第2話 始まりの集落
最初に違和感を感じたのは、実家に向かう途中にあるコンビニエンスストアに寄ったときだった。
「いらっしゃいませ~!」
店員さんの対応は普通だった。
だが、とある棚……具体的にはカット野菜やたまご、牛乳などの食料品を売っている冷蔵棚の下方にそれは置いてあった。
牛乳が小さく押し込まれ、無理やり作ったスペースに真っすぐな竹をナナメに切っただけの竹やりっぽいものや、木で作った鍋のフタみたいな妙なものが販売品として置いてあったのだ。
冷蔵棚の値段、つまりたけのヤリの真下には手書きで『たけのヤリ 10G』と書いてある。
変わったもんが置いてあるなぁ、と物珍しく見ていた俺の前に店員さんがいきなり現れる。
「こ、これはまだ準備中ですので……すみません」
そそくさと手際よく店員さんはその妙なアイテムを片付けていた。
田舎のコンビニエンスストアだし、どうせオーナーの孫あたりが「おじいちゃん、ちょっと置かせて!」とか言いながらやったに違いない。
……そんなクオリティの低さであった。
なのであまり疑問に思わずに、そのコンビニエンスストアで普通にスナック菓子とジュースを買い込んで俺は実家に帰った。
「ただいまー」
ガラッと実家の玄関戸を開ける。
ふわっと香る実家の香り。やっぱ落ち着くわー。
「ああ、おかえり」
奥から母さんが出てきた。
農作業と主婦の兼業主婦なので、わりと時間は自由に取れる生活をしていて、今日は俺があらかじめ電話で帰るよと伝えていたのこともあって、母さんは農作業に出かけずに家にいたらしい。
ちなみに父さんは、飛行機で行く距離のところへ単身赴任中だ。
姉ちゃんも2年前までは実家に住んでいたのだが、今は結婚して別に暮らしている。隣の市に住んでいるから、車で20分も走れば姉ちゃんに会えるが、今日は止めておくことにした。
なぜなら姪っ子が6ヵ月になったばかりなので、たぶん姉ちゃんはてんてこ舞いだし。遊びに行ったら、絶対こき使われるだろう。
なので、現在の家には母さんと猫のミーシャ、それと今日から俺も加わって2人と1匹暮らしになる予定だ。
「わたしは、車でおまえを送ってる暇はないからね」
実家に帰ってきて、昼飯を食いながら仕事にいく日はいつだとかの報告を母さんにする。3月なのにここの地方はまだ肌寒いので、こたつにあたりながらだ。
そして、通勤手段の話をしようとしたところで、母さんからピシャリと牽制を受けてしまった。
「そら自分で自転車で通うよ。もう社会人なんだし、いつまでも親に甘えてられないだろ」
口の中の煮物をゴクンと飲み込んで、俺は言う。
その言葉がどうやらヤブヘビだったらしく、母さんは実家に住む分として給料のいくばくかを生活費として手渡す約束をさせられた。まあそれも当たり前だからしょうがないし、まったく出さないっていう気持ちはなかったから別にいいけど。
昼食を食べ終わったあと、母さんは昼飯を食べた後に「畑を見てくる」と言ってさっさと行ってしまったので、俺は自分の部屋を掃除して持ってきた荷物を解くことにした。
ミーシャはこたつの中でゴロゴロしていたが、人が居なくなってこたつが消されると寒くなったのか、俺の部屋でくつろいでいた。
そこは先ほどキレイに掃除したところなのに……まあいいか。