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危機3

「ぅぐっ・・・グフッ」

 口の中に血が込み上がる。


「おっと、行き過ぎた。ああ、そうだ。せっかくだからお前も、あの魔石のようにして使うことにするよ。ちょうど番いの女も目の前にいることだしな」

 クックッ、男がいやらしい笑みを浮かべる。


「おい、こいつの目の前でその女を犯せ。犯した後は、美しい女だから、そうだな、目を潰して、耳と鼻を削いで、醜くしてやるといい。その後は四肢を切断、最後に首だ。ククッ、どうした? 俺が憎いか? 恨んで憎むといい。憎悪が深いほど、念の強い魔石に仕上がるからね」


 羽交い締めにされていたフローラがローブの男に床に押し倒された。

「フローラ!! ああああああああああああああ、やめてくれ、やめてくれ、俺はどうなってもいい、フローラには手を出すな! フローラ! フローラ! 許さない! 許さないぞ! 死んでも貴様を許さない! 呪ってやる!」

「おお、いいぞ、その調子だ! ハハ、愉快だねぇ」


 あああああああああああああ、このままでは、フローラが!!

 俺はどうすれば、どうすればいいんだ!!


「ぐっ・・・」  

「よし、取れた。ほら、見てみろ、お前の心臓だ。美しいだろう? 血を撒き散らさずに綺麗に心臓だけをえぐり取るのは難しいんだ。俺はこう見えて潔癖でね、自分の手が血で汚れるのは嫌いなんだよ」


 魔族の手の中にはまだ拍動を続ける血まみれでない綺麗な俺の心臓が握られている。

 もう一人のローブの男がそれを喜んで受け取った。


「次は、肝だな」

 再び、身体の中に差し込まれようとしたその手が、ハッとしたように止まる。


「お前達、ここはもういい。外に出るぞ」

 魔族はそう言うとあっという間に姿を消し、仲間の人間はどちらも口惜しそうに迷う素振りを見せたけれど、最終的には魔族に続いて消えた。



 助かった・・・のか?


 フローラは、衣服は乱されたものの無事だった。

 俺は心臓を取り出されたというのに、身体には傷はおろか血もついていなかった。

 あの魔族の手に握られた心臓を見ていなければ、実際に無くなっているなんて信じられないに違いない。

 竜族は生命力が強いから簡単には死なないはずだけど、心臓を取られて、俺はどのくらい生きていられるのだろうか。

 フローラが俺を長椅子に横たわらせた。綺麗な顔が涙でぐしゃぐしゃだ。

 

「フローラ、服を脱いで。俺、最期に、フローラの裸が見たい」

 フローラは泣きながらも俺の願いを聞いてくれて、目の前で全ての服を脱ぎ捨て、美しい裸体を見せてくれた。

「美しいな。フローラは本当に綺麗だ」

 フローラの白い肌には、俺が昨日付けたばかりの口付けの跡があちらこちらに散らばっていた。


「フローラ、ここに来て」

 フローラを長椅子に横たわらせ、その上に覆い被さる。


「フローラの純潔をもらっていくよ」

 俺に、どのくらいの時間が残されているのかは分からない。

 ロクな前戯もしてやれないまま挿入したけれど、すでに馴染んでいるフローラの身体は俺を柔らかく受け止めてくれた。

「フローラ、ありがとう、最高に気持ちいい」

 フローラの涙でぐちゃぐちゃになった顔にキスすると、甘い味にしょっぱい味が混じって、自分が泣いている事に気付いた。


 死にたくない死にたくない死にたくない!

 くそくそくそくそくそっ!!

 俺はもっともっとフローラと愛し合って、寿命を迎えるまでずっとずっと楽しく一緒に暮らすんだ!


 ずっと一緒にいようって約束したのに。

 怖がりで寂しがり屋のフローラは俺が一緒にいてやらないと、すぐに凍えてしまうのに。


 駄目だ! 俺が弱音を吐いたら、フローラが後を追って来ちまう。

 

「俺のフローラ、愛しいフローラ、俺がどれだけ貴女を愛したか、寂しくなったら思い出して欲しい」

 俺に愛された記憶はきっとフローラの心の糧になっているはず。

「いやよ、いや!! 私もレオンと一緒にいく。一緒にいきたい! 私も一緒に連れていって! 竜族の番いは死ぬ時も一緒なんでしょう?」

「フローラは竜族じゃない、人間だ! 人間は番いを失っても生きていける!」

「そんな・・・酷い! 酷いわ、レオン!」


 酷い事を言ってる自覚はある。

 番いを遺して逝くなんてサイテーだ。

 俺だって一緒に連れていきたい気持ちが無いわけじゃない。だけど・・・

「フローラ、よく聞いて。この世界にせっかく生まれたんだ。命の限り生きて幸せになるべきだ。俺に再会するのはそれからでいい。人間の寿命なんてあっという間だよ、すぐに会える」

「レオン、レオン、お願い、いかないで。私をひとりにしないで」


 俺はいつものように、おでこをくっ付け、鼻の頭にキスをして、泣き縋るフローラに言い聞かせる。

「大丈夫、フローラはもう一人じゃないよ。俺が精を放てば腹に俺達の子が宿る。生きて俺の子を産んで欲しい。俺とフローラの子だ。俺達が確かに愛し合った証だよ。それに、俺だっている。ほんのちょっと姿が変わるだけさ。フローラがいつも手元に置いて眺めていたくなるような美しい魔石になるよ。フローラをこうやって抱き締める事は出来なくなっちゃうけど、魔石になっても俺はずっとフローラが凍えないように温め続けるから」


 腹上死なんて、男の憧れじゃないか。

 まぁ、最初で最後っていうのが悲しいところだけど、なんとか恨まないで逝けそうだ。

 

「もう直ぐ、俺の家族が助けに来てくれる。マティアスも心配しているだろう。家族も俺も、フローラが無事に帰ることを望んでいる」


 交われば、フローラに俺の力を分けてやれる。


「ありがとう、一緒に暮せた時間は短かったけど、フローラに出会えて幸せだったよ。好きだよ、大好きだよ、誰よりも何よりも愛している。愛しいフローラ、心配しないで、俺はずっと傍にいる」 


 フローラに深く口付け、交わりを深めていく。

 交われば交わるほど、俺とフローラとの境目がなくなり溶け合って、ひとつになっていくのが分かった。


 どうかどうか幸せに。

 フローラを頼んだぞ。


 俺の全てを貴女に捧げよう、想いを込めて精を放った。






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