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第134話 第3のお社崩壊

「よし! 倒れるぞ!!」



 屋根に上ったら、予想以上に大きな電波塔があった。

 それを俺たちはあっという間に分解していき、俺が支えている手を離せば倒れるという段階まで来た。


 なんでそれだけ早かったかというと、遅れて上がってきたミカゲの手にはプラスドライバーなどの工具一式が握られていて、その工具で簡単に電波塔の根元を取り外すことが出来たのだった。



「作業にゃ道具が大事なのは……いつも言ってるよな」


 くそっ、ミカゲはまたかっこいいことを言った。

 俺も、あらかじめ色々考えながら行動を起こさないといけないな。


 電波塔をとにかく倒して壊せばいいという目的の俺たちは、電波塔を保護してそっと下ろすのが目的ではなかったので、俺の手を離せばすぐに壊れるだろう。

 非常に簡単なお仕事である。



 タローとダークエルフが戦っている庭とは逆側の、なにも置いていない部分に電波塔をうまく倒れるようにし、そのまま落とす。


 ド――――ン!!


 大きな音と振動で、電波塔は一気に粉々になった。

 どうやらネジの締めが甘く、鉄骨同士が簡単にバラバラになったので、山小屋にもそんなに傷はつかなかったようだ。


 そして下ではダークエルフさんが苦しみだす。



「イ、イヤよ!! キャラじゃなくて本人に戻るなんて、嫌よ――――!!」


 最後のほうは泣き声のようになったダークエルフさんはあっという間に小さくなり、残されたのは40代のおば……女性だった。



「ううっ、わたしは……自分のキャラのままでいたかったのに」


 泣きながらおば……女性は話す。


「40代手前にして彼氏に振られ夢に見た結婚を諦めて、婚活に精を出していたけど……もうこの歳になると、夢も希望もなくなったわ。そんなときに自分の分身でもあるネットゲームのキャラに変身したままで、しかも永遠に若くいられるという誘いはとても甘いものだったのよ。そしてシンフォニック=レジスタのギルマスと恋仲になればきっと……夢にみた結婚が実現されると思ったのよ」



 脱力したままのおば……女性は、自分の動機について語った。

 幸いなのは、ここが崖の上ではなく、おばちゃんも白状したあとは崖から飛び降りる心配がないということだけだった。


 そのおばちゃんの告白シーンは本当に、サスペンスドラマっぽかったのだ。



「ふうむ。まー、当てはあるな。バツイチのヤローだけど、その気はあるか?」


 ミカゲが少し考えて言った。その言葉に若干食い気味でおばちゃんは話す。


「もうバツイチだろうがバツキューだろうがなんでもいいわ!! 優しい男性で定職についてれば問題なしよ! は、早くその人を紹介してちょうだい!!」


 いやあのバツキューってなんだよ……。

 と思ったけど、俺はおばちゃんが怖いので黙っていた。



「うーん、まあ料理ができりゃ問題はないだろうな。育三ってんだけど、俺らの地元に当てはあるから、山を降りてばーちゃんたちに料理でも教えてもらって……」

「花嫁修行ですね! 育三様のために超がんばりますわ!!!」


 おばちゃん、ミカゲの発言に食いつきよすぎだ。

 そして育三ちゃん、おばちゃんを引き取るのかな。


「いやまあ、女なら誰でもいいから紹介してくださいってうるさくてよ。外見その他は育三ちゃんには多分……かなりいいだろうし、年齢もちょうどいいべ」



 おばちゃんはいそいそと山小屋の中に入り、自分の荷物を素早くまとめて下山しようとする。そのおばちゃんをタローは引き止め、1つだけ質問した。


「あ、あの、もうアイディアル・オンラインにはログインしないんですか?」

「ええ、もうわたしは引退いたします。育三様のために!」


 キラキラした目をして、おばちゃんはとっとと下山していった。



「そう言えばさぁ、あのおばちゃんはなんて名前だったの?」

「俺はしんねーな。聞く気もなかったし」

「さ、さあ。魔力では名前までは読み取れません」


 タローだけは、おばちゃんの名前を知っていた。


ゆかりさん、っていうんです。凄腕のレイピア使いのエルフでした」



 こうやってあっさりネットゲームを卒業するひとも、案外多いのかもしれない。




 俺たちは山を登る。

 あと1つ社を壊せば、鬼武帝との戦いだろう。



「しかし、さっきのおばちゃんはなんの欲だったんだ? 婚活欲か?」


 ミカゲがタフマンを大事そうに飲みながら言う。


「婚活欲ってなんだよ。あれじゃないかな、睡眠欲」

「ん? どうしてだ?」

「紫さんはきっと寝る時間を削ってまで、現実逃避ネットゲームをしてたんじゃないのかな? だから安心して眠れる自分の居場所が欲しかったんだと思うよ」

「そうなのかねぇ。俺にゃよくわからないけどよ」


 俺も結構こじつけた理由だとは思う。

 そしてたぶん、影に取り込まれた人物は、自分の欲のために度が過ぎるぐらいの行動を起こしてしまうんだろう。


 その影を生み出している鬼武帝。その戦いには彩友香が必須である。



「……急ごう。彩友香を早く救出しないと」

「だな、さっさと行こうぜ」

「そうですよ。彩友香さまなら一方的にやられはしないですけど、それでもやっぱり心配です」



 俺たち4人は早足で、次の社へと向かった。


 ちなみにタローはリリスたんのパンツについて、かなり悩んでいたようだった。

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