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魔獣の襲撃3

 昨夜、兄上に会うためにイヤーカフに仕立ててある家族用の通信具で連絡を取った。

 大陸中で今もなお大流行しているレノルド製通信具の原型(オリジナル)である。

 元々は母上が竜族の番いのために考案したもので、構築式が組み込まれた透明の石(クリスタル)に二人で魔力を込め、それを二つに割って各々がその欠片を持っていれば、石の共鳴によって互いの位置が分かったり、話が出来たりするというもの。

 心配性の父上に付きまとわれて、うんざりしていたところからヒントを得たらしい。


 常に番いが気にかかる竜族には大いに歓迎されて、今では番いのいない独り身の竜族でさえ、未だ会えぬ愛しい番いに想い(こが)れ、その石を持ち歩いているくらいだ。


 俺も当然持ってる。

 フローラと想いが通じ合ったら、一緒に魔力を込めて、お揃いの指輪か腕輪に仕立てるつもりだ。

 二人でそれを身に付けている姿を思い浮かべれば、顔が勝手にニマニマしてしまう。

 俺とフローラの魔力が込められた石はどんな色に輝くだろう。楽しみだな。

 


 その家族用の通信具だが、俺がルカウス兄上だけと話がしたくても、家族用のため全員にバレてしまうのが難点だ。

 別に聞かれて困る話ではないのだが、兄弟のうち、特に年が近い三人の姉上達は俺に対して干渉が過ぎるから、すぐに首を突っ込んできそうで連絡を取る気になれなかったけど、緊急事態だから仕方がない。


 案の定、兄上と話している最中に、姉上達に割り込まれ、会話の主導権も取られて中断する羽目に陥った。

 というか、10人が会話するのって無理があると思う。

 

 クリムを襲った魔獣は既に兄上が始末してくれていた。

 兄上に連絡を取ったのは、そいつの始末を頼みたかったからなのだが、ひとまず助かった。

 俺はフローラを置いて、ここを離れるわけにはいかないから。


 


 懲罰なしということで、早々にここを引き払ったのは王都に実家がある貴族の子弟達だった。

 フローラに暴言を吐いた奴らだ。

 出て行ってくれて、助かった。あんな奴らを身を削ってまで守るのはご免だからな。 

 後は、妻子を持つ者が、家族の元に行ってやりたいと申し出た程度で、第5警備隊のほとんどの者は残った。

 別に忠義立てをしたわけではなく、隊員がどうしようと迷っている間に王都の城門は閉じられ、自ら厳戒態勢に入った。

 つまり、王宮はどこにも援軍を送るつもりがないし、難民も受け入れる気がない。

 王都以外のポルトの民は見捨てられたように思うだろうが、実状は他まで手を回す余裕が無く王都を守るので精一杯なのだ。



 そうとなれば、各々の街は自衛するしかない。

 悲壮な面持ちで整列している隊員を前にして、俺はきっぱりと言い放った。

 

「今から、多少なりとも魔力を持っている者を選んでいく。選ばれた者には、自分の魔力を剣に込められるようになってもらう。込められなければ、魔獣は殺せない。死にたくなければすぐに練習しろ。魔力の込め方はフローラが教える。急いだ方がいいぞ、魔獣はいつ襲ってくるか分からないからな」


 魔法を発動出来なくても、己の剣に魔力を込めるくらいなら、そう難しい事ではない。

 班ごとに並んだ者の間をぬって歩きながら、魔力持ちを選んでいく。

 グレンの目の前で止まれば、期待に満ちた目を向けられた。

 いや、済まん、残念だがお前じゃない。


「マティアス、お前だ」


 グレンと異なり、マティアスの顔は強張っている。

「今は緊急事態だ。働いてもらうぞ」

「・・・わかっている」


 こいつは普段魔力を持っている事すら気取られないように慎重に行動しているが、あの鹿の魔獣を相手にした時、俺と同じでボロを出した。

 俺はフローラに頼まれ他の奴らの剣に魔力を込めて回っていたのだが、マティアスの剣には既に魔力が込められていた。



「魔力を全く(、、)持たない役立たず(、、、、)のお前達の剣には、仕方がないから俺が魔力を込める」

 

 この状況下で多くの魔力を消費するのは、本当に気が進まないが、致し方ない。


「一列に並べ」


 一人ずつの剣に魔力を込め、同時に剣の時を凍結させていく。

 いつ襲ってくるかも知れない魔獣相手に、まさか丸腰で放り出すわけにもいかないしな。


「一息に首を落とせ。それが無理なら、まず脚を切り落として、動きを止めろ。他の部分は攻撃を加えても意味がない。それから、単独では動くな、必ず班ごとで動け。一頭ずつ仕留めていくんだ、いいな」


 初めて見る魔獣に臆さないように、戦い方の指示や注意を与える。

 手の掛る奴らだが、しょうがない。

 こいつらは魔獣に対しては、知識も経験も持ち合わせていない赤子と同じなのだ。

 臆病風に吹かれては、せっかく剣に魔力を込めてやっても、宝の持ち腐れになるばかりではなく、命も危ぶまれる。


 ・・・・・・


 はぁー・・・


 とはいうものの、ずっと後ろの方まで続く長い列を見れば、気が遠くなった。





 

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