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嘘の嘘 本当の本当  作者: カカオ
第6章 ヘザー
69/100

長老の記憶

閲覧ありがとうございます。

──3000年前──


カラスが巣に戻る頃、お爺さん、つまりハニー村の村長である長老は、頭を悩ませていた。

それは、村の蜜蜂が忽然と消えてしまったからだ。去年は例年のようにたくさんいた蜜蜂達が、今年は1匹も見られない。蜂蜜を採ることで生計を立てていたこの村は、存続でさえも難しい状態に追い込まれていたのだった。


その時現れたのが、ヘザーであったそうだ。

ヘザーは、なにも持たず、手ぶらで村へやって来た。だが、ヘザーの着る衣服は、神秘的に感じるほど美しく、そして、そのヘザーもやはりこの世のものとは思えないほど美しかった。決して浮浪しているようにも見えないヘザーに、長老は驚きを隠せなかったという。


「何かお困りですか?」


村に入ったヘザーは、そう長老に微笑んだらしい。


長老はそんなヘザーに、すがり付くように訴えた。蜜蜂が居なくて、この村はもうすぐ死んでしまうのです、と。

危機に立たされていた長老は、気が付くと、藁にもすがる勢いで、ヘザーにことの状況を説明していた。怒涛のように話し出す長老に、ヘザーはしばし呆気にとられた様子で固まっていたという。


けれど、ヘザーはまたしても笑った。

嘲笑しているのかと思った長老は、ヘザーを睨んだが、ヘザーは気にする様子もなく、椅子からスッと立ち上がったらしい。


そして、奇跡が起こったのだ。

ヘザーが野を歩くと、花が咲き、蜜蜂が生まれた。蝶が辺りを飛び回るようになり、ウサギやシカがヘザーの後を付いて回った。ヘザーが一度笑えば、辺り一体が蜂蜜の香りに満たされたのだ。


長老は両手をだらりと下げ、ヘザーとその変わっていく風景を見つめていた。その時、長老は、ヘザーが普通の人間ではないと悟ったらしい。

美しいとしか表現できない様子が目の前にあり、長老はただぼんやりとそれを見守っていたのだ。


村を一周したヘザーは、挨拶もせずに村を出ていこうとした。お礼も何もしていないのに。

長老が、それを慌てて引き留めたのだという。


すると、ヘザーは微笑み、長老の家にしばらく生活することを決めた。元々住む家のないヘザーは、迷うこともなく長老の家へ来ることにしたのだ。


ヘザーは、何があっても静かに微笑む、美しい神のような存在だった。

歳をとり続ける長老とは違い、ヘザーは何年たっても老いることがない。若い人の姿であり続けた。


また、ヘザーは優しく、いつも長老を気遣ってくれる存在だったそうだ。

長老は、ヘザーに出会って、初めて幸せを身近に感じた。


だが、そんな日々は長くは続かない。

長老が病にかかったのだ。


長老は、もう生きられない、明日には死ぬだろう、と思ったそうだ。村の人々も、布団で眠る長老を、悲しげな目で見つめていた。中には涙する人もいたそうだ。


しかし、またしてもヘザーが奇跡を起こしたのだ。

ヘザーの、長老の胸をそっと撫でた手によって、苦しかった呼吸はいつもの調子を取り戻した。悪かった顔色も、赤みを帯びた、健康的な色を取り戻したのだ。


長老は、ヘザーに深く礼を告げた。その時は、ヘザーも安堵したように微笑んでいたのだ。

だが、村の人々はそうもいかなかった。

彼らの言い分は最もであった。

つまり、何故今までそんな能力があるのに使ってこなかったのだ? ということだ。

今まで、ヘザーは亡くなる寸前の人を目にしても、このような力を使うことはしなかった。要するに、助けられる力は持っていたのに、使うことはしなかったのだ。

他の村人にとって、この事は赦しがたいことだったのだろう。


それから間もなくして、ヘザーは村を追放された。

いつも笑っている朗らかなヘザーも、このときばかりは悲しげな光を瞳に宿していたらしい。それは、村人の蔑むような冷たい視線を一気に浴びたせいでもあっただろう。


そうしてヘザーは、どこかの洞窟へと閉じ込められたのだ。追放だけでは留まらず。


読んでくださりありがとうございました。

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