無くならない友情
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プリちゃん……。
滴はその子の名前を心のなかで呼ぶ。
やっぱり持つべきものは友人なのかもしれない。プリちゃん以外の子が滴を信用してくれなかったのは、かなり寂しいが。
「ねぇ、プリちゃんも滴と組んでるのぉ? そうやってぇ、すぅぐ愛達を悪者にぃしないで欲しいなぁー」
愛がプリちゃんに向けているのは、間違いなく嫌悪だ。
どうしてこうなってしまったのだろうか。
「……こればっかりは愛に味方したくなる。波も怪しいが、滴とプリちゃんの方がもっと怪しいからな」
光が睨み付けるようにいう。いや、心の中を見透かそうとしているかのような目だった。
滴も今、そんな目をしているのかもしれなかった。
「わ、私、コンピュータなんかじゃないよ! 失礼だよ、そういうの。 しっかりした理由もなく疑うなんて!」
あわわ、プリちゃんはそう思うのか。おばさんの話の時もそう思ってたのかな……。
一瞬罪悪感でいっぱいになるが、あの時はおばさんが危険だということは合っていたので、失礼とは言わないかもしれないと思った。
「……しっかりした理由がなくても疑いたくなるのかもしれないね……」
見ると、波が下を向きながら呟いていた。波のまつげが、その目の下に濃い影を作っている。
窓の外では雨が降り始めていた。
「……だ、だって、…………私も、死にたくないもん……!」
波はそう言って走りだし、自分の部屋に篭ってしまった。
滴達は顔を見合わせ、そっとお互いから視線をそらす。
「……この話は明日にしよう。今日はもう寝よう」
光は背を向けて、自分の部屋へと行ってしまった。
それを合図に、滴達もそれぞれの部屋へと戻る。
部屋へ戻った滴は、そのままベッドに身を委ねていた。
どうしてこうなったのか、その事だけが頭の中をぐるぐると回っている。当分他のことについては考えられないだろう。
それだけ滴はこの事態に参ってしまっていた。
おかしいんだ、何かが。ピンと来ない。
この事件は小説のなかにもあった。けれど、主人公は疑われなかったし、おばさんの占いの話は無かったのだ。
まるで、誰かが話を無理やり変えているような感じである。
小説の中の主人公と同じように滴が動けば、こうはならなかったのだろうか。いや、そうしたらおばさんの話で波が死んでしまっていた。それは回避したかったので、あの行動は自分でも間違ってはいないと思う。しかし、それで話が変わってきているなら困る。今後は小説の内容を使えなくなるからだ。
滴は雨の音を聴きながら、そっと目を閉じる。
誰か、滴達の仲を戻してください。そう願うのだった。
コンコン、初めてここで夜を過ごしたときのようにドアが鳴った。
「入っていいよ」
滴は顔だけをあげていう。
カチャリとドアを開けたのは、予想通りプリちゃんだった。
「ごめんね、なかなか寝れなくて」
あの日のようにプリちゃんは控えめに笑う。
滴はプリちゃんのその表情にちょっぴり安心感を覚える。
「今日は庇ってくれてありがとう」
「ううん、当たり前だよ。滴がそうだとは全く思えないし」
滴が言うと、プリちゃんは強めの口調でそう言った。
「……ねぇ、滴は私がコンピュータだと思う?」
滴はそれを聞いて少しドキリとしたが、なんでもない風に答える。
「な、どうして? そんなこと思うはずないじゃない?」
本当にそうは思えないのだ。
実はプリちゃん以外の皆も疑えない。疑おうと思っても普通の人間にしか思えないからだ。一人一人、人間らしさを持っている。個性がある。暖かさ、温もりがある。
「さっきも言ったけど、私も滴は違うと思う。……実はね、他の子もコンピュータだと思えないんだ……」
プリちゃんがそう言ったので、滴は勢いよく顔をあげた。
まさか、プリちゃんもそう思っていたとは。
つい、本当はコンピュータの子なんていないんじゃない? と、甘い考えが頭をよぎってしまう。
いないわけがないのに。
読んで下さり、ありがとうございました。




