再びヘザーを探しに
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「そ、そういう意味で言ったんじゃ……」
波が青ざめた顔で滴から目をそらす。
滴だって波がそういう意味で言ったんじゃないということくらいわかっていた。しかし、外に出なければ状況は変わらない。だから、滴は波の言葉をわざと利用したのだった。滴は、波に対する罪悪感で押し潰されそうになりながらも、表情は変えないよう気を付けた。
「……明後日ね。明後日外へ出て、ヘザーを探そう? ヘザーだったら何か知っているような気がするんだ」
滴に何かあったとき、1番自分を責めるのは、波だろう。そう滴は思う。が、こうしなくては、早く外へは出られない。外へ出なければ、状況が良くなる可能性も低いと思われた。
滴にとって1番の願いは、全員で一緒に元の世界へ早く戻ること。全員で一緒に、は難しいかもしれない。けれど、早く、は頑張れば出来そうである。誰がコンピュータなのか。そう考えることも最近になっては減ってきたが、誰かはコンピュータで、一緒に元の世界へ戻ることはできないのだ。
滴の言うことに反対する子は、もういなかった。
そして、その日になった。
滴たちは家から出て、町の方へと足を向ける。
「気を付けて行こぉね」
「少しでも不審なやつがいたら、直ぐに逃げろよ?」
「だ、大丈夫だって! そんなに心配しなくても」
「心配するよ。滴があんな夢見るんだもん。正夢にでもなったらどうするの?」
「それは、まぁ、そうだけど……」
「し、滴は心配しても心配しても足らないんだよ……? 本当にそんなことになったら、私たち、どうしたら良いのか分からないよ……」
「……う、ん。ごめんね。気を付けるよ」
滴は一昨日の事があるため、波に強く出ることが出来ない。波が心配していった台詞を利用して、こんなところまで出てきたのだから。しかし、滴のなかでは、間違った行動ではなかったと思う。波の言葉を利用してしまったので正しい行動だったとも言えないが、あのまま家にいても仕方なかった。だから、罪悪感はあっても、後悔はしないと思う。
「あっ、そろそろ着くよっ!」
嬉しそうな紗季の声に顔を上げると、木々の先に町が見えた。ヘザーのお祭りはまだ続いており、滴たちは賑やかな町に目を輝かせる。そして、町にようやく着いた喜びで、走って町へと入った。何度来ても町へ着いたときの喜びは薄れないのである。
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