呼ぶ声
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中に入ると、ひんやりとした空気が、滴たちの体を包み込む。
昨日の洞窟よりも低く感じる温度に、滴たちは身震いし、すっと背筋を伸ばした。
低く感じるのは、滴たちの思い違いなのだろうか。ここで迷子になっても、助けに来てくれる人がいないため、滴たちは丁寧に白い紙切れを地に落として行く。落とされた紙切れは、ゆっくりと進む滴たちと同じように、ゆっくりと落ちていった。
「ヘザー……」
滴は、ヘザーの名を小さく呼び、辺りを見回した。
懐中電灯の光だけを頼りに進むというのは、かなり怖いものである。光が照らしているのは前方だけで、後方にはほとんど光が行き届いていないのだから。真っ暗な後方を見かけ、滴はさっと顔を前方に向けた。
「昨日の洞窟よりぃ、狭かったらいいなぁ」
「……ほ、本当に、そうだよね……!」
「昨日のより大きかったりしてな」
「そ、そんなわけないよ! だって昨日のは観光地でしょ? 大きいから観光地になったんなら、ここは小さいよ、きっと」
「えぇ!? 大きい方が良くないっ? そっちのが楽しいじゃんっ!」
ぼんやりと見える紗季たちが話をしているのが聞こえるが、滴はその話には加わらなかった。
それには、理由があるのだ。今の滴は、どうしてか集中している。それは、単に、この洞窟が真っ暗で危ないからという理由ではなく、おかしな感覚があったからだ。そう、誰かに呼ばれているような。
この違和感に、何故か他の5人は気付いていないようだ。話に熱中しているからかもしれない。
「ねぇ、皆……」
──ねぇ……
滴が違和感について5人に尋ねようと口を開いた時だった。
はっきりと、しかし、小さなささやくような声が、滴を含めた6人を呼んだのだ。
「誰だ」
光が、相手を威嚇するような低い声で問いかける。
滴たちも息を詰めて身構えた。
この洞窟に滴たち以外の人が来ているとは、考え難かった。こんなにも暗く、険しい洞窟なのだから。
──こっちよ?
どこからともなく聞こえてくる声は、光の問いかけに答えることもなく、再び滴たちに話しかけてきた。
こちらの声は聞こえているのだろうか。話し方からして、女性の確率が高い。声も男性にしては高いものだった。
そこまで考えて、滴はある考えにたどり着き、咄嗟にその名を口にした。
「へ、ヘザーなの……?」
滴が口にした名を耳にし、紗季たちが滴を一斉に見やる。皆、驚いたように目を見開いていた。
「……そ、そんなわけ……!」
波が震えるような声で滴の言葉を否定するが、直ぐにそれは正しかったことがわかった。
「そう。わたしはこの世を創造した1柱、ヘザー」
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