娘か。気に入らんな』
スペシャルカレーをシアンが思いっきりほおばっているときに、魔王が外から戻ってきた。ただいまも言わずに面白くない顔で魔王はシアンを一瞥する。
「む! みゃほうめっ!」
シアンさん、口にとんかつを入れたまま話すのはよしなさい。汚いでしょ! それに何を言っているのかさっぱりわからなくなってきたし。
「あら、シアンちゃんはまおーちゃんと仲が良くないの?」
母さんはシアンと魔王が睨み合っている中、のんびりと口を挟む。母さんには魔王の言葉がニャーニャーとしか聞こえてないので、なんとなくなんだろうけど、それでもシアンと魔王が犬猿の仲なのは察知したようだ。
しばらくシアンはモグモグととんかつを噛み締め、若干恍惚な表情をしたあと、母さんから餌を貰っている魔王に話しかける。
「マスターは渡さない」
『ふん、勇者と一緒に寝たこともない小娘が……というか飯時ぐらいはおとなしくするものだ』
えーと魔王さん、それはシアンを煽ってないですかぁ? ほら、シアンの顔はものすごいことになってるし。しかも寝るってアナタ……。
「シアン! ほ、ほら、とりあえず今は目の前にあるカレーに集中していこう!」
元気一杯なシューゾーさんの真似をしながら、俺はシアンをなだめた。うう、これから先の生活が大変になる予感がする……主に俺が。
そのあとに若干不機嫌なままカレーを食すシアン。でもカレーのスパイシーな魅力には魔王への怒りも叶わなかったらしく、夢中でカレーを食べだした。現在の危機は過ぎ去った……と思っておこう。
季節柄みかんはなかったので、旬である桃とナシを食べることにする。シアンは桃が特にお気に入りだったらしく、
「これは龍族を堕落させる食べ物だ……」
と言いながらも貪り食っていた。その勢いはみかんを上回っていて、シアンの好物だとまるわかりだった。結構シアンもわかりやすいよね。みよちゃん並に。




