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第132話 シンフォニック=レジスタ

「あっ、キャラを見てもらっていて、ありがとうございます」



 アメリカの田舎少女のようなフリフリの格好をしたおばちゃんは、頬を赤らめてタローにお礼を言う。


 やはりこれは……タローにフラグが立っている。ビンビンだ。


「あ、いえ、だ、大丈夫ですよ。一応ログアウトしておきましたから」


 普通にタローがおばちゃんに返答すると、おばちゃんは胸を押さえてズキュウウウン! 的な格好をする。


「いえ……『シンフォニック=レジスタ』ギルドのマスターに自分のキャラを見てもらえるなんて、光栄ですわ」


 シンフォニック? なんだそれ?

 スマホが通じるのなら真っ先に父さんに電話をかけ、シンフォニックなんちゃらのことを聞きたかったが、ここは圏外である。


 なのでタローに質問をする。


「なあ、シンフォニックなんちゃらのマスターって何よ?」


 タローはフフンと得意げな顔になって話す。


「あ、あのですね『シンフォニック=レジスタ』とはIDO……アイディアル・オンラインというゲームの中での最大ギルドなんです。そこでボクはギルドマスターをしてるというのは、以前にも話したと思います。で、この方……キャラ名ヴァイオレットさんは、ボクのギルドと協定を結んでいる友好ギルドのマスターで…………」


 一生懸命にタローは説明してくれるけど、俺とミカゲ、そして桔梗にはさっぱりわからなかった。


「まあとにかく、2人はゲーム内で知り合いってことだよね?」


 俺の質問にタローは「そうです」と答え、おばちゃんは否定した。


「いいえ! 知り合いを超えた仲ですわ! なぜならあのマクロビの丘の上で、レイドボス戦が終わった後、ブルーウイロー様はわたしに『結婚しよう』と言ってくれたのですから!!」


 いきり立った上に目の色を変えて、おばちゃんは話す。

 なんだかヤバい雰囲気だ。


「ブルーウイローって誰?」

「あ、それボクのキャラ名です。で、でも覚えがありません」


 そんな俺たちを放置し、おばちゃんはその後もうっとりしたように話す。


「ブルーウイロー様とゲーム内で結婚し、さらにオフで仲良しになってわたしと結婚してくれる。そう約束してくれたの……だから、そのバッジを見てブルーウイロー様が迎えに来てくれたと確信したわ。だってこんな偶然があるわけないもの。だから貴方がわたしの旦那様になってくれる、運命の人なのよ!」


 と俺のそばにいるタローを指差す。


 俺はその指から外れるように若干横に避けてしまった。そしてちらりとミカゲと桔梗を見ると、2人はテーブルでゆっくりとお茶を飲んでいた。ずるいぞ。



「だから今日は簡単だけどそれなりに見える格好で来ました。あの……わたしと結婚していただけますか? ブルーウイロー様ぁ」


 おばちゃんがにこやかに笑ってタローの手を取ろうとする。

 だけどタローは、そのおばちゃんの手をはねのけた。


「ご、ごめんなさい。ボクにはもう付き合っている人がいるので……」



 その時、おばちゃんの乙女だった顔が、一瞬、般若に変わった。まじ怖い。でもそのあとににこやかに顔を作り直して、おばちゃんは言った。


「キャラ同士は知り合いだけど、リアルではまだ知り合ったばっかりですもんね。ゆっくりとこれから仲良くなれば良いのです。それで付き合っている人はどんな人なんですか?」


 タローがあかねんのことを説明すると、やっぱりおばちゃんは般若になる。それに気づかないタローは、あかねんの他にもリリスたんやミカエルたんのことを話し始めていく。


「なんだ、2次元の話ですのね。2次元に嫁がいるのは普通のことですから、わたしは気にしませんわ。でも、いろいろな人に興味を持つのは、やはりわたしの気分が良くないので、ちょっとお仕置きね……。


 アイディアルチェーンジ!」



 かっこよくおばちゃんが叫ぶと同時に、おばちゃんはいもざえもんみたいな七色の光を放ち……スラリとした耳の長くて可愛い、エルフがそこにいた。四角い眼鏡はそのまま掛けていて、妙なチャームポイントになっていた。


 そんなおばちゃんが変身した姿はぶっちゃけると、俺でも可愛い……と思ってしまった。金色のサラサラとした長い髪のエルフは、騎士のような白銀でビキニのような鎧に身を包み、細い剣を細い腰に刺している。



「うふっ♪」


 バチンとウインクをする、おば……ヴァイオレットさん。俺たちは中身を自覚していたのでハマらなかったが、タローだけは別だった。



「うわ! ヴァイオレットさんですよね!!」


 タローは撮影会のオタクのようにスマホを構え、バシャバシャとヴァイオレットさんを撮影しまくっている。それに気を良くしたヴァイオレットさんは女豹のようなポーズを取る。Tバックの鎧にぷるんとしたお尻がものすごく目立つ格好だ。


「ふふ、いいでしょ。ブルーウイロー様になら、全てを捧げますわ」


 少し小ぶりのおっぱいを強調してみせる、ヴァイオレットさん。

 その胸を撮影しようとしたときに、タローはスマホの画面に釘付けになっていた。


「ど、どうしたんですか? そんな画面よりもリアルの胸のほうが……さ、さわってもいいですよ」


 ヴァイオレットさんのその発言すら、タローの耳には入っていなかったようだ。

 そのスマホの画面には……あかねんとリリスたん、ミカエルたんが揃って写っていて、にこやかにタローに笑いかけていた。

 おい、そこはあかねんだけじゃないの?


「ご、ごめんなさい。ヴァイオレットさん。ぼ、ボクはやっぱり心に決めた人がいるので、いくらIDOのキャラでも好きにはなれません」



 タローはヴァイオレットさんを振った。


「う、う、う、うえーん!!」


 その言葉を聞いたヴァイオレットさんは、ヒックヒックと大粒の涙を流し、耐えきれなくなったのか両手で顔を覆ったまま、小屋の外に走っていってしまった。

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