魔獣の襲撃5
俺がおっぱいに挟まれて微睡んでいる時、それは突然起こった。
来た!
結界の網に引かかるたくさんのモノ。
魔力を持たない人間や獣が触れることはない。
マズイな。この感じだと、魔獣もどきではなく、正真正銘の魔獣だ。
人間の姿になって、昨日に引き続いてマティアスと共に、魔力持ちの隊員に魔力の込め方を指導しているフローラの脇に立った。
「フローラ、マティアス、南側から魔獣が侵入した。行くぞ」
すると街の至る所に設置してある魔獣の侵入を知らせる鐘が一斉に鳴り始めた。
部屋にいた隊員も、鐘の音を聞くと手筈通りの持ち場へと移動して行く。
空高く浮上し俯瞰すれば、南側の壁が破壊されていて、往来を走るブルの群れが確認された。
レノルドでは、城壁は国境に築かれて街自体に区切りはなくオープンである。
だが、ここポルトは逆で、北側には砂漠との境目に古い城壁が残されているものの、基本的には壁は国境ではなく、各々の街を囲んでいる。
予定通り、上手く誘導出来ているようだ。
普段は露天商で賑わう中央広場だが、行商人達は皆逃げ出してしまったため、今はガランとしてた空き地になっている。
隊長と俺は作戦を立てた。
足の速い魔獣に街中を縦横無尽に走られては、始末する効率が悪い。
一カ所に集めるため、どこから侵入されても最後はその広場にたどり着くよう、枝分かれしている道には衝立を立て、誘導路を整えた。
「れ、レオンくん~っっ」
フローラが子犬みたいにきゅんきゅん鳴いて、身体をすり寄せてしがみ付いてくる。
・・・・・・
「フローラ、もしかして怖いのか? 空中浮遊は初めてだったか? フローラ、そんなにしがみ付かなくても、落とさないよ」
「だって、こわいっ! 足は? ねぇ、足はどうしてればいいの?! もうぜんぜん分かんないよ! 空中浮遊なんて高等魔法、使った事ないもん!!」
半べそをかいて逆ギレしているフローラは超可愛い。
このまま空中を飛んで移動したら、泣いちゃうかな? ああ、それもそそられる。
泣きべそをかいたフローラを俺の腕で囲って(動けなくして)、慰めて(顔中を舐め回して)、甘やかして(撫で回して)、愛したい(押し倒したい)。
うん、両想いになったら、試したいプレイ100選に入れておこう!
「フローラ、そのまま目を瞑ってて。すぐに着くから」
ぎゅうぎゅうしがみ付いてくる柔らかな身体を抱き締めて、ブルの群れを追い込んだ場所まで飛んだ。
マティアスは遅れずに後を追って来ている。
交易で賑わうこの街は、大半が行商人で身軽な彼らは一報が入るやいなや、早々にポルトを脱出していた。
残った街の住人は鐘が鳴らされると、警備隊の言い付けを守って建物の中に避難している。
すると、再び鐘が鳴る。
「え? 嘘・・・そんなっ、」
首にしがみついていたフローラが声を漏らす。
ブルの群れから鐘の鳴る方角へと視線を向ければ、街の外に砂けむりを舞い上げて押し寄せる大群が見えた。
「フローラ、大丈夫だ、心配するな。あれくらい、俺がさっさと片付けて来てやるから、な? フローラとマティアスはこっちを頼む。氷魔法で動きを鈍らせて、皆が首を落としやすいように援護してやってくれ。マティアス、フローラを頼む」
おろおろし始めたフローラに声をかけ、マティアスに託そうと首に回された腕を外そうとすると、フローラが更に強く俺にしがみ付いた。
「フローラ! 時間がない、離すんだ。あれを街に入れるわけにはいかない」
魔力を持たない人間には分からないだろうが、その大群から距離的にはまだ離れているというのに、圧力を持った魔力の気配が既に押し寄せてきている。
「だめ! だめよ! 行っちゃダメ! レオンくんにだって無理だよ! レオンくんは昨日からずっと魔力を使い過ぎてるもん! レオンくんが行くなら、私も行く! 私も手伝う! 離れ離れはイヤ! どうせ死ぬのなら一緒に戦って死にたい!」
「フローラ・・・」
フローラもその強い魔力を敏感に感じ取っていたようだ。
甘い睦言のような我が儘に顔がにやけてしまう。
ああ違う、これは我が儘じゃない、番いにとっては正当な主張だな。
俺達の繋がりが確かなものになっている証拠だ。
「フローラ、口を開けて」
「え? 何?」
番いの繋がりに自信を得た俺はフローラの顎に手を伸ばすと、小さく開かれた口をこじ開けるように深く口付け、一気に魔力を流し込んだ。
慢性的な魔力不足に陥っていた俺は、ここのところフローラへの魔力注入を怠っていた。
これで落ち着いてくれるといいのだがな。
「あっ、うぐっ・・・んんっ」
本来ならば、フローラの主張通り番いはいかなる時も離れるべきではないが、魔力に余裕がない今、俺はフローラを守りながら魔獣を倒せる自信がない。
魔力を一気に流し込まれたショックで呆けているフローラを引き剥がし、マティアスに託した。
「マティアス、頼んだぞ」
俺は広場でいきり立っているブルの動きを鈍らせるために、氷魔法を群れ全体を覆うようにかけ、隠れていた隊員達に合図を送った。
そして、次の瞬間には予め目を付けていたこの群れのボスと思われる、つむじ風を纏った一頭のブルの頭上に転移し、首を切り落とす。
よし、これでいい。
後はこいつらだけでも始末出来るだろう。
俺は、膨大な魔力の塊となって邪気を放つ魔獣の大群の前へと転移した。




