第84話 アガリ屋のネギ味噌ラーメン
「……久しぶりだな、勇者」
魔王城の奥についに俺たちはやってきた。
というかあの中腹キャンプからは歩いて30分ぐらいで魔王城に到着し、その城の中は広かったけど誰もいなくて、すぐにみよちゃん……いや魔王は居たのだ。
よくある奥の大広間の、これまたよくある立派な魔王の玉座に魔王は座っていた。心なしかみよちゃんのからだは、言い方は悪いけど……美人な残念ババァからぴちぴちの女子大生ぐらいの若さに若返っていた。
『ちっ、もうちょい遅ければ、もっと若返っていたのにぃっ』
ん? なにか余計な言葉が魔王から聞こえたけど、気のせいかな。
「てーか魔王、若返りたいとかいう理由で、村全部を巻き込んだのかよ!」
ミカゲが怒鳴りながら言う。
……あ、みよちゃんの心の声じゃなかったのね。
そして、そこの見せ場は、普通なら勇者と魔王とのやり取りじゃない? と俺は思ったけど、ミカゲのキレっぷりが薫くんって名前を呼ばれた時と同じくすごかったので、俺は黙っていた。マジ怖いっす、ミカゲさん。
「あぁ、腹減ってるからな。元にさっさと戻してもらって、アガリ屋のラーメンを食うんだ……絶対な!!!」
その隣でシアンもコクコクと頷いている。
昨晩のテントで夜を過ごしたときに、シアンはミカゲからどんなにアガリ屋のネギ味噌ラーメンが美味しいかを、たっぷり語られていたらしい。味噌と辛味の絶妙なバランスや手作り麺の香ばしさ、普通盛りなのに他のチェーン店の大盛りより量が多いとか、ネギともやしの具の分量が適切だとかなんとか。
それを、うっとりした様子でシアンは昨晩、しっかりと聞いていたのだった。
……ちくしょう、俺もお腹すいてるんだよおおおおおお! アガリ屋のネギ味噌ラーメンは鉄板だろおおおおおおおおおお!!!
「あ、まだ干し肉ありますけど……」
そう言って懐に手を入れるタローを、ミカゲとシアンはジトッとした目で見ていた。
「……ちょっと! いいからこっちに集中しなさいよ!!!」
あ、すみません、すっかり忘れていました。少々こちらがネギ味噌ラーメンで取り込んでいたもので。
というか、魔王がみよちゃんに発現したころと違っている箇所は、見た目だけ若返ってるだけで魔力っぽいものが強くなってるとか、そういうことはなさそうだった。中身もなぜかみよちゃんだし。
……そのときガクンガクンとみよちゃんの頭が揺れ、小さかったツノがニョキッと少しだけ大きくなると、低音バリトンのボイスに変わり、仰々しくセリフを言い始める。なんだか忙しそうだなぁ、みよちゃん。
「勇者、貴様の命をいただこう。さすれば龍脈は途絶え、この地は我のものとなる」
魔王はそう言うと、紫色の瘴気を身体全体から吹き出し、見えなくなる。
「近づくな! あの瘴気は……ヤバいものだ」
みんなに近づくなと俺は言うが、瘴気のヤバさはなんて説明していいのかわからなかった。その瘴気がヤバいということはグレート・ケツプリさんより、禊祓技の説明をうけていたときに教えてもらっていたのだった。
「ふんっ!! 濃度の高い魔王の瘴気は魂を吸い取られないが、はっ!! 無気力になったり記憶のかけらが消失するという効果があるのだ、ああっ!!!」
いちいち掛け声いらないんだけどね。しかも話している最中、かならずポージングを取っていた。……まあそういう人だったし。
でもわかりやすく単純に説明するならば、濃い魔王の瘴気を吸い込むと認知症っぽくなるらしい。
「ええ、いやです。認知症だなんて」
「ボケってやつか、こえぇな!」
「ぼ、僕にはガスマスクの代わりの覆面がありますから、で、でも突っ込む勇気はありません」
シアンは心底嫌そうな顔をして、袖で口を塞いでいた。魔王とシアンのシーンだけを切り取ってみると、すごいおならをした魔王の匂いがくさすぎて、壊す壊す壊すって言っているシアン、という感じだ。
その臭い、いや、紫色の瘴気が収まったあとには、みよちゃんの姿ではなく、3mを超える大きな虎の姿の魔王がいた。




