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魔獣の襲撃2

「俺も願うぞ! 助けてくれ、ハル! 皆で力を合わせて魔獣をやっつけよう!」

「ハル! 頼む! 俺達に力を貸してくれ!」

「・・・・・・」

「「フローラ!! 早く願え!!」」


 二人が俺に懇願する中、フローラだけは怯えた表情で無言を貫いていた。


「フローラ・・・」

 カッコ良く決めたつもりだったのに、フローラは何も言ってくれない。

 フローラにとって、俺はそんなに頼りない番いか?

 お前が望むなら、どんなに馬鹿馬鹿しい願いでも俺は叶えてやるつもりなのに。

 悲しみが身体の隅々まで広がって行く。

 その上フローラには、手を振り払われ、背を向けて拒絶されてしまった。

「フローラ?」

 番いの繋がりを日増しに感じていたのは、俺だけだったのか?


「「フローラ!!」」

 

「嫌! そんな事、願えない! 願いたくない! だって、私が願えばレオンくんは無理をしてでも、叶えようとするでしょう? そんなの駄目よ。私、嫌だもん。絶対に嫌! それで、もしレオンくんが傷付いたり、し、死んじゃったりしたら、どうするの? 私、助けてもらっても、ちっとも幸せじゃないよ! でも、ポルトを捨てて、レオンくんと逃げる事は出来ない! レオンくん、ごめんね! 一緒に行けなくて、ごめんなさい! ううっ」

「フローラ・・・」

 両手で顔を覆い泣きじゃくるフローラを後ろからそっと包むように抱き付いた(・・・)

 くそっ! こういう時は、マジ身長が欲しいなと思う。

 フローラを安心させるためにも、胸に抱き寄せて優しく包み込んでやりたいと思うが、悲しいかな今の俺の身長はフローラより少々低い。

 だが、完全な成体の雄竜になるには最低でもあと2、30年くらいはかかるだろうから、全然待ってはいられない。

 今は成長途上のこの身体で勝負するしかない。


 フローラが少し落ち着いたところで、フローラの身体をくるりと回して向かい合わせにする。

 首に手を掛け引き寄せれば、おでことおでこがくっ付いた。

 カメレオンの時にはいつも頭と顔を擦り合わせて、労い合ったり、愛情を通い合わせたりしている。

 気持ちは通じるはずだ。


「フローラ、いいんだ。分かってるから、もう泣くな。それに俺は死なないよ。フローラを置いて死んだりしない。約束する! だから、俺にフローラを守らせてくれ、な?」

「レオンくんっ」


「げっ! ナニ、この茶番」

「相思相愛だったのか!」


 いらぬ揶揄を聞かせないように、俺はフローラの耳をさり気なく塞いで抱き締めながら、二人を睨みつけた。

 今現在、俺とフローラの関係はかなりデリケートな段階なのだ。

 フローラは確かに俺に愛情を持ち始めているが、戸惑っている部分も多い。

 カメレオンの俺相手に何でも相談するから、状況把握は完璧だ。


 フローラは、幼い頃に父親に裏切られたり、身近にいた大人から虐待を受けたり、周りの人間にずっと傷付けられてきたから、愛し愛されたいと思っているのに心を差し出すことに臆病になっている。

 たくさん愛してやりたいと思う。

 愛して愛して甘やかして、子供時代に与えてもらえなかったその何倍もの愛情を、俺が代りにこれから長い時間をかけて注いでやるつもりだ。

 愛情の迷い子のようなフローラに、お前の帰る場所は俺の腕の中なのだよと早く教えてやりたいが、強引に迫ればフローラは逃げてしまうだろう。

 怖がりのフローラがまた己の殻に閉じこもってしまわないように、慎重に行動しなければならない。


 ただ、フローラの心の襞を覗き見しているようで、かなり気まずいのが難点だ。

 告白めいたものをされるのは嬉しいが、益々白状し辛い状況に追い込まれているような気がする。

 それでも、この一人二役のおかげで、フローラの不安定な心の機微に対して細やかな対応が出来ているのだから、やはりもう少しこのままで頑張ろうと思う。

 フローラがカメレオンの俺と人間の俺を何とか会わせようとするのを、あれやこれやと誤魔化してかわすのはなかなか骨が折れるのだけれど。

 

「隊長、隊員と住人にクリムの惨事を正直に伝えろ。その上で、隊員も含めて懲罰なしで逃げたい者は全て逃がしてやれ。自然現象とは考えられんこの状況下では、ポルト近辺のどこにいても安全とは言い難いが、それでもクリムのあった北部から離れたいと思う者もいるだろう。俺も数が減ってくれた方が助かるしな」


 フローラを抱き締めたまま、隊長に指示を出す。準備は早くした方がいい。

 フローラがハッと気付いたように顔を上げ、不安げに俺を見つめる。


「フローラ、そんな顔をするな。無理はしない。約束しただろう?」

「うん。本当に約束だからね?」

「ああ、分かってる。無理はしない。こいつらを守るのは、そこそこ(・・・・)にしとくから。これで、いいか?」

「うん」


「良くねぇぇぇぇぇー!!」


 グレンの絶叫が響いた。





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