深紅の殺意と紫色の空
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「あら、初めましてといいましょうか、滴さん?」
そうクスリと頬を軽く歪めるが、その人のもつその瞳の奥底では、やはり初めと変わらず殺意が揺らめいている。真っ赤に燃え盛るような殺意が、滴の心を恐怖の色で染める。
何故この人は滴に対してこんなにも怒っているのだろう。優しげな風貌が、その殺意によって、こんなにも恐ろしいものになるほどだ。並大抵の理由ではあるまい。だが、滴はこの人と会った記憶もないし、名前だって知らない。ただ、この人が、ヘザーとあり得ないくらい似ているということしか知らないのだ。
5人に目を向けるが、当然のことながら未だに誰一人として起きる気配はない。紗季などはいびきをかき、涎を垂らしている。ついでにいうと、寝言まで言っていた。
「……は、はっじめましてっ!」
緊張のせいで噛んでしまったが、どうにか滴は目の前の人にそう返す。
「ふふふ、そんなに慌てなくても大丈夫よ? まぁ、あなたがそんなに早く逝きたいなら急いでも良いですけどね? ふふふふふふふ……」
瞳の色を微塵も変えず、その人は笑いだす。その光景は、かなり不気味で、普通の人なら速攻で逃げ出す場面だ。しかし、滴は動くにも動けないほど硬直してしまっているため、このような光景を目にしても、一歩も移動することが出来なかった。
「……あ、あなたは、一体誰なの……?」
「ふふ、あ、わたし? わたしはね……」
「待って、そこのあなた! 今すぐ滴さんから離れてください」
滴が震える声で問うと、その人は笑い声を噛み締めながら、滴と向かい合った。だが、その人の言葉は、紫色の空の持ち主によってかき消される。ヘザーが現れたのだ。
「ヘザー……!」
ヘザーが来たことで、滴は少しだけほっと息を吐く。殺意の目が、滴から一瞬離れたから、というのもあるだろう。
「そこの方、あなたは一体何者なのですか?」
ヘザーがその人に訪ねる。つまり、ヘザーでさえ、その人が誰なのか分からなかったのだ。
「あなたは突然現れましたよね、この世界に。この世界のほとんどを管理するわたしは、あなたのような存在が突如現れたことに、驚きました。それに今、滴さんにあなたは何をしようとしていたのです?」
ふんわりとした雰囲気を纏うヘザーが、警戒心を露にその人と対峙している。優しげな声は、重く固いものであり、それが事態の深刻さを滴に再確認させた。
しかし、ヘザーは言い終えたあと、息を呑んでその人を見つめる。
「……あ、あなたは……、わたし? いえ、そんなはずありませんよね」
ヘザーも、その人が自分にそっくりであることに気付いたのだろう。ヘザーは自分の頬に手を当て、目を瞬かせている。
「ええ、わたしは、あなたではないわ。わたしは、わたし。あなたは、あなたよ。わたしは、滴さんを殺すためにここを利用してきた、友理。どうぞ宜しくお願いしますね」
読んでくださりありがとうございました。話も終盤。一人の少女の名を明かしました。これからもどうぞ嘘嘘を宜しくお願いします。




