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第124話 桔梗と卵と小松菜

「桔梗、おはよう。……ちょっと話があるんだけどいいかな?」



 俺は次の日、彩友香が料理を作っている時間帯に起き出し、桔梗が1人のときを見計らって声をかける。


「え? あ、おはようございます」


 俺たちは桔梗に起こしてもらっていたので、起こされる前に起きてきた俺を見て桔梗は怪訝な表情をする。


「……お話ってなんですか?」

「その、彩友香にはまだ聞かせられない、桔梗のことについてなんだけど」


 そう俺が声をかけると、桔梗は表情をこわばらせる。


「あの、わたし……完璧にしてたと思うんですけど」

「うん。俺も昨日シアンから言われるまで気づかなかったよ」


 そのとき、奥から彩友香がエプロンで手を拭きながら出てきた。


「あ、和ちんおはよー、早いね」

「おはよう、彩友香」


 桔梗と話し込んでいた俺を彩友香はじろりと見たあと、にこーっと嬉しそうな笑顔を俺に向けてくる。


「なんだ、桔梗と和ちんってあんまり仲良くなかったみたいだけど、それは考えすぎだったべな。よかった」

「う、うん。……そうだ桔梗さ、ちょっと散歩でもしてこない?」

「そ、そうですわね。彩友香さま。お手伝い出来ませんけどいいですか?」


 彩友香はあっさりと俺たちに、


「うんうん、仲良いことはいいことだべ。行ってきな。それとついでに幸一じいちゃんのところから卵もらってきて」

「幸一じいちゃん? ってだれ?」

「あのハンター協会会長んとこ。村の入り口のところだから、うちから5軒隣!」


 わかったよ、と彩友香に返事をし、幸一じいちゃんちに俺と桔梗で向かうことにした。っていうかハンター会長は幸一っていうのか。じいちゃん達は自分の名前を名乗らないから面倒だなぁ。


 手にザルをもって、俺たちはてくてくと歩いていく。



「そ、それで……彩友香さまにはお話するんですか?」


 前を向いたまま、しゅんとしながら桔梗は俺に問う。その姿はかわいそうで可憐な少女にしか見えなかった。


「うーん、どうだろうな。桔梗の力を開放する手段も聞いたから、彩友香に話すと開放が難しくなるんじゃない? ただ彩友香は桔梗のことを大事にしてるから、内緒のままだとものすごく怒りそうだけど」


 そうなんですよね……と桔梗はため息をつきながら言う。



「もしも、わたしが変わってしまったら、彩友香さまは嫌うかしら……」


 この部分が桔梗にとっては一番怖いところなんだろう。俺が彩友香にストレートに言わずに、桔梗の本音を聞いてどうすればいいのかの相談をしたのはそこだった。



 幸一じいちゃんちについたので、「おはようございまーす」と桔梗と2人で挨拶をする。家の脇奥から会長が顔を出す。


「おー、鎮守神さまとてめえか。サユちゃんへ卵と、うちで取れた菜っ葉を持ってってくれ」


 しかし『てめえ』とか扱いがひどい俺である。

 桔梗に卵を持たせ、俺は菜っ葉……小松菜を持つ。それは瑞々しくて美味しそうだった。

 茶でも飲んでいくかい? と幸一じいちゃんは誘ったけど、


「彩友香さまが待っているので帰ります。ありがとうございます」


 と丁寧に桔梗は会長に言っていた。内心はお茶どころじゃないんだろう。



「まあ俺は桔梗の正体は彩友香に言わない。もちろん俺の仲間にも。だから桔梗自身が決断して、彩友香にきちんと話すほうがいいよ」

「そ、そうですよね……でも1つだけ和哉さまにお願いしたいことがあるんです」


 それは、彩友香と桔梗の儀式……つまり口づけをすることを、俺が彩友香に話してほしいとのことだった。



「うーん……難しいな。でもやらなきゃいけないのなら伝えるよ」


 そのあとは歩きながら、儀式をやるときには龍脈の上じゃないと駄目だとかの話を桔梗はしていく。つまりあの隠し部屋じゃないと儀式として成立しないってことか。


「まあ暗くして、そのままチューに持ち込んじゃえばいいんじゃない?」

「もうっ! それでは風情がないのです。だから和哉さまってモテないんですね」


 ぐさっ。それだけは言われとうなかった……。


「そうですね……彩友香さまって12月8日が誕生日なんです。でもからくり屋敷は11月末から来年の3月まで閉鎖になっちゃうんですよね。だから1ヶ月前のお誕生会と称してあの部屋で儀式に持ち込みましょうよ」


 そうか。パーティで盛り上がったあとのチューならなんとなく許される気がする。ちょっとだけ彩友香にお酒を飲ませてもセーフだろうし。


「それはいい案だね。でもパーティをやる材料とかないけど……」

「龍族便が使えればいいんですけど、あれって龍族の長しか使えないんですよね。それにこちら側にいたら意思の疎通は出来ないですし」


 え、ってことはドラジェさんって龍族の長だったのか。歳を経ている龍族が長になるってわけじゃないのね。


「ドラジェさまはすごい土地を治めてきて、代替えした今でもそこの土地は発展し続けていますから、すごい人なんですよ」


 尊敬するようにドラジェさんのことを話す桔梗。

 そのへんで俺は思いっきり話が逸れたことに気づき、慌てて元に戻す。



「で、材料はどうするの?」

「うーん、やっぱりここは彩友香さまにお願いするしかないですね。彩友香さまの材料調達技術は半端がないですから」


 パーティをできるだけ内緒にしつつ、材料を集めパーティをやる。

 かなり難易度が高いミッションだな。

 だけど……


「……まあ、やるしかないか。桔梗もどのタイミングで彩友香に話すのかをきちんと決めなよ」


 コクンと、頷く桔梗。


 俺たちはちょうど千波医院まで戻ってきたので、それぞれの計画を頭の中でかんがえながら、彩友香のところへと戻った。

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