魔物の神2
あの時何が起こったのか、今でもよく分からない。
ただ、レフティが居なくなった。
レフティも居ない。
つまらない日々がまた続く。
何か新しい面白い遊びはないだろうか。
竜族は相変わらず引き籠ったままだしなと考えて、ふと、思い出した。
そう言えば、あの後、竜族の魔石ってどうしたんだっけ?
竜族の心臓や肝や血は人間にやったが、魔石は俺達が持ち帰ったはず。
ええと、随分昔の事だからな、頭を捻って記憶を掘り起こす。
そうだ、怨嗟の声がうるさくて眠れないってレフティが言うから、神殿の奥にまとめて封印したんだった。すっかり忘れていた!
神殿の奥から魔石を入れた袋を引っ張り出し、久々に禍々しい邪気を放つ赤に黒いまだら模様が入った物体をじっと眺める。
元は竜族だった魔石だ。
再び竜族に戻せないかなとしばらく思案してみたけれど、あいにく器用な俺でもそんな魔法は思い付かなかった。
拳大の大きな魔石は、流石に元は竜族のものだけあって、今なお大量の魔力を有し且つ恨みを忘れず怨嗟を撒き散らしている。
しぶといというかなんというか、哀れ過ぎて、くっくっくっ、愉快極まりないよ。
ああそうだ、この魔石を使って何か面白い遊びが出来ないかな。フフ、楽しくなってきたぞ。
魔石を神殿の周りに住んでいる魔獣に与えてみたら、やっぱり愉快な事が起こった。
人間を探して、襲い始めたのだ。
通常、魔獣と人間は住み分けているから、どちらかがテリトリーを侵さなければ交わる事はない。
あれだけの邪気を放つ魔力なのだから、魔獣も何らかの影響は受けるだろうなとは予想していたが、まさか人間に復讐をし始めるとは思わなかった。
人間に生きたまま血や心臓や肝を抜かれ、無惨に殺された恨みが怨讐となってそうさせるのだろうか。
ハハッ、やっぱり竜族はすごい。魔石になってまで、俺を愉しませてくれる。
いつの間にか僕以外、神殿の周囲から人間は居なくなって、それに伴い復讐心にかられた魔獣もどこかに行ってしまった。
まぁいい、魔石はまだたくさんあるし、人間はどこにでもいる。
ああ、あそこにしよう、俺はこの前レフティと出掛けて行った南の国で遊ぶ事に決めた。
あそこは魔素が少ないから、居心地はあまり良くないけど、人間がうじゃうじゃいるのは好都合だ。
それに、前に来た時、レフティの希望通り国を滅ぼすつもりだったものの、余りの手応えの無さに興ざめして、途中で投げ出して帰ってしまっていた。
当のレフティが居なくなって滅ぼす理由が無くなったし、そこの魔法使いはカスばかりで碌な抵抗も出来ず、俺にとっては面白くもなんともなかったからだ。
でも、魔獣に蹂躙させるには、ちょうどいいかも知れない。
それに、レフティは居ないけど、一旦引き受けた事だし初志貫徹しておこう。
魔獣がいなかったから、代わりに大きな獣を選んで魔石を埋め込んでやった。
東と西と南に一頭ずつだ。魔獣対人間、どんな戦いが展開されるのか、ワクワクする。
人間も少しくらいは反撃するだろうか。少々は踏ん張って欲しいな。
三方向から追い立てられた人間はどうするだろう。北に逃げるかな?
北に逃げてくれるといいな。さらに面白いものが見られるに違いない。
ところが、思惑は外れ、魔獣が蹂躙したのは一つの街だけ、おまけに魔獣化させた獣は全て始末されるという予想外のことが起こった。
国を滅ぼす計画はお蔭で台無しだが、あの魔石は結果的にもっといい仕事をしたと言える。
竜族を竜王国から引っ張り出してくれた。竜族はあの魔石に反応している。
さて、どうする?
これまでのように不用意に近付いて、せっかく見付けた獲物を逃がすのはもったいないからな。
慎重に動かなければならない。さあ、どうやって遊ぼうかとあれこれ考えを巡らせる。
プッ、ハハハ、楽しいよ! やっぱり竜族はサイコーだよ!




