伝説のカラス 2
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「滴っ! 戻ってきて!」
顔を見なくても、その声の持ち主が蒼白になっているのがわかる。
滴は1度大きく息をつく。
カラスの方を見ると、カラスと目があった。「警戒」という2つの文字がカラスの目の奥で光っている。滴から目を全く離そうとはしない警戒ぶりだ。
カラスが翼を大きく振ると、ひどく大きい黒い羽がハラリと滴の横を舞って落ちていった。
不気味、という言葉が一番この状況を表すぴったりな言葉だろう。
戻るべきか?
自分自身にといかける。
状況的には諦めるべきである。けれど、諦めるにはまだ早すぎる。
ねぇ、カラス。ちょっとそれ返してくれない?
なんて言っても相手は鳥。言葉を理解することはないだろう。
……あれ? でもスノーとアンバーは?
滴は思考を続ける。
あれはウサギ。哺乳類ではあっても、人の言葉を理解できるほどの脳は持っていないはずのウサギだ。
つまりはそういうことだ。
小説の世界なら現実世界ではあり得ないことも出来る。他の動物と会話をすることも。動物と冗談を言い合うことも。
滴はカラスに声をかける。出来るだけ大きな声で。
「か、カラスさん! 聞こえますか!?」
心なしかカラスがこちらの言葉に頷いたように見えた。滴の思い過ごしだろうか……?
「私は、人間の仲谷 滴です! その、巣にある宝石、スノーって言うウサギの大事なものなんです! 返してくださいませんか?」
滑りそうになる足に力を入れながら、声を張り上げると、カラスがこちらの顔を窺うように、じっと見つめてきた。
獲物を狙うときのような鋭い視線に、滴は冷や汗をかく。
「……カァ!!!」
空気が震えるような大音量と共に、カラスのくちばしが大きく開く。そして、翼をバサバサとはためかせながら、カラスが滴に向かって猛スピードで飛んでくるのが見えた。
「し、滴っ!」
五人の慌てたような声が滴の耳に入り、滴はこれから起こる出来事を予測して目をつむった。
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