フローラの気持ち1
※フローラ視点
レオンくんが崩れ落ちるように倒れた時、私の頭の上にも天が落ちてきた。
衝撃で、目の前が真っ暗になる。立つことすらままならない。
恐れていた事が現実に起こった。
マティアスに支えてもらって、なんとか傍に行った時には、レオンくんは隊長から救命処置を受けていた。
「駄目!!」
私はマティアスの手を振り払い、隊長を突き飛ばして、自分が口付ける。
魔力を持たない隊長の人工呼吸なんて、何の役にも立たない。
今のレオンくんには何よりも魔力が必要なんだもの!
でも、どうすればいいの? 魔力の移し方なんて知らない! レオンくんは私にどうしてた?
とにかく無我夢中で、レオンくんに魔力が流れますようにと念じながら息を吹き込む。
レオンくんは私が何としてでも絶対に助けなきゃいけない。
私はずっと怖かった。
いつかこんな日が来るんじゃないかって。
レオンがいつも傍にいて、レオンくんには優しくしてもらって、こんなに幸せでいいはずないって、思ってた。
こんな幸せがいつまでも続くはずないって分かってた。
私は憎まれなければいけない子供。決して幸せになっちゃいけない。
なのに、私の因果にレオンくんを巻き込んでしまった。
全部、私のせいだ。私がレオンくんを一瞬でも望んだりしたから。
レオンくんとの幸せな未来を夢見てしまったから。
だから、神様は私に罰を与えようとしてる。
しばらくすると、レオンくんの唇がピクリと動き、もっとと強請るように私の唇に吸い付き始めた。
レオンくんが気付いたのかと喜んだけど、そうじゃなくてレオンくんの生存本能が魔力を欲して貪欲に私から吸い取ろうとしてただけだった。
これ以上渡すのはよくないって分かっていたけど、レオンくんが助かるなら、私はどうなってもいいと思った。
レオンくんは、あの日から不眠不休で街を守るために動いていて、魔力を使い過ぎていた。
魔法使いにとって、生命力を損なう程の魔力の使い過ぎは命取りになる。
魔力と生命力は深く結びついているから、寿命を削ったり、文字通りその場で命を失ってしまう。
といっても、普通の魔法使いは魔力が乏しくなってくると魔法が使えなくなるだけのことで、こんなふうに大事に至ることはまずない。
こんなふうになるのは、魔力を大量に消費する高度な魔法が操れる、まさにレオンくんみたいな優秀な魔法使いだけ。
レオンくんがいくら優秀な魔法使いでも、全部を一人でなんて、無理だよ。
だけど、私達に力がないから、レオンくんは全部を背負い込まなきゃならなかった。
そして、その無理があったからこそ、この街は救われた。
なら、私に出来る事は、・・・・・・
「おい! いい加減にしろ! お前もぶっ倒れたいのか!」
私はマティアスに肩を引かれ、レオンくんから引き剥がされた。
「いいのよ! レオンくんが助かるなら、私はどうなってもいい! 離して!」
「ばかやろう!! それでハルが喜ぶとでも!? 俺はハルからお前を守れと厳命を受けてるんだ。ハルに返すまでは俺の責任だからな、これ以上は許さん」
私はマティアスに羽交い締めにされ、レオンくんは救護班によって担架で運ばれて行った。
「ハルは大丈夫だ」
私はうずくまって泣いた。ただひたすら泣いた。
「レオンくん・・・」
馬鹿な真似はしないという条件の下、看病の許可が出た。
一旦は医務室に運ばれたレオンくんだったけれど、医務室は百足に噛まれた隊員達でごった返してしまった為、静かに休めるようにと別の部屋に移された。
呼吸も脈も安定していて、もう大丈夫と判断されての事だ。
ベッド脇の椅子に腰掛けて、眠っているレオンくんの顔を眺める。
大丈夫って言っても、顔色だってまだ良くないし、今、攻めて来られたら、レオンくんをどうやって守っていいのか分からない。
今回はどうにか命を取り留めたけど、再び魔獣の襲撃があったら、今度こそレオンくんが命を落とすような事態にならないとも限らない。
目が覚めて体力が戻ったら、すぐにここを出て行くように説得しよう。
決心した途端、ぶるりと身体が震えた。凍えるように寒い。身体を丸めてただ必死に耐える。
寒さなんて無縁のこの南国ポルトで、幼い頃から私はこの発作に悩まされている。
毛布を被っても火にあたっても、身の内に大きな氷塊を抱え込んだように身体は冷え切って、暖まる事はなかった。
精神的なものだと分かっているけど、自分ではどうにも出来ない。
このところ、ずっと落ち着いてたのにな。
あ、そうか、レオンとずっと一緒だったからだ。
レオンの魔力はとてもあったかかったから、凍えなくて済んだのかも知れない。
そう言えば、レオンくんの魔力も、傍にいるととても暖かくて心地良かった。
レオンが恋しい。
レオンが傍にいてくれるなら、辛くてもきっと耐えていけると思う。
レオン、どこに行っちゃったんだろう。早く帰って来て欲しいな。
帰って来てくれるよね?




