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第120話 鋼鉄の玉三郎

 そこには、樽のような体型のじいちゃんが立っていた。身長は彩友香より低い。

 まるで山をコロコロ転がりそうなじいちゃんで、思わずコロさんと呼びそうになったけど、その前に彩友香が反応する。


「ええ――! だ、誰だべ?」


 俺は体型に、彩友香は見たことがないじいちゃんということに驚いていると、彼はあっさり自己紹介してくれたのだった。


「俺はハンター協会ナンバー(ツゥ)。人呼んで鋼鉄の玉三郎たまざぶろう。的を作ることにかけては右に出るものはいないぜ」


 と、その体型からは想像がつかない素早さで、あっという間に校庭の隅に手裏剣のまとを作った。ビールケースを置き、その前にコンパネに赤い二重丸を書いたものを立てかけていく。すごく手作りな的であったが、片付けはしやすそうだった。


「ふっ、こんなことは簡単さ」


 キザっぽい言い方をするけど、ただの丸いじいちゃんである。よくよく聞くと、玉三郎さんは忍成村唯一のお寺の住職であり、趣味でハンター協会に入っているものの、職業柄殺生は出来ないらしく、その葛藤を俺にぶつけてきた。


「みんなが爽快にハントしているところを、俺は指をくわえて見ているだけなんだ。それが悔しくて、自分になにか出来ることはないかと模索し、やっとここにたどり着いたのだよ」


 それは的を自分で作って、エアガンで狙い撃ちをすることだった。

 猟銃は弾を細かく管理するため、獲物を前にしない限り発砲は許されないらしい。なので涙を飲んでエアガンで我慢しているそうだ。


「的はな、角度が重要なんだよ」


 地面からの的の場合の角度は16度。と玉三郎さんは熱弁していた。

 そして、玉三郎さんが作った的に、彩友香は意気揚々と手裏剣を投げつけていた。手つきはかなり慣れていて、的にもスパスパ当たっていた。


「うまいねー!」


 拍手をしながら俺は彩友香を褒める。

 彩友香はこちらにお尻を向け、プリッとするような変な格好をした。ああ、ケツプリさんにしごかれたのね。そんなことをボディランゲージでやり取りしている俺たちを、桔梗はやはりじっとりと見ていた。


「な、なんで無言で意味が通じるんですの――!」


 きーっ、くやしい! みたいな格好をする桔梗。そのあと俺をじっとりした目で睨みつける。


「君が鎮守神さまか。村のことをよろしく頼むよ」


 じっとりした目を見られた桔梗は、玉三郎さんを向いて真っ赤な顔をする。


「あの、その、よろしくお願いします」


 桔梗は玉三郎さんにしおらしく、そして謙虚に挨拶をする。なんで桔梗は俺ばっかり敵視するんだろうな。



「そういや、前の鎮守神さまは凛々しい男子(おのご)の姿だったな。うちに像が祀られているから、そのうち見に来なさい」


 ケツプリさんの叔父さんが玉三郎さんちに祀られていたのか。ちょっと見てみたいと思った俺は、あとで全員で見に行くことにしようと心に決めた。


「しかし、伝承によると鎮守神さまは代々男子(おのご)という言い伝えがあったのだが、たまの気分転換、ってところか」


 その玉三郎さんの言葉に、ちょっとだけギクリとした表情をする桔梗。そりゃあ代々男の龍族だったのに、急に女子に役が振られて困ってるんだろうな。


「今回の鎮守神さまも女の子にしては凛々しいお顔をしていらっしゃるし、任せても大丈夫だろう。会長から大まかな話は聞いてるだろ?」


 はい、と俺は返す。

 あの役場職員たちが鬼の社を作っていることも聞いた、と話す。


「それなら話が早い。俺は一つ目の社を見つけてな。北の山に入る道が3方向にあるのだが、そのうちの一番左の道を上がっていったところにある妙な材木が組み合わさった小屋がそうだと思う。あそこには影が多数うろついていて、人は近づけないから困っていたんだ。なので君たちに早めに壊しに行ってもらいたい」


 おお、さっそく1つめの社の場所、ゲットだぜ。

 しかし、鬼の社なのにスズメバチの巣を見つけて退治してくれ、と頼まれている気分になったのは気のせいだろうか。


「影なんざちょっと厄介だが、夜出歩かないなどのちょっとした注意を守れば脅威ではないからな」


 ああ、だからスズメバチの巣と同じレベルなのか。田舎の人って強いな。俺たちは影を倒す能力を持っている。そしてそれを依頼する人たちも、わりと気軽であった。


「じゃあ俺は檀家さんたちを見回ってくるよ。まさか影の餌食になるのは、あの婆さん以外もういないだろうがな」


 と颯爽に玉三郎さんは去っていった。手土産にりんごを置いていったけど。

 しかし、鋼鉄という二つ名はどこから来たんだろうな。



「はぁっ!!」


 スタタタン! と小気味良い音を立てて手裏剣が的に刺さる。ケツプリさんの特訓により、彩友香は忍術も蹴りも……トンファーの術のキレもかなり良くなっていた。


「そういえばさ、桔梗ってなにか技が使えたりするの?」


 俺がそう質問をすると桔梗はフッと笑い、言った。


「戦闘できるようなスキルはまったく持っていませんわ。当然でしょ」


 いやそのなにが当然なのかよくわかっていませんが。

 話をあまりしたがらない桔梗に食い下がって、俺は桔梗ができることはなになのかを聞いてみた。


「その……傷を癒やすことと、飛び道具を防ぐことしか……」


 完全にトーンダウンした桔梗。

 ドラジェさんは桔梗の魔力が非常に強いと言っていたのだが、使える能力の方面が決まりきったかのように護りに徹している。だから桔梗はあまり自分に能力がないと思いこんでるのかもしれない。


「大丈夫だよ。桔梗以外は脳筋だからさ、護りができる桔梗はすごい貴重だよ」


 今回はあかねんという回復役が居ない分、桔梗は大きな存在である。だから、桔梗にも呪文の練習を行わせることにした。


「ひ、ヒール……」


 じわっと淡いベールが桔梗の周りを取り囲んだ。あれ? あかねんよりだいぶ効果が薄そうだ。魔法の光もあかねんのような鮮烈さがまったくなかった。


「う、ううっ……」


 桔梗はしゃがみこみ、顔を覆ってしまう。


「駄目なんです。わたし……魔力が強いのに何度練習しても、魔法の効果が薄いんです。無理なんですう」


 彩友香も手裏剣の手を止めて、桔梗の肩をぽんぽんと叩く。が、桔梗は大泣きしているようで、校庭にはヒックヒックと桔梗の泣き声だけが響いていた。

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