新たな決断
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「元の世界に戻るって……」
スノー達が絶句する。
そう、私達が目指すのは元の世界への帰還だ。スノーを助けるためにこの世界へ来たわけでもないし。
「そんなこと、赦しません」
「簡単にはな」
2匹の目が、一瞬だけ濁った魚の目のように滴達には映った。
機械的に発せられた声に、滴達は目を見張る。
キラキラと輝いていた宝石のような瞳は、存在していない。あるのは、ただこちらを見つめる無機質な瞳だ。そこにはなんの感情も見られない。
「……スノー?」
「……ア、アンバー……?」
口から漏れでた言葉が、波のそれと重なる。
滴達が時が止まったかような錯覚を覚え始めたのとほぼ同時に、またスノー達の口が開く。
「けれど、自力で会いに行くのであれば勝手にどうぞ。私達は知りませんが、あなた達がどうなっても」
「俺らにはゼッテェー聞くなよ?」
警戒が溶けたかのように、スノー達の目に輝きが戻ってきた。
滴達もホッとする。あんな目をされたら怖いではないか。
「だったら、自分達で何とかするよ! スノー達には最低限のことしか聞かない!」
滴達が苦笑する中、紗季が声を張り上げる。宣言のようにも聞こえた台詞は、滴達のやる気を上げるには十分すぎる言葉だった。
「最低限、ね……」
小さく笑ったスノーは、最低限であれば許してくれるのであろう。アンバーもなにも言わないところを見ると、スノーと同じ意見なのに違いない。
最低限であれば許されるという事実に、滴達はこっそり息をついた。
「とりあえず、下まで降りて家に戻るぞ」
脱力したように互いを見あってばかりの滴達に、光が声をかける。
忘れていたが、ここは頂上。
つまり、下まで自分の力で降りなければならない、ということだ。
忘れていないようで忘れていた。
滴達は露骨に嫌そうな顔をしながらも、山の下を目指して歩き出した。
帰りの方が楽だとは思うが、散々歩いてまだ歩くの!? と思ってしまう。
「ねぇねぇ、見てみてぇ!」
不意に呼び掛けられて後ろを見ると、嬉しそうにロングヘアを揺らす愛がいた。
「どうしたの?」
疲れからか息が漏れるような声しかでないが、返事を返さないわけにもいかないので、滴は聞いた。
すると、愛がぐいっと片手を滴に突き出した。
他の四人も不思議そうに愛の片手を眺める。
愛の片手は、グーの形に握られている。何かを持っていて、それを滴に見てもらいたいに違いない。
「エヘヘ……」
若干だが、少し愛の笑顔が黒かったのは気のせいだろうか。
滴達が思わず身構えるのとほぼ同時にその手が開かれる。
「みてぇ! カエルちゃんっ!」
「うわぁ! 可愛い!」
予想外のものに滴はホッとする。
虫じゃなくて良かった、と。
しかし、カエルは以外と多くの人に嫌われているのだ。滴が思っているよりも。
悲鳴をあげる波とプリちゃんの背中が遠ざかっていくのが見える。
滴達は何故かこうやって皆で遊んでいる時間が楽しくて、スッと笑みを頬に現した。
読んでくださりありがとうございました。
今回のお話で50話到達です!




