一緒に
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「……じゃあ、私達が持っていきますよ!」
「ま、お前らへの謝罪も兼ねてな」
滴達が愛に謝るチャンスを無駄にした、ということもあって、スノーもアンバーも積極的に名乗り出てくれた。
直接料理に関して関係のない2匹ならば、愛もドアを簡単に開けてくれるだろう。2匹に料理を運ばせることは、流石に無理があるので、事前に料理だけは滴達がドアの前にセットしておけばよい。
「じゃあ、お願いしようかな」
滴がすんなりと頷き、作戦はすぐに実行されることとなった。
謝る前にご飯を食べなければ、お腹が鳴って、また空気を悪くしてしまうかもしれない。
滴達は愛の部屋の前に朝御飯を置き、その足で紗季の部屋へと入っていった。
「あ、おはよう!」
大分元気になった紗季が、滴たちをベットの上に座って出迎えてくれた。すっきりしたような顔をしているので、恐らく熱は下がったのだろう。けれど、紗季は熱があるのにあんなに無理をしたのだ。いくら休んでも休みすぎるということはない。紗季は大丈夫だと言い張るだろうが、熱が下がってからもしばらくは安静にしてもらう予定だ。
ピピピピッ。
体温計の音が鳴り、紗季がそれを滴達に差し出す。
『36.4℃』
差し出された体温計には、そう書かれていた。
差し出したときの紗季の表情は、明るい。
滴達も安心して、ホッと紗季の様子を確認する。
見た感じも、やはり熱はなさそうだ。
一時期は39℃台まで上がった熱である。山から帰ってきた時点でその体温だったのだから、熱が出たと発覚した頃は40℃を越えていただろう。それは、光から聞いた紗季の様子から明らかだ。
「治ったよっ!! これで皆と一緒に出掛けられるねっ!」
紗季の目は、金箔が入っているかのようにキラキラと輝いている。それだけ一緒に出掛けたかったのだろう。
皆と一緒に、………………か。
滴は心の中で、紗季の言葉を繰り返す。
愛も同じ事を言っていたな、と思ったのである。
つまり、愛も紗季と同じように、一緒にこの6人で何かをしたいと思っていたのだ。ただ、愛がしたかったのは料理、紗季がしたいのはお出掛け。それだけの違いである。
「そうだね! でも、もうちょっと休んでからね。あれだけ無理したんだから」
言っておきながら、意地悪だな、と滴は密かに笑う。
紗季の為に言った訳ではあるが、紗季としては決して嬉しい話ではないだろう。
「じゃあ、あと2日ねっ!」
まだ早い気もする。
けれど、紗季の、その無邪気な笑顔に滴は押され、つい頷いてしまう。愛の気持ちをちゃんと分かってあげられていなかった自分を恥じながら。
自分だって、本当は愛と一緒に料理をしたかったのでは?
そう滴は自身に問いかける。
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