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第145話 凱旋

「よっしゃ、帰るか――!」


 それぞれの荷物がミカゲの車に詰め込めなかったので、宅急便で送ることにした。

 そしてタローは無断でミカゲの車に乗っていた罰として、トランクの中に乗ることになった。


「ハッチバックだし大丈夫だろ? せめてもの情けでハッチバックのガードを開けといてやるからさ」



 運転席はミカゲ、俺は助手席。彩友香と桔梗は後部座席に乗ることになった。



「じいちゃん、いままでお世話になりました」


 車に乗り込む前に、彩友香は源蔵じいさんに挨拶をする。俺たちは邪魔にならないよう既に挨拶は済ませておいた。



 彩友香の挨拶に鼻を真っ赤にした源蔵じいさんは、


「うむ、元気にやるんじゃ。辛くなったら戻ってきてもいいんじゃぞ」


 と彩友香を最後まで心配していた。


「うん……」


 彩友香の目もまっかだった。

 そのときふわり、と白いものが空から落ちてきた。

 北の地である忍成村は、村全体が雪化粧をする時期に差し掛かっているんだろう。



「……たまに遊びに来てもいいですか? 俺たち全員で」

「ボケ! ……来るなら、旨い酒でももってこいよ」


 そう言って源蔵じいさんはくるりと俺たちに後ろ姿を見せ、片手を上げて手のひらをひらひらさせながら診察室へと戻っていった。



「よし、じゃあ出発すんぜ――!」

「おう、よろしく頼むよ、ミカゲ」


 彩友香はずっと黙って、後方の村が山々で隠れてしまうまで見ていた。



 *



「ただいま――――!!」


「みゃあ!」


 玄関を開けて大声でただいまをするも奥から出てきて応対してくれたのは、猫のミーシャであった。



「こ、ここが和ちんの家かぁ。広いね」

「…………」


 桔梗はなにやら厳しい顔をして黙っている。


「まあ上がってよ。家族は出かけてるっぽいから、戻ってきたら挨拶しよう」

「うん、わかったべ」


 彩友香と桔梗を茶の間に案内する。

 そしてお茶と戸棚にあったせんべいを出し、しばらくテレビを眺める。



「ただいまー、あれ? 和哉戻ってきたのかい?」


 母さんの声が玄関から聞こえる。

 どうやら畑に行っていて、戻ってきたようだった。

 母さんのその声の直後、タタタタッと廊下を走る音が聞こえた。


 茶の間の障子がガラッと勢い良く開き、水色の物体が俺に飛び込んでくる。



「マスター! おかえりなさい」


 ぎゅっと俺に抱きついて、顔を真上にあげて俺に挨拶をするシアン。

 その格好は水色で統一した農作業姿。日よけの帽子が似合っていて可愛かった。


「ん、ただいま」


 満面の笑みを浮かべるシアンだったけど、すぐに顔を無表情に戻す。でもほっぺはまっかっかだった。

 俺はシアンの頭をぐしゃぐしゃっと撫でる。



「ご、ごほんっ。つい顔が緩んでしまった……」


 そんなことを言いながら、嬉しさをごまかすシアン。

 そして、そのあとから母さんが茶の間にやってくる。


「あれ、お客さん? いらっしゃいませ」



 あ、そうだった。

 彩友香と桔梗の説明……なにも考えてなかったな。


「あ、えーと……こちらは忍成村でお世話になった千波彩友香さんと桔梗さん」


 あら、そりゃお世話になりました、と母さんは言う。


 彩友香はそんな母さんにおずおずと挨拶したあと、


「えっと、和ちん……和哉さんとおつきあいさせていただいています! なので出来ればここでしばらくお世話になりたいと思ってますだ!」



 はぁ――――!!? ちょ、ちょっと待った!!



「ええええええ! いつ、どこでそんな話に!!?」

「ええええ! 彩友香さまっ! こんな男とだなんて正気ですか!?」


 俺と桔梗が彩友香の発言を否定するようにハモる。

 そしてさらにシアンが俺に抱きついている力をぎゅうと強め、締め上げてくる。



「! まあまあまあ!! 色気もそっけも無かった和哉に……! まあ……!」


 母さんよ、口というか顔が緩みっぱなしですが?


 嬉しそうに母さんは彩友香のことをもう嫁さん扱いをし、いろいろと会話をしだした。あぁ、もう好きにして……。



 ぎゅうぎゅうに締め上げてくるシアンには、


「ほんっと、心当たりはないから! ごめん!」

「……本当か? もし何かやらかしていたとしたら、マスター……覚悟はあるな?」


 ひいっ!

 あの酔った夜のことはノーカンだよ、ノーカン。



 そんな彩友香の爆弾発言から、微妙な夕食までの時間はあっという間だった。

 その間はきっと、主に俺の魂が抜けかかっていたんだろうな。


 食事が終わって、母さんと彩友香は台所で片付けをしに行き、茶の間にいるのは俺とシアン、そして桔梗。



 桔梗が、厳しい目でシアンを見つめていることに気づいた。


「どうした桔梗――――」

「あの……弥盛いやしろさまですよね。あたくしのライバルの」


 はっ? どういうこと?

 ライバル宣言されたシアンの顔を見ると、なにかよくわかっていなそうだった。



「龍族なのはわかるが、お前は誰だ? わたしは知らない」


 はっきりと知らないって言い切るシアン。

 それに対して桔梗は、きいいっ! と叫んでいて、シアンに殴りかかろうとする。



「なんだ……また小煩い龍族のバカ娘が増えたな」


 トンっと軽い音を立てて、器用に茶の間の窓を開け茶の間に入ってくる魔王。

 俺んちをうろうろ徘徊……いや、見回りしていたらしい魔王は、桔梗の前に立ちシアンに殴りかかりそうだった桔梗のおでこに前足を載せ、ぐいいいいと押していた。



「まっ! このアホ猫! 邪魔しないで!」

「バカ娘とはなんだ。わたしは普通だぞ。な、マスター?」


 シアンがいつもの調子で魔王にツッコミをいれていた。以前のような刺々しい喧嘩腰じゃなくなっただけ、少しづつでも仲良くなっているんだろうな。


 桔梗は魔王をはねのけようとするが、魔王の力が強かったのか桔梗はまったくはねのけられなかった様子だった。

 そんな桔梗は、おでこに魔王の前足を置かれたままキイイイしていた。



「なんだ、龍族のくせに力がないのだな」

「う、うるさいですわね。大きな仕事を終えたからしょうがないんですわよ」


 飽きたように魔王は桔梗のおでこから手を離し、俺の肩に乗る。



鬼武帝あいつは強かっただろう。元々、奴はこの国のモノではないから、我にとっても目障りだった。滅ぼしてくれてありがたいわ」



 我以外の穢は全て敵だがな。と魔王は俺にだけ聞こえるように話した。


 俺の横にいる涼しい顔のシアンに、キーキーと騒ぐ桔梗。これから先、いつでもこんな事態になるのかな……。


 少し不安になってきたぞ。

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