第3話 仲間
実家に戻ってから1週間だけのニート生活。
十分に羽根を伸ばしてのんびりした、とはいえない忙しさだった。
仕事用のスーツを買いに行ったり、母さんが一人では農作業が大変そうだったのでちょこちょこ手伝ったり、姉ちゃんの家に行ってきて「俺は実家に帰ってきたぞー」のあいさつをしたりと、ほぼ毎日なにかしらの用事があった。
そしてあっという間の入社式。
ここの役場に地域協力隊として今回入ったのは、3人。
役場職員ではない地域協力隊員なので大々的な入社式というのはなく、役場の会議室の一室で簡素に入社式は行われた。
俺たち3人のほかに村長、副村長、あとは配属先の部署の課長、それと総務の人たちが数人だけというものであった。
「われわれの村の運命は、君たちにかかっている」
と大げさすぎる村長のあいさつがあったのだが、毎回入社する人に言ってるんだろうなーとあっさり流した。
……これが今考えれば、大きな間違いだったのだが。
入社式が終わってから、俺たち地域協力隊員は、1週間ほど研修を行うらしい。
村民への接し方や、どのようなことに留意して行動するなどの一般的な教育から、電話の対応の仕方や、役場内の部署の説明などのことを研修するそうだ。
今日からその研修は行われるらしく、その研修の準備をすると言って俺たち3人を残して村長や他の職員は全員部屋から出ていってしまった。
せっかくなのでその時間を使い、それぞれに自己紹介をすることになった。
「俺は鈴成和哉といいます。都会大学を卒業して、ここに来ました。身長は178センチ。体重は70キロ。高校時代は剣道をやっていました。彼女募集中です」
こういうときは、いち早く自己紹介をしてしまうに越したことはないと、俺は思っている。
別段リア充ではないけど恥ずかしがったらグダグダになるからいろいろなことを最初に言い切るほうがいいし、主導権を握れるというかそんな気持ちもある。
それに、緊張して自分の自己紹介タイムを待つよりも、のんびりと残りの2人の自己紹介を見るほうがいいからな。
「え、えと……三輪あかねと申します。隣市立高校を卒業して、ここに就職しました。身長は155cm。た、体重は……秘密です。趣味は読書です。彼氏は……えとその……いません」
三輪さんはすこし茶髪でボブカットのメガネ女子。性格はおとなしそう。
毎日図書館に学校が終わった放課後に通っていそうなタイプだな。
腕とか細いし小さくて体力とかもなさそう。地味な女子っぽいな。見た目は。
ぼんやりと、わりと失礼なことを考えてたときに3人目があいさつをした。
「ぼ、僕は青柳太郎です。都会有名大学を出て、に、2年ほど家事手伝いをしていました。親の計らいでここに就職することになりました。か、彼女というか嫁なら5人い、います」
あーそうか。俺の友達系の人か。
でも都会有名大学ってことは勉強はできるんだろうなぁ。
だが、たるみきったおなかと真っ白い肌で、体力はなさそうなのには気づいていた。
なぜならここの会議室は2階にあり、さっきそこを登っている階段の途中で青柳さんはふぅふぅと息切れをしていたのだ。
ありゃかなり体力がないぞ? 隊員は外回りも多いだろうしどうするんだろ?
身長は三輪さんよりちょっと高いぐらいかな?
見るからに机での仕事しかやりたくない! という主張をからだ全体でしているようだった。
それに家事手伝いって男なのに、なんでだよ。ただのニートだったんだろぉぉ?
体よくニートを家事手伝いと言い方を変えただけだろぉ? と思ったけど、ここでそれを言ってしまうとかなり失礼な人になってしまうので、俺はぐっと我慢した。