神の選んだ未来
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「……え? 長老がですか?」
ヘザーが驚いたように目を瞬かせる。
「ええ、そうです。ずっとあなたを心配していたようですよ。お爺さんの為にも、あなたはここに居続けてはならないと私達は思います。一緒に出ませんか? この洞窟から」
滴は、ヘザーに手を差し伸べ、にこりと笑った。
あのお爺さんは、ヘザーをこの暗い洞窟から出してやりたいと願っていた。昔はこの牢にも監守がいたようだが、今は既にいない。恐らく、ヘザーを見張る事など当の昔に止めていたのだろう。そうしてヘザーの居場所は忘れられ、今洞窟の中にいるのはヘザーだけとなってしまった。
しかし、既に忘れられているのに気付いていながら、ヘザーはこの洞窟から出なかった。何故なのだろう。牢の扉に付いているのはダイヤル式の南京錠で、監守が居なければ楽々脱出することもできたはずなのに。
「わたしは……、出ません。ここからは」
ヘザーは言う。いつものふんわりと包み込むような声色ではなく、凛とした澄んだ声色が洞窟内に響いた。優しげな紫色の目は、決意の色に染まっている。
「な、何故……」
プリちゃんが、ヘザーに向けて疑問を投げ掛ける。
「わたしは、人を平等にみることができません。だから、ここから出ても、わたしはまた同じことをしてしまいます。自分勝手で、本当に出来損ないの神なのです。あの時長老にかけた魔法は、自分の寿命をも削る魔法。そう何人もの人に使うことは出来ません。わたしの寿命は20000年。あの魔法を使うことで削られる年月は5000年です。わたしが死んだらこの世界は滅びてしまう。滅びる時間が早まるのを知っていながら、わたしは長老にあの魔法を使ってしまった。つまり、わたしは自分の大切な人の為だけに、悲しい現実が起こるのを早めてしまう、最低な神なのです。こんなわたしに外へ出る資格はありません」
滴たちへそう答えた、この世界を作った1柱の神は、小さく震え、弱々しく見えた。
読んでくださりありがとうございました。
短い話となってしまいましたが、ここで切っておきたいので切らせて頂きました。




