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危機2

 連れて来られたところは、神殿のような建物だった。

 大きな支柱が何本も林立する広いエントランスを通り抜け、祭壇の前にまで進む。

 祭壇には、石で彫られた巨大な男女の神の偶像が祀られていた。

 やはり、魔物の神は王宮に滞在している竜族から聞いていた通りの男女の双子神、つまりこいつの他にまだ女の魔族がいるということだ。

 だが、神殿の中はしんと静まり返っていて、女の魔族どころか、魔族を崇拝しているという人間の気配すら感じられない。

 立ち止まって偶像を眺めていると、ローブの男に皆に続いて祭壇の奥にある部屋へ入るように促された。


 部屋に入ると、魔族の男はフローラを重い荷物のように、どさりと無造作に床に落とした。

 そして、部屋の奥の豪華な長椅子にゆったりと腰掛ける。

 俺は走り寄り、呻くフローラを抱き寄せた。

「フローラ! フローラ!」 

「れ、・・・レオン! ご・・・ごめんっ・・・なさい! 気をつけてっ・・・言われてたのに」

 抱き合い、互いの存在を確かめ合う。

「いや、俺が油断した。こんな目に合わせて、俺の方こそ済まない」

 フローラを抱き締めながら転移魔法を使ってみたが、やはり魔法は発動しなかった。

 くそっ! 辺りをうかがい、必死に逃げ出す方法を考える。


 その時、俺の意識に触れるものがあった。

 魔族の男が腰掛けた長椅子の近くに置かれた袋から、かすかに邪気が漏れ出している。

 その袋に目が釘付けになる。

 やっぱり、こいつが!!


「ああ、分かったかい? 封印してあるんだけど、念が強過ぎて滲み出てくるんだよ。フフ、お前達はこれが欲しくて、竜の谷を出て来たんだろう? 嬉しいよ」


「何が目的だ! 竜族に何の恨みがあってこんな事を!」


「恨み? 恨みなんてないよ? むしろ、とても気に入っている。お前達ほどからかいがいがあって、俺を愉しませてくれる種族はいないからね。だから、竜の谷に引き籠ってしまった時は酷くつまらなくてね、しょうがなく、呪いのタネを使って引っ張り出そうとしたら、効果が出過ぎて雌を全滅させちゃっただろ? 番いを失くした雄は魔力を暴走させて自滅するし、竜族を根絶やしにしてしまったかと本当にあの時は焦ったよ」


 呪いのタネって何だ? 雌を全滅って・・・あの悲劇の原因は流行り病じゃなかったというのか!?

 あれも、魔族の仕業だったというのか!?

 

「さて、昔話よりも、これからの話だ。俺はお前達が欲しがっているこの魔石を全部やってもいいと思ってるんだよ。ただし、お前が俺を十分愉しませてくれるならという条件付きなんだが、どうだろう?」

「俺に何をさせようっていうんだ」

 魔族はニンマリ嫌な笑いを浮かべて、俺を正面から見据えた。

「まず、お前が守っていたあの街をその姿(・・・)で潰してきてもらおうと思う。信頼していた者に裏切られた人間どもがどんな顔をするか、さぞや見物だろうと思ってね。その後は、うーん、そうだな、竜のお前に乗って、王城を攻め落としに行こう。王城で人間と仲良くしている竜族が、どっちの味方をするのか興味があるんだ」

 ニヤニヤしながら、魔族が俺の反応を窺う。

「悪趣味だな」

「ハハ、よく言われるよ」


「断ると言ったら?」


「女を殺す」


「俺には始めから選択肢は無いってことか」

「ま、そういうことだ」


「レオン、やめて・・・」


「なら、仕方がない。・・・・・・分かったよ」


「レオンっ!!」




「なんていうわけないだろう。フローラの故国は俺にとっても故国。故国を裏切ることはしない。残念だったな、そんなことをしなくても、俺達は魔石を手に入れる。フローラも殺させない。俺達はずっとお前の居場所を探っていたんだ。じきに仲間と共に最強の竜王がお前を倒しに、ここにやって来る。お前はもうお終いだ」


 この神殿のある場所は、竜王国と同じ、閉じられた空間だ。

 竜族はポルトに潜入しながら、砂漠を越えたところにある北の広大な森をずっと探っていたけれど、見付けられないでいた。

 目印にイヤーカフを入口に落としてきたから、場所が特定出来るはず。

 場所さえ分かれば、皆がどうにかしてくれる。

 魔族が最強の竜王がやって来ると聞いて脅威を感じ、逃げ出す事を期待した。


「俺達は、あの頃の竜族とは違うぞ。仲間と共にお前を倒す」

  

「へぇー、そーなんだ。そいつはありがたいな。俺が本当に会いたかったのは本物の黒竜の方だからね」


 ところが、魔族の反応は逆だった。

 そして、何かを思案しているような仕草をしていたかと思うと、顔を輝かせて言う。


「その話が本当なら盛大に出迎えてやらないとな! ハハ、面白くなりそうだ! おい、お前達行くぞ」


 魔族の興味が俺とフローラから逸れて、竜王に移っている。

 それなら、それでいい。

 よし、そのまま、ここを出て行け。

 とにかく、フローラの傍から魔族を遠ざけたかった。


 ところが、ローブの男が魔族を呼び止め、こちらをちらちら見ながら何かを話している。

 嫌な感じがした。

 チッ、魔族が戻って来た。


「俺はもうお前に用は無いんだが、こいつらがお前の心臓と肝が欲しいんだってさ。人間にとっては霊薬だからね。というわけで、お前の心臓と肝をもらうよ」


 えっと思った瞬間、ズブリと俺の左胸に魔族の手が突き刺さる。


 隣でフローラが悲鳴を上げた。

 逃げなきゃと思うのに、身体はピクリとも動かなかった。






 

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