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第78話 薫さん

「恵奈っ!! 大丈夫か!!?」


 ミカゲの建設会社に俺たちは着いた。社長は


「ここの村は田舎村です」


 という、一番オーソドックスで残念な言葉を話すだけになってしまっていた。

もちろん、社長の奥さんやちょうどいた従業員の人たちも、同じような呪いにかかった状態であった。


 恵奈ちゃんの部屋に入ると、恵奈ちゃんは1人でベッドに腰掛けてうなだれている状態だった。


「あ、薫さんっ!! 無事でしたか……?」


 俺たちが部屋に入ってきたことに気づいた恵奈ちゃんは涙目でミカゲに抱きついた。よかった、恵奈ちゃんは無事だったんだ。


 そんな恵奈ちゃんをしっかりとミカゲは抱きとめ、よーしよしよし、とやっていた。シアンと同じように、やっぱり……ムツゴ○ウさん風に。

 というか薫さんって呼ばせているのかい、ミカゲさん?


「薫さん……勇者さんたちが消えてから、今は3ヶ月経っています。その間、どんどんおかしくなる人が増えたんです。うちの親も……ううっ」


 恵奈ちゃんが泣き止んで落ち着くまで待つ。そして現在の状況がどのようになっているか、恵奈ちゃんが知っている範囲でいいので話を聞くことにした。


「異変が起きたのは、薫さんが修行してくると言い残してから1ヶ月ぐらいしてからでした。最初は年配の人たちの異常な行動が発端だったんです」


 最初は認知性の症状と思われる様子の、妙な言動をするお年寄りの方々が急増したらしい。役場はその対応にてんてこ舞いだったのだが、その妙な言動を起こす症状がお年寄りだけではなく田舎村の住民にどんどん広がっていき、役場が事態の取りまとめに奔走したようで、何度も有線放送で『おかしな言動をする人が出た場合には役場住民生活課までお問い合わせください』と放送していたそう。


「その頃はまだお父さんもお母さんも従業員の方々も無事だったんですけど……」


 再びうるうるしだす恵奈ちゃん。


「ゴールデンウィークが明けて田植えが終わった頃に、みんながいっぺんにおかしくなったんです」


 普通の生活が5月下旬のころに一変してしまったらしい。田舎村にいたほぼ全員が何か決まった言葉しか話さなくなってしまったのだった。


「昼間はぼーっとして、話す言葉がずっと一緒で……。でも、夜はちゃんと寝るし、ご飯もきちんと食べているんですけど、学校の授業を受けたり仕事をしたりすることはないんです。話しかけてもずっと同じ言葉を繰り返すだけでっ……。まるでわたし以外の全員が夢遊病にかかったみたいなんです」


 そのとき、恵奈ちゃんの部屋のドアをコンコン、と誰かが叩いた。


「お嬢さん、いらっしゃいますか?」


 はい、と恵奈ちゃんが返事をすると、扉を開けてはやし育三いくぞうが入ってきた。


「ひゃっ! ミカゲ先輩! 戻ってきたんすね!!」


 育三は日焼けしてちょっとだけたくましそうになっていた。あの頃の線の細いもっさいおっさんではなくなっている。そして俺たちにも、


「この間はものすごく世話になりやしたっ! あれから俺、頑張ってます!!」


 と全然違うキャラで挨拶してくれた。


「そうか……育三ちゃんも無事だったんだな?」


 ミカゲが恵奈ちゃんと育三に問う。恵奈ちゃんはコクンと頷き、育三は


「ったりめぇっすよ! 俺はミカゲ先輩の弟子ですしっ!!」


 ううむ、なんかキャラが違っているぞ? 育三ちゃん。

 恵奈ちゃんはミカゲに肩を抱かれ少しづつ落ち着いてきたのか、育三ちゃんが入ってきてちょっと和んだ雰囲気になってきたのか、そのあとの出来事をいろいろと教えてくれた。


「6月の初め頃に村内に有線放送が流れたんです。放送では田舎村の小学校の先生が『まだ無事な人がいたら、田舎小学校まで来てください』と呼びかけをしてたんです。それで私と林さんも無事だったので、小学校へ向かったんです」


 小学校にはおおよそ40人ぐらいの人たちが集まったそうだ。つまりそれ以外の人たちは……呪いに侵されたのだろう。


 そして有線放送で呼びかけをした先生ってのは、恵奈ちゃんから聞いた特徴を考えるとゴールドスライムさんだろう。

 そのあとの恵奈ちゃんから聞く残された人たちの特徴と、俺たちの記憶を照らし合わせると、呪いにかからなかった人たちは……


「……全員、すずくんが面胴小手のようなものをした相手ですよね。ゴールドスライムさんはデコピンだったけど、効果はあったんですよ」


 あかねんが推測する。俺もまったく同意見だ。そして俺の禊祓技を受けた人たちが全員無事ということは、おかしくなった人たちを直せるかもしれない。



 俺はふと思い立って、恵奈ちゃんのお父さんの社長に向かって、思いっきり面胴小手ぇぇぇぇっ!!! とカマしてみた。

 が、様子は変わらず、打撃を受けても表情を変えないままだった。ちょっとだけ、たんこぶが出来てたけど。


「マスター、今の呪いではその剣の力では祓えない。魔王を倒さないとだめ」

「そうか……ごめん、社長」


 あかねんが、ヒールをほんのりと社長にかける。あっという間に社長のたんこぶが消える。回復力もかなり大幅に上がっていて、本当の魔法のようだった。


「ふふっ、この杖の力ですよっ! みなさんも怪我したらすぐに直せます!!」

「ぼ、僕だって召喚技は得意になりましたから。あ、蟻はノーミスでいけますよ」


 ああうん、ありがとう2人とも。


 恵奈ちゃんは両親が心配なので、俺たちに同行しないそうだ。

 魔王の呪いが強化されていても以前の呪いで禊祓を受けた人は、この先も呪いにかからないとシアンが言ったので安心だろう。

 まるでおたふく風邪のようだな。


「困ったことがあったら、林さんがちょくちょく見に来てくれるので大丈夫です。それに薫さんも戻ってきたから……」

「そうか……だけどなにかあったらすぐに俺に電話よこせよ」



 恵奈ちゃんを一緒につれていく、という選択肢をミカゲは選ばなかった。

 俺たちのように、龍族の加護を受けているわけじゃない恵奈ちゃんは、魔王と対峙したときに、命の危険もあるとシアンが言ったからだった。


「まぁ、俺にまかせとけ。すぐに社長を元にもどしてやるよ」


 ぐっと、ミカゲは恵奈ちゃんを抱きしめる。なんだか直視できないムードになってきたので、俺たちは恵奈ちゃんの部屋を出てしばらくミカゲと恵奈ちゃんを二人きりにさせたのだった。

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