お誕生日会
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それからしばらくして、滴達は作り終えた二つのケーキに蝋燭を立てて波の誕生日を祝った。
「おめでとう! 波!」
紗季が奇声に近い声ではしゃいでいる。両手でマラカスとタンバリンが鳴らしながら。
そんな紗季の後ろの壁には、「~塩崎 波、お誕生日会~」と書かれた画用紙が貼られていた。海を思わず思い浮かべるような、爽やかなブルーの文字、滴達6人の似顔絵が書かれている。ただし、文字も絵も幼稚園児が書いたようなものであるため、文字はギリギリ読める程度、絵も誰を描いたのか何となく分かる程度であった。だが、今は逆にその画用紙が誕生日会を盛り上げてくれている。華やかな誕生日に。
「……あ、ありがとう……!」
照れたように顔を赤くした波は、それぞれのケーキの蝋燭の火を一息で消した。
「わぁ。一息で消すのってめでたいんだよ?」
プリちゃんが感動したのか、身を机に乗り出す。
誕生日ケーキの蝋燭を一息で消すのは、おめでたいことだと、滴もどこかで聞いたことがあったから、滴も顔をほころばす。
「……わ、私ね、吹奏楽部に入ってるんだ……!」
「だからか!」
上手に楽器を吹くには、肺活量が必要不可欠である。
波もそれで肺活量が上がったのだろう。もちろん蝋燭を一息で消すには、それなりの工夫なども必要だとは思うが。
「それにしてもめでたいよね!」
滴はにこりと笑い、ケーキを包丁で6等分にした。
どうぞ、と切り分けたケーキをそれぞれのお皿に移す。
二種類のケーキは、見た目も味も全く違うはずだ。滴は、自分の班が作ったケーキをじっと見つめる。
美味しくなかったらどうしよう……。
だが、実際に食べてみると、どちらのケーキも美味しくできており、滴の心配は要らないものだった。
特に愛は驚き過ぎて声を出すのも忘れている。
まぁ、生クリームに食器用洗剤をいれようとする愛を止めたり、焼きたてのケーキを冷凍庫に入れようとする愛を止めたり、滴達は大変ではあったが、結果的に美味しいケーキになり、満足である。
それに、愛も今はあんなに嬉しそうに笑っている。
滴達の願いは、早くもとの世界に戻ることである。けれど、今、もうひとつ新しい願いができた。
それは、限られたこの時間に、仲間の皆と楽しい時間を過ごすことである。いっそもとの世界に戻りたくなくなるくらいな。
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