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結婚1

 俺の失態?のせいで、貴族令嬢としては不名誉な烙印がフローラに押されるところを、母上が王家や教会に圧力をかけてくれたお陰で、フローラと俺の結婚は異例の早さで認められた。

 そして、準備期間のない挙式に右往左往する中、母親のいないフローラのために母上がドレスの準備や挨拶状の作成などの世話をせっせと焼き、無事に今日の日を迎える事が出来たのだった。


 フローラと和解した父親のルシオは、同僚のマティアスとして式に列席している。

 ルシオから事情を聞いた母上は、脅したか懐柔したか、その両方かは定かではないけれど、ポルトにおけるルシオの汚名を返上させ、オルランド家の名誉を回復させた。

 つまり、十数年前の隣国の襲撃はルシオを象った魔族、魔物の神の仕業で、ルシオは魔族に捕らわれの身でありながら竜族に協力し、この度の魔族退治の際、命を落したという事にしたのだ。


 今後、ルシオは竜王国の母上の元で生活する。

 ルシオは魔族の目覚めを恐れて死ぬ事を希望していたが、母上はただで殺すのはもったいないと言って、実験、研究材料になる事を命じた。

 ルシオが母上に切り刻まれないよう祈るばかりである。

 

 また、隣国、つまり砂漠地帯を含む魔族の国は、竜王国の所有権放棄により、ポルトの国に併合された。

 そして、領主にはルシオの功績をもって、オルランド家が任命され、というか魔物の神の土地には誰も近寄りたがらなかったし、実際、魔素の濃いあの土地を管理出来るのは、今のところ俺達くらいしかいない。





「フローラ、どうした? 何か気になる事でもあるのか?」

「あの、・・・ううん、何でもない」

 

 ちらちらと後ろを気にするフローラに問いかけたが、黙ってしまった。

 まぁ、今は挙式中、集中した方がいい。

 俺にとっては別段、意味はないけど。

 神が認めようが認めまいが、俺達は番いだ。



「混沌を司る原初の神カオスを追いやり、この世に秩序をもたらした地母神ガイアのもと、二人の婚姻を認めます」

 貴族の婚姻を結ぶ役目を請け負う枢機卿の厳かな声が大聖堂に響いた。


  

 

「おめでとう、レオン、フローラ」

 式後のレセプションパーティで、皆にお祝いの言葉をもらう。

 適当に挨拶を返していると、突然フローラが立ち止まった。

 眉を八の字にして、拳を握り締め、今にも泣き出しそうな顔つきをしている。


「フローラ、一体どうした!?」

 声をかけても、何か思い詰めているようで、フローラには俺の言葉が聞こえていないようだった。

 フローラの視線の先を見れば父上と母上がいつものようにいちゃいちゃしているだけで、特別に何があるというわけでもない。

 二人が俺達の視線に気付いて、こちらにやって来る。


「ち、」

 すると突然、俺が挨拶をする前にフローラが父上の前に飛び出して、食ってかかるように言う。

「ち、義父上様、酷いですっ!! あんまりです!! どうして義母上様をお連れ下さらなかったのですか!! レオンと私の結婚式なのに!! どうしてっ、どうしてっ、」

 父上の顔を睨み付けていたかと思うと、その瞳に涙が盛り上がり、今度はわああああああああああと、顔を覆って泣き出した。


 三人で顔を見合わせた。

「母上、もしやフローラにその姿の事、話してなかったのですか?」

「んーっと、どうやらそうみたい。だって、王家と北の土地の事で話し合ったり、結婚の準備があったりで、とにかく忙しかったのよ! 忘れても仕方ないでしょ!」

「分かってるよ、母上を責めてるわけじゃない。母上がこの結婚において多大に尽力してくれた事は、俺もフローラもすごく感謝してるし。ただ、フローラはずっと挙式の時から思い悩んでいたみたいだから」


「え!? 母上!? 母上様?!」

 フローラが涙に濡れた顔を上げて、母上を見る。

「フローラ、ごめんねぇ」

「母上が公の場に出る時は、大抵こっちの姿なんだ」


 母上は、ハイネケン家特有の銀髪に紫の瞳を持った、ぼんきゅっぼんのゴージャス美女に変化(へんげ)していた。


「本当の姿だと、アルがロリコンになっちゃうでしょう? ありがとう、私の為に怒ってくれたのね。フローラは優しい子ね」

 母上とフローラは二人で抱擁し合い、泣いて崩れたフローラのお化粧を直してくるわと、父上と俺を残して二人仲良く行ってしまった。



「もう、始まったか」

「え?」

「レオン、我はそなたの味方だ。愚痴が言いたくなったら、いつでも聞いてやるゆえ安心して良いぞ」

「愚痴?」

「そのうち分かる」


 ???

 父上は奇怪だ。生粋の竜族である父上の思考回路はイマイチよく分からない。

 隣に立つ父上をじっと眺める。

 実年齢は千年近いのに若々しく、黙っていれば、美丈夫で威厳があってカッコいい。

 小さい頃の俺は、優しくて頼もしい父上が大好きで、膨大な魔力には憧れと羨望を抱き、竜王国を救い繁栄をもたらした偉大な黒竜王が己の父である事をどれほど誇りに思っていたことか。

 

 あ、そうだ。父上の顔を見ていて思い出した。

「そうそう、父上ってば、いつの間に十番目の弟を作ったのさ。俺、全然知らなかったよ」

「弟?」

「あのくそチビ、兄である俺に対して、生意気な口をききやがって。でも、アイツには助けてもらったからさ、お礼も言いたいし、今どこにいるの? 黒い髪に緑の瞳のチビ、そう言えば名前は?」

 ん? あれ? 俺達兄弟の人型は黒い髪に黒い瞳のはず・・・あれ? おかしいな。

 でも、緑の瞳は母上の瞳にそっくりだったけど・・・

 ???う~ん???


「我は、そなたの弟など作った覚えはないぞ? ま、ま、まさか、我の知らぬ間にローリーが浮気して、そなたの弟を産んだのか?! そうなのか!? レオン、答えよ!! そうなのだな!?」

 

 えーーーー!! なんでそうなるの!?


「ち、ち、違う違う!! ご、ごめん、父上! 俺の勘違いだ! そうか、あれは夢だったんだ! 俺、死にかけて、ヘンな夢を見たんだ。そうだよね、弟なんていなかった。おかしな事を言ってごめん! 母上が、浮気なんてするはずないし!」


「浮気・・・ローリーが浮気・・・」


 俺の勘違い、間違いだったと何度言っても、父上は全然聞いてくれない!!

  

「竜族は番いとしか子を為せぬが、人間は違う! まさか、我以外の雄と番って子を?!」


 や、やばいやばいやばいやばい・・・

 げっ、本当に雲行きが怪しくなってきた。

 どうしようどうしよう。

 ああ、まずい、黒雲が渦を巻き始めてるし!!


 パーティーの参加者達も異様な空模様に騒ぎ始める。

 母上が慌てて戻って来た。


 父上は早速、戻って来た母上に浮気をして弟を産んだのかと、問い詰めていた。

 母上は、何を馬鹿な事を言ってるのよと父上を叱りつけながら、原因はお前だったのねと俺を睨みつける。

 はい、その通りでございます、申し訳ございませんと顔に表し謝った。


 母上に一刀両断されても、くどくどと浮気を疑う父上と渦を巻く黒い雲を眺め、母上は、竜王国で待っているわとフローラに挨拶をすると、父上を引っ張って帰って行った。

 

 


 

 


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