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隊長専属魔法使いハル

 うん、まずまずの手応えだった。

 フローラと俺の絆は、やはり深まりつつあるみたいだ。

 先ほどからフローラは、カメレオンの()に果物を与えながら、食堂で会った人間の()について一生懸命話してくれている。

 興味のない人間の事なんて、わざわざ話さないよな!

 おまけにその前は、人間の俺にカメレオンの俺の話をしていたのだ。

 むふふふ、フローラの頭の中は、今や俺でいっぱいだと思うと、自然と顔が緩んでしまう。


「何? ニヤついたりして、いやねぇ」


 おっと、まずい。

 フローラには俺の表情がダダ漏れみたいだから、気をつけないと。

 今はまだ、バレるわけにはいかない。

 正体をばらすのは、フローラが俺に惚れて、ちょっとばかしの嘘くらい全然許せちゃうくらいまで親密になってからだな。

 俺は誤魔化すように、フローラの手にすり寄って甘えた。


 フローラ、俺も好きだよ! 好きだ! 好きだ! 好きだ! 好きだ!

 俺の頭の中はフローラでいっぱいだ!

 ああ、もう、ちくしょー、早く相思相愛になって、いちゃいちゃしてぇー!! エロい事もやりてぇー!! 絶対やる! 俺はやるぞ! 

 フローラへの愛が高まり過ぎて、興奮のあまりごろごろ転がってしまう。 

 あ・・・やべ・・・

 だけでなく、妄想が膨らんでヤバいものまで膨らんでしまった。

 俺はフローラに気付かれないように、普段は入りもしないケージにさっと転移して、例のものがおさまるのをじっとして待つのだった。



 

 翌朝、食堂に行くと、グレンが声を掛けて来た。

「ぼうず、ちょっと来てくれないか」


 俺は再び例の応接室に連れて行かれて、またしても図体ばかりでかくてウザい隊長を前に、尋問を受ける羽目に陥った。

「昨日、魔法使いを連れて例の鹿の後始末に行ったんだが、残っている死骸は普通の鹿だった。お前が首を落としたとかいう魔獣は消滅したんだよな? これは隊員が実際に見ているから、真実なのだと思う。それで、聞きたいのは、その魔獣が消滅した後に魔石が残っていなかったか? 魔法使いが、魔獣は消滅すると魔石になるはずだから、無いのはおかしいと言うのだ。辺りを隈なく探したのだが見付からなくてだな、その、言いにくいのだが、魔法使いがお前が盗ったに違いないというのだ」


 訊かれるとは思っていたが、盗ったと言われるとは、俺も舐められたもんだな。


「さあ、知らんな。魔獣といっても、いろいろだからな。それに、盗ったというのは、正しくないぞ。たとえ、俺がその魔石を懐に入れたとしてもだ。魔石を手に入れる資格があるのは、魔獣を狩った者だけだ。でなければ、ハンターという職業は成り立つまい?」


「・・・・・・」


 どうせ魔法使いに責められて、せっつかれたのだろう、痛いところをつかれて苦虫を噛み潰したような表情になった。


「まぁ、魔法使いの気持ちは分からんでもない。ポルトは魔素が少ないからな。喉から手が出るほど欲しい高価な魔石がただで手に入ったものを、横取りされたようで惜しいのだろう。とは言え、あの魔獣をお前達だけで始末出来たとは、到底思えんがな」

 

「済まなかった。お前が年若いものだから。つい、な。助けてもらっておいて、酷い言いがかりだった。済まん、この通りだ、許してくれ」

 隊長はテーブルに頭を付けて謝った。

 こいつはウザいが、素直なところは悪くない。

 フローラにも公平な態度をとっているしな。


「いいだろう、許してやる。俺はな、魔法使いとしてお前達に協力してやってもいいと思っている。その代りと言っては何だが、ここに自由に出入り出来るように取り計らって欲しい。フローラには会いに来る許可をもらったが、部外者の俺がしょっちゅう会いに来てはフローラも困るだろう。隊長のお墨付きが欲しいんだ」 

 隊長はしばらく考え込んでいたが、了承の返事を返してくる。

「分かった。いいだろう。お前は俺専属の魔法使いという事にする。皆にもそう周知しておこう。それで、どうだ」

「ああ、それでいい」


 専属の魔法使いなのにぼうずはおかしいということで、俺はハルと呼ばれる事になった。

 レオンハルトは長くて呼びづらいし、レオンはフローラのカメレオンの名前だから、レオンハルトのハルトの部分から二文字をとってハルになったのだ。

 俺にとっては、どうでもいい話だが。

 俺は隊長との話を早く終わらせて、フローラのところに行きたいのに、グレンがいらぬことを聞いてくる。 

「なぁ、ハル、ちょっと教えてくれ。なんで普通の鹿が、あんなに手強かったんだ?」

 昨日、フローラは休みをもらったが、グレン達は魔法使いに同行して現場検証に行った。

 まぁ、戦った本人達にしてみれば、腑に落ちないも無理はない。


「あれは普通の鹿だが、普通の鹿じゃない」

「はぁ? 何だソレ」

「おそらく、俺が倒した魔獣の影響を受けて、普通の鹿が魔獣化していたと思われる」

 

「そうなんだよ。それで、魔法使いがそんな強い影響力を持つ魔獣なら、きっと大きな魔石になったはずだと言い張るんだ」

 すると、俺達の会話を聞いていた隊長が、また魔石の話を蒸し返し始めた。

「ま、そうだろうな」

「魔法使いが他にもいるかも知れないと言って、昨日は森を大捜索してみたが、成果は得られなかった」

 だろうな。

 俺は、あの日の夜、獲物を狩りに行くついでに、森を偵察しておいた。

 あんな物騒なものにフローラの近くをウロウロされては堪らん。

 いれば早々に俺が始末しておくつもりだったのだ。


「いなくて良かったな。いたら大惨事だ」


「なんだと?!」「なんでだ!?」


「この国の魔法使いなど、ものの役にも立たんぞ? 大物の魔獣の首はお前達の普通の剣ではまず落とせない。落とせないのに人数を頼りに傷をつけてみろ、手負いになった魔獣に暴れ回られて、被害は甚大だっただろう。魔獣の首はな、魔力を込めて、一気に落とすのがコツだ」


「そんな・・・なら、この先、また今回のような魔獣が出たらどうすれば良いのだ」

 魔獣とは縁のないポルトでは仕方がないのかも知れないが、確かに今のままじゃあこいつらだけでは打つ手がない。


「さぁな。だが、それほど悲観する事はない。通常、魔力を持つ魔獣は魔素の少ない所には来たがらないものだ。魔法使いと同じだよ」

「だが、実際にいたじゃないか!」

「だから、通常と言っただろう。あの魔獣が何故こんな所に現れたのかは、俺にも分からん。いいか、魔素の多いレノルドでも、魔獣は街中には現れない。理由は同じだ。人間の住む街中は魔素が少ないからだ。もっと言えば、魔素の少ない場所に人間が街を作る。お前達と同じ、レノルドでも人間にとって魔獣は脅威だからな。つまりだ、人間が住みやすい場所は魔獣にとっては住みにくい、これは明確な事実だ」


 と、隊長やグレンには、あまり怯えさせてもいけないと思って誤魔化したものの、あの魔石といい、明らかに異常だ。

 兄上がこちらに来た理由と何か関係があるのかも知れない。





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