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人間のレオンくん

※フローラ視点

 目を覚ますとそこは自分の部屋で、横を向けばレオンが心配そうに私に寄り添ってくれていた。

 良かった。レオンも無事で。

「心配かけて、ごめんね」

 レオンと顔を寄せ合って、互いの無事を喜び合う。


 しばらくすると、マティアスが様子を見に来てくれた。

「マティアスが運んでくれたの?」

 ああっていう返事が返ってくるつもりで聞いたのに、返答は全く予想外のものだった。

 

 あの時、私を助けてくれたのは、レオンだと思ってたけど・・・

 でも、よくよく思い出してみると、黒い髪の人間の男の子が突然横から現れて、大きな剣で鹿の首を落としてくれた気がする。


「あいつ、お前を諦めていなかったみたいだ。ずっと、お前を見守ってたって」

 え?

「気持ちが悪いストーカーの言い分そのものだが、痛い痛い、レオン、止めてくれ」

 話の最中、いきなりレオンがマティアスの耳に噛み付いた。

「ち、ちょっと、レオン、止めなさい! 一体急にどうしたの?」


 レオンをマティアスから何とか引き剥がしたけど、すごく怒ってるみたい。

 私の手の中でいつでも噛み付いてやるぞって顔をして、マティアスを睨んでる。


「マティアス、ごめん。今日はレオンの虫の居所が悪いみたい。多分、魔力を使い過ぎて、イライラしてるんだと思う。帰った方がいいかも」

「わ、わかった。じゃあ、夕食はこっちに持って来てやるから。ああ、そうだ。隊長が明日は休みにしてやるって。その代わりに、明日そいつがここに来たら、少々相手をしてやってくれってさ」

「うん、分かった。私もちゃんとお礼を言わなきゃいけないし」

「ゆっくり休め」「うん、ありがとう」

 逃げるようにマティアスが出て行くと、レオンも臨戦態勢を解いた。


 レオンの態度を見て呆れたけど、なんか、前に戻ったみたいで、ちょっと嬉しかったりもする。


 ちょっと前までのレオンは、私の傍に誰も近付けないように結界を張ったり、私を傷付け人には報復したり、私を守ろうとして、周囲の人間に対して結構過激な行動を見せていた。

 だけど、最近のレオンは、周りに対する態度が軟化したというか、無闇やたらと噛み付く事はなくなったし、訓練でケガをした者に治癒魔法をかけてあげたりして、なんだか優しくなった。

 それに、グレンとは二人でコソコソ話したりして、チェス以来、特に仲良くなってる。

 

 私としては、レオンが皆に認めてもらえるのは誇らしいし嬉しいけど、私だけのレオンではなくなってしまうようで、とても寂しかった。


 もちろん、レオンは今だって私にベッタリだし、以前と全く変わらない愛情を示してくれてる。

 それなのに、他の人に懐くのが許せないなんて、私ってとんでもなく独占欲の強い女だったのね。

 




「レオン、ご飯食べに行こ?」

 いつもならひょこひょことやって来るのに、手を伸ばしても今朝のレオンは知らん顔をしてる。

 行かないって事かしら? 

 昨日魔力を使い過ぎて、疲れちゃったのかな。

「じゃあ、私、行ってくるね。レオンの好きな果物があったらもらってきてあげる」

 レオンに言って、私は食堂に向かった。


 食堂に行くと、驚いた事に例のあの男の子が来ていた。

「フローラ、お早う!」

 初対面なのに、道端でいきなり求婚してきた、あの少年に間違いない。

 私も挨拶を返そうと、その彼に近付くに連れて、え? なに? 身のうちの魔力がざわめく。


「フローラ、大丈夫か?」「フローラ、どうした?」


 異変に気付いたマティアスやグレンが声をかけて来たけど、私の目は男の子に釘付けで、そらすことが出来ない。

 なのに、だんだんぼやけて見えなくなって、何でだろうと目に手を伸ばして気付いた。

 え? 私、泣いてるの?


 戸惑って立ち止まった私を訝って、少年がこっちにやって来る。

 

「どうした? 大丈夫か?」

 温かみのある心地いい大人びた声音が、不安げに問い掛けてくる。

「あ、うん、ごめんなさい。何でもないの。私ったら、どうして涙なんて、」


 彼は私を近くの椅子に導くと、自分も隣に腰掛ける。

 涙を拭って、その少年を見ると、すごく嬉しそうに笑っている。

 不思議に思ったけど、とにかく私は最初の目的を果たす為に気を取り直して、彼に向かってお礼を言った。


「気にしなくていい。俺がフローラを守るのは当たり前の事だから。でも、もし、俺に感謝してくれているというなら、こうして会いに来る許可が欲しいな。二人きりで会いたいとは言わないから。食堂で、こうやって皆と一緒の時でいいんだ」

「そのくらいなら構わないけど・・・でも、どうしてあなたはそんなに私の事を、その、気に入ってくれたの?」

 私の容姿に惹かれて声を掛けてくる男達は、本当のところは私を蔑んでいて、私が拒絶すれば、大抵罵倒して去って行く。

 求婚を断ってから随分経つのに、まだ私の事を諦めないで、ずっと守ってくれていたなんて、驚きだ。

 しかも、こんなに年下の男の子に。

 すると、彼の顔が少し悲しげに、でも、それは一瞬のことで、すぐ優しげな笑みに変わった。


「そのうちに、分かるよ。そうだ! 俺の名前はレオンハルトっていうんだ。だからレオンって呼んでくれると嬉しいな」

「レオン? 私のカメレオンもレオンっていう名前なのよ。すごい偶然ね! レオンもね、あなたと同じで上級魔法が使えるの」

「へえー、それはすごいな」



 レオンくんは私のくだらない話につき合って、相槌を打ったり、笑ったり、楽しそうにしている。

「レオンはね、カメレオンのくせに虫が嫌いなの、可笑しいでしょう?」

「はは、それは可笑しいな」

 

 隊長に相手をしてやってくれって言われたからだけじゃない。

 私自身がレオンくんと一緒にお喋りするのが楽しい。

 男性は苦手なはずなのに、レオンくんは可愛い男の子だからかな。

 初対面といってもいいくらいなのに、ちっともそんな感じはしなくて、まるで、ずっと一緒に過ごしてきたみたい。


「楽しそうだな! 俺達もまぜてくれ」

「ぼうず、お前も食っていくといい」


 マティアスとグレンが私達の朝食をトレイに乗せて運んできてくれた。

 後ろには同じ班のキリルもいる。

 皆、近くに腰掛け、食事を始める。

 レオンくんは、マティアスやグレンとも親しそうに言葉を交わし、食べ終わると、じゃあ、また来るからと言って帰って行った。







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