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小さなおっかない用心棒

※グレン視点

 こうして見ると可愛いペットなんだがな。

 食堂のテーブルの上に堂々と鎮座し、一際鮮やかな緑色のカメレオンが口を開けて、フローラに肉を貰い頬張っている。

 

 しかし、この小さくて愛らしい姿を見て侮ってはならん。

 こいつは怖ろしい奴なのだ。

 肉を頬張りながらも、左右に付いた小さな目を360度ぐるぐる動かして、フローラに近付く者を警戒している。

 フローラに下心を持って近付こうものなら、耳を噛み付かれるか、頭を燃やされるか、氷漬けにされるか、何らかの報復を覚悟しなければならない。

 あと、フローラに暴言を吐いた奴には、不眠の魔法とかいう嫌がらせもあったな。

 

「レオン、この後、マティアスやキリルと一杯ひっかけながらチェスをする予定なんだが、フローラもどうかと思ってな、もちろんお前も一緒に」


 だから、俺はフローラを誘いたい時は、まずこいつに話を持って行く。

 話が分かろうが分かるまいが、気持ちは伝わるものだ。

 こいつは誰彼構わず噛み付く訳じゃない、番犬よろしくフローラを守っているつもりなのだ。

 そうやって見方を変えてやれば、健気で可愛い用心棒に見えてくるじゃないか。


 レオンは、目だけを動かして俺を見て、そしてその目はフローラへと戻って行った。

 特に何も起こらない。

 ほら、俺にやましい気持ちが無いって事がこいつには分かるんだ。


「フローラ、どうかな?」


「そうね、いいけど、でも、チェスなんて剣士養成学校時代にやったっきりだから、あなたの相手になるかしら?」

「俺も強い方じゃないから、ちょうどいいさ」


 フローラはずっと心を閉ざしていたが、レオンが来てから明るくなったし、皆にも打ち解けるようになった。

 その変化を俺達同じ班のメンバーは喜んでいる。

 警備隊の仕事は、やはり仲間と協力し合ってこそ、助け合ってこそ、その力を十二分に発揮出来るからな。


 フローラは、本当に可哀想だ。

 裏切り者の父親のせいで、幼い頃からずっとスケープゴートにされている。

 人々は行き場のない怒りや恐れ、悲しみや憎しみの感情のはけ口にフローラを選んだのだ。

 もちろん、マティアスや俺のようにフローラに同情的な奴もいるが、数は少ない。

 だから、俺は、せめて同じ班の仲間くらいは、フローラの味方になってやってもいいと思うのだ。


 しかし、ポルトではフローラに限らず、魔法使いの立場自体が微妙だ。

 大した力は無く、少々便利?くらいに思われていた魔法使いが、先の戦争では強大な力を見せ付け、人々に恐怖を植え付けてしまった。

 この国では、魔法は得体が知れない怖ろしいもの、だから忌み嫌われる。

 

 魔法の力を軍事に利用したい国の中枢と恐れ忌み嫌う国民の間で、ポルトの魔法使いはまだまだ翻弄されることだろう。

 東の国々では既に魔法は軍事ではなく、最先端の技術として産業として成り立ち、多くの人々の生活を豊かにしていると聞くのにな、気の毒な話だ。

 

 

 だが、レオンの出現によって、フローラの魔法使いとしての能力がクローズアップされてしまった。

 それに加えて、レオンがフローラを守る為とはいえ、周りの者を魔法の力でねじ伏せるような真似をしては、魔法に対する忌避感が増すのではないだろうか。

 表面化しない怖れや憎しみを生むのではないかと、俺は気がかりでならない。


 とは言え、カメレオンと対峙して、そう言うわけだからもっと自重しろ、なんて真面目に忠告するのもどうかと思うしな。

 頭がいいと言っても、カメレオンは、所詮、カメレオンだろ。




 カメレオン・・・本当にこいつはカメレオンなのだろうか。

 フローラ相手に軽くチェスを楽しむはずが、途中から雲行きが怪しくなってきた。

 攻めあぐねるフローラに、何やらレオンが助け舟を出し始めたのだ。

 そして、俺は今、レオンにどんどん攻め込まれている。


「おい、グレン、カメレオンが相手だからって、ふざけてないでちゃんと本気出してやれよ」

 いつの間にか増えていた外野から茶々が入る。

 いや、俺は本気でやってるし、魔法で誤魔化されてるわけでもない。

 っていうか、何でカメレオンがチェスをやってるんだ?

 そりゃ、社交辞令でレオンも誘ったけど!?


 あ、俺のクイーンが! レオンに蹴り倒された。

 そして、フローラのビショップに置き換えられる。

 扁平な形のレオンは盤の駒の間を器用にすり抜ける。


「なあ、フローラ。レオンはチェスが出来るのか?」

「さぁ? でも、こうやってみる限り、かなりの腕前みたいよね?」


 ・・・・・・


 最終的に、俺のキングはレオンに咥えられ、フローラの元へと運ばれて行った。

 






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