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魔物の神1

 気が付いた時には、レフティと二人だった。

 俺達は双子(ツイン)だ。

 

 人間は、短命な上に脆弱で、愚かなくせに強欲で、魔法もまともに扱えない下等生物だ。

 だから俺達は、本能のまま力を振るい、人間を支配した。

 人間は俺達を神と崇め、畏れ、祀る。

 人間達が行う祭祀はそれなりに楽しいけど、つまらない日々は、人間達を困らせたり、逆に喜ばせてやったりして、遊んで過ごした。


 人間を困らせる材料など山ほどある。

 一つ一つ試していると、人間達は供物の中に生贄の人間を差し出すようになった。

 生贄の人間が恐怖に泣き叫ぶのを見るのは面白かった。

 でも、人間は脆弱で、あっという間に死んでしまう。

 だから、俺達は(しもべ)の人間に、すぐに殺してしまわぬよう、なるべく長く泣き叫ぶよう、残虐にいたぶって殺せと要求した。

 最初は渋っていた(しもべ)達も、褒美を与えると言ったら、嬉々として様々な手法で愉しませてくれるようになった。

 しかし、これもしばらく眺めていると飽きてきて、またつまらない日々が続く。



 俺達は神殿を出て、他のところに行ってみることにした。

 人間はあちらこちらに住んでいるから、からかって遊ぶには事欠かない。

 特に面白い遊びは、国の中枢に入り込んである事ない事を囁いてやり、仲良くしていた国同士を互いに邪推させて戦争を始めさせる遊びだ。

 戦争は見ていても楽しいし、参加しても面白い。



 通常、精霊や魔物は魔素の多いところを好み、人間とは深く交わらないでいるが、俺達は人間の姿をして人間とかかわって暮らしている。

 何故なのだろう。

 性質から言えば、俺達は人間よりずっと精霊や魔物に近いというのに。


 そして、俺達と同じように、性質は魔物なのに人間の姿で人間にすり寄って暮らす可笑しな種族がいる。

 竜族だ。

 人間とは異なり、魔力は高く自由に魔法を操り、長命で身体のつくりも頑丈で強い。

 脆弱で無能な人間などよりずっと興味深い。

 俺達にはぴったりの遊び相手ではないか。

 ところが、あいつらは俺達が近付こうとするとさっさと逃げてしまう。

 つまらない。

 だから、俺達は人間を利用して、竜を捕まえる事にした。


 竜狩りは面白いように上手くいった。

 あいつらは、当然、魔力を大して持たない脆弱な人間などに後れをとるなんて思いもしないから、人間に対しては無防備だ。

 とは言え、いくら数が多くても、無能な人間どもに竜族の捕獲は不可能である。

 だから、俺達は人間に、俺達の能力の一つである魔法の発動を無効化する力を組み込んだ、魔法封じの首輪を授けた。



 竜族をいたぶって殺すのは、面白いだけでなく興味深いものだったのに、だんだん捕まえられなくなった。

 危険を察知した大陸中の竜族が、故郷の竜の谷に逃げ込んだのだ。

 強固な結界に阻まれて、人間が竜の谷に踏み入ることは敵わない。

 仕方がないので、結界を壊すのに力を貸したが、なかなか破れない。

 俺達の魔力が尽きかけた頃、竜の谷の主と思われる黒い馬鹿でかい竜が顔を出した。

 わくわくした。

 だが、もう、今の俺達にはこいつの相手をするだけの力が残ってない。

 残念だが今回は諦め、しばらく眠って力を蓄えてからにしようとレフティと決めた。



 眠りから目覚めると、竜の主と遊ぶのを楽しみにしていた俺達は、真っ先に竜の谷に向かった。

 ところが、そこには、元から竜の谷など無かったかのように、ひっそりと沈黙した森だけが広がっていた。

 竜の谷への道がすっかり閉じられてしまっている。



 それからは、また、人間をおもちゃにして遊んだ。

 人間の唯一の良いところは、殺しても殺してもすぐに湧いて増えるところだ。

 だがやはり、脆弱で面白味に欠ける。


 すると、レフティが面白い事を思いついた。

 レフティは記憶のタネを改良して呪いのタネを創り出した。

 記憶のタネとは、俺達が人間に交じって暮らしたい時によく使う魔法で、自分達を家族や友人だと思わせる魔法だ。

 ほんの一粒を人間の頭に吹き込んでやれば、タネはそこで芽吹いて育ち、その何倍ものタネを撒き散らし、どんどん伝播していく。

 

 竜の谷に引き籠っている竜族が、たまたま出て来るのをじっと待つのは骨が折れたが、成功した時には歓喜に近いほどの喜びを覚えた。

 

 竜族が閉じられた竜の谷から大慌てて飛び出して来る様は、可笑しいなんてもんじゃなかった。

 ただ、レフティの呪いのタネは思ったより効果が過ぎて、せっかく飛び出して来た竜族もほとんどが死んでしまった。

 呪いにかかっていない雄も、番いの雌が死ぬと狂ったように魔力を暴走させて自滅する。

 


 竜族はもう滅びてしまったかも知れないなと諦めていたところ、また見かけるようになった。

 観察していると、どうやら竜族の雌が死に絶えてしまった為に、若い雄が番う相手を人間の雌に求めて竜の谷から出て来ているようだ。

 だが、この若い雄達は慎重で、昔のように堂々と竜体で空を滑空することはなく、竜体で移動する時は結界を張り闇に紛れて飛ぶ。

 決して人間の前で無防備にその姿を現そうとはしなくなっていた。

 人の姿になって人間に混ざれば、俺達でも探索は不可能だ。


 

 竜族と遊びたいのに、あいつらはやっぱり引き籠もったままで、竜の谷から全然出て来ない。

 つまらない日々が続く。

 相変わらず人間を殺して、憂さを晴らす。



 そんな時、レフティが傷付いた人間の男を拾ってきた。

 ペットにでもするつもりなのか、傷を治してやり甲斐甲斐しく世話を焼いている。


 最近は俺と一緒にいるよりも、その男と共にいる方が多いかも知れない。

 そんな時、レフティが突然俺のところにやって来て、ポルトを滅ぼしに行くから付いて来て欲しいと言った。

 その男の故郷がポルトで、男は故郷にいる家族のもとへ帰りたがっているらしい。

 帰る場所が無くなれば、男はずっとここにいてくれるとレフティは言った。


「そんな面倒なことをしなくても、いつものように記憶を操作するか、意思を奪ってしまえばいいじゃないか」


 すると、レフティはそれじゃあ意味がないと悲しげに言った。


「私はずっと番い持ちの竜族の雌が憎らしかった。私も一緒にいてくれる番いが欲しい。ねぇ、ライティ、私達も人間と番えないかな? 性質の似ている竜族が番えるんだから、私達だって出来るはずよね?!」


「何馬鹿な事を言ってるんだよ! 下等な人間と番う? 冗談じゃない! それにレフティ、俺達は番いじゃないけど、いつだって一緒だっただろう?」


「あなたは私、結局ひとりぼっちには変わりない。ねぇ、ライティ、無能な人間は多いけれど、その中には魔力が高くて、私達を虚しさから救い出してくれる人間がいるはずなのよ。私、分かったの。そうでなければ、わざわざ人間の傍にいる意味がないでしょう?」


 レフティの言ってる意味が全く分からない。

 

 

 



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