フローラ=オルランドという|女《ひと》
何で? 何で彼女は、俺が分からなかったんだ?
「おい、やっぱりお前の勘違いじゃないのか?」
「そんなわけない。さっきだってフローラに襲い掛かりそうになるのを必死で耐えたんだ。今だって、魔力が暴れてる。でも、何でなんだよ?! クソッ!」
聞いていた話と全然違うじゃないか!
「お前がまだ幼いから、雄として認識出来ないとか。パターンは違うけど、父上と同じかも知れないな」
兄上が顎に手をやりながら、考え込むようにして言った。
「うげっ」
マジかー。まずいじゃん。
「お前が未成年のくせに出歩くのが悪い。諦めて、切ない恋に苦しめ」
「えー! そんな殺生なァー。何か妙案は無いの? そ、そうだ! 変化で大人の男になって、フェロモンを出しまくるとか!」
俺、父上みたいになるのは、絶対に嫌だ!
通常、竜族が番いに出会った時は、お互いに一目惚れして恋に落ちる。
番いの繋がりは強く、出会ってしまったらもう、お互いに離れる事など出来ず、生涯深く愛し合って最高の喜びを得ると云われている。
ところが、父上と母上の場合は違った。
母上が幼く、出会った時、番いの繋がりを感じる事が出来なかった。
だから、父上は母上の愛を得るために、それはもう一生懸命、切ないほど頑張った。
「さあな、ま、頑張れ。じゃ、俺は行くから」
「待って! もうちょっとだけ付き合ってよ! 兄上、俺、どうやって口説けばいいのかな?」
「知るか!」
結果から言えば、玉砕した。
大人の姿に変化して、フェロモン放出を試みた。
不審者扱いされた。
ならばと、女が結婚の最重要条件にあげる財力を強調してみた。
つまり、女が好きな宝飾品を並べてみた。
物で釣るつもりかと軽蔑された。
辛い。
番いに嫌われるというのは、殊の外、思っていたより、心が傷付く。
宿屋のベッドでふて腐れていると、兄上がやって来た。
「お前は馬鹿か。あれでは番いどころか、どんな女だって相手にしないぞ」
傷心のところに、さらにダメ出しされて、心が荒む。
ムッとして言い返す。
「仕方がないだろ! 女を口説いた事なんて無いんだから! 失敗だってするさ!」
「フン、なら失敗して、お前に次の相手がいるのか? どうなんだ、言ってみろ」
・・・・・・
「いない。俺はフローラだけが欲しい」
「ったく、ガキだな! なら、何故、フローラを見ようとしない。番いだ、美しい女だと上っ面ばかりを見て、自身を見てもくれないような男に、心を動かす女などいないぞ。お前は母上の教えを、どういうつもりで受けて来たんだ」
浮かれ過ぎだ!と言う兄上の声を後ろに聞きながら、俺は宿屋を飛び出した。
兄上の言う通り、俺は有頂天になっていた。
番いを見付けて歓喜する自分に酔うあまり、フローラ自身を見ていなかった。
指摘されて初めて気付くなんて、大馬鹿者だ。
どうしてこんなに大事な事を忘れてしまっていたのだろう。
フローラ、フローラ、フローラ、俺の愛しい番い。
君の全てを愛すると誓うよ。
とりあえず、警備隊の駐屯所に行き、地道にフローラについての情報収集に努める事にする。
俺がフローラに求婚して振られまくっているのは、もうここでは有名な話になっていて、俺が彼女について教えて欲しいと乞えば、大抵の人には同情され、その他には大笑いされた。
からかわれたり、馬鹿にされたり、諦めろと諭されたりしながら、一つ、また一つとフローラの情報を得ていく。
その情報の一つ一つが貴重で、宝石のように輝いている。
フローラの欠片を集めているようで、愛しい。
名前 フローラ=オルランド 実家はオルランド侯爵家
年齢 22歳、独身 オルランド侯爵の孫娘 オルランド家の後継者
性格 負けず嫌い 男を敵視している 気が強い 根性が悪い
特徴 美人でスタイルも抜群だが、男嫌い 振られた男は数知れず 恨んでいる男も多い
魔法学校の成績はD 魔法使いになりたかったが、就職先が見つからなかった
好きなもの 甘味 酒 爬虫類
嫌いなもの 男 大嫌いなもの 父親 裏切り者 浮気をする男 不誠実な男 高慢な男
職業 北部大隊 第5警備隊所属の魔法剣士
夢 功績を上げて、没落したオルランド侯爵家の名誉を取り戻す事
諸事情
オルランド侯爵の一人娘、フローラの母親は社交界の華と呼ばれるほどに美しく、婿に入りたい貴族の男は山ほど居た。
それにも関わらず、フローラの母親が選んだ相手は王宮に仕える魔法使いで、二人は情熱的な恋に落ちた。 オルランド侯爵は娘可愛さに結婚を許したのだが、フローラが5歳の時、その婿は妻と娘を捨て家を出て行った。
その数年後、隣国と戦が起き、その婿が隣国の魔法使いとなっている事が判明する。
そのためオルランド侯爵家は、婿との縁が既に切られていたため、爵位こそ取り上げられはしなかったものの、裏切り者が出た家として没落を余儀なくされた。
隣国において、その婿はある女の魔法使いに夢中になり、その女の言うがままになっていたという。
信じていた夫の噂を聞いた母親は心労で亡くなり、老オルランド侯爵夫妻とフローラはポルト国で肩身の狭い思いをする羽目に陥る。