暗い朝
閲覧ありがとうございます。
翌日、滴達は目を合わせる気配もない状態であった。
紗季はその様子に首をかしげている。昨日は気を失ってしまったため、夕食のときのことを知らないのだ。ただ、紗季はこの異様な雰囲気を察して身震いする。
「…………」
滴達の間には会話がない。
こんな朝を迎えるのは初めてである。
滴は無意識にポケットの中のツルピカを握り締めた。
いくら皆がコンピュータらしくなくても、油断は禁物だ。いつツルピカを盗まれるかわからないのだから。
今さら気にするの? と思いもしたが、今まではこんなに危機が迫った感じではなかったため、少ししか注意していなかったのだ。
「ねぇ! 昨日何があったの?」
紗季がいつものように笑っている。
けれど、今の滴達の雰囲気からして、その様子は明らかに浮いている。
紗季はしばらくしても誰も返答してくれなかったので、目を伏せてしまった。
「……なんなの? いったい……」
紗季はふて腐れたように唇を尖らせると、食卓へと行ってしまった。
食卓では、波がいつものように朝食を準備してくれている。
「ご、ごはんできたよ……?」
波もまた、滴達とは目を合わせようとしない。
しかし、紗季は何にもわかっていないので感謝の言葉を元気よく伝えていた。
波は曖昧に笑う。
そうして、滴達は無言で朝御飯を食べる。
紗季は相変わらず滴達に話しかけていたが、他の子は全く口を開かなかった。
非常に空気が重い。
さすがの滴もこれには長いこと耐えられそうになかった。
「ね、……何があったか知らないけどさ、いつも通りにしてくれない? 私、こんなだから無言貫かれると死にそう。無視とか止めて欲しいんだけど」
不意に紗季が訴えてくる。
だが、滴達は気まずげに紗季を見ただけで何も言えなかった。
この空気の中で口を開くのは、かなりの勇気を必要とするのだ。
誰も答えないので、遂に紗季が叫ぶ。
「ねぇ、嫌だよこんなの! いつもみたいに話そうよ! こんなんじゃ生き地獄だよ!?」
滴達はここでやっとお互いの顔を見るのだった。
紗季は今にも泣き出しそうである。
読んで下さりありがとうございました。




