美しい思い出
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行ってみると、そこは山小屋のようだった。
「なんだ、あったじゃん!」
紗季は息を弾ませながら、山小屋を見る。
一晩はそこで寝られそうだ。
鍵はないようで、開けっぱなしになっている。今回は運が良かったようだ。
中に入ってみると、そこは意外にも綺麗だった。蜘蛛の巣などは張られていない。
勿論、ゴキブリなども見当たらなかった。
「……登るのは明日にしてさ、今日はここでゆっくりしようよ! もう、私疲れた!」
紗季はそう言って床に腰を下ろした。
建物の木材は、まだ明るい色をしている。恐らく、創られてまだそう経っていないのだろう。
ホコリこそは溜まっているが、そこまで汚くない。
「……愛も疲れて歩けなぁい」
愛もそう言って、紗季の隣に座る。
滴達も二人に習って床に座り込んだ。
うさぎさんが、やっと山小屋に入ってきたようで、文句が聞こえる。
けれど、誰もうさぎさんの文句を聞く気はない。
……可愛そうなうさぎさん。
滴達の意識は、他人事のようにそう思いながら、遠ざかっていくのだった。
日が沈み終えた頃、やっと滴達は目を覚ました。
「これ、やらない……?」
波の手には、色とりどりの花火が握られていた。
太さも別々だ。
昨日やった花火の残りだろう。リュックサックに入れっぱなしにしていた、というところではないだろうか。
「やろう!」
滴達は元気よくドアを開けた。
「先ずはこれからね!」
紗季は、ジャジャーンと何故か効果音を付けながら、花火に火を付ける。
真っ暗だった山がほんわり明るくなった。
シューっと勢いよく光のシャワーが飛び出す。
火花は、最初は黄色、次に赤、と次々に色を変えて、滴達を魅了していった。
滴達の花火も色を変えている。
火薬の臭いが滴達の鼻を刺激する。
が、人はそれに夏らしさを感じるのだから、やはり花火は素晴らしい。
白い煙が、滴達の間を通りすぎて行った。まるで、滴達の幸せのひとときを盛大に祝っているかのようだ。幻想的な雰囲気を作り出している。
「あ、なくなっちゃった」
一番最初に火を付けた花火が初めに力尽きてしまった。
「だ、大丈夫……、次もあるから……!」
名残惜しそうな紗季に、波が何本もの花火を見せつける。
それを見て、紗季はにっこり微笑んだ。
これでまた、花火に火を付けられる。
滴達は、キラキラと光りながら滝のように流れる花火に何度も火を付けていたが、途端に終わりが見えてきた。
残りは、6本である。
ゴクリと唾を飲み込み、6人は一斉にそれをとった。
残っていたのは、線香花火だった。
丁寧に火を付け、出来るだけ手首を固定する。
こうすることで、より長く花火を見つめられるからだ。
橙色の光は、小さな火花を撒き散らせながら、細かく動いている。
勢いよく出ていた先程までのものとは、全然違う。
小さく光る光は、辺りを照らせるほど明るくはない。
しかし、そんな線香花火に人気があるのは、やはり日本人の感傷的なものを好むという性質が影響しているからなのかもしれない。
その小さな光も力尽きたかのように落ちてしまった。
長く見ていたいのに、本当に線香花火というのは儚いものだ。
最後は少し寂しい気持ちになってしまったが、滴はこんな時間を1つの思い出として胸に刻み込むのだった。
読んでくださり、ありがとうございました。




