古民家 3
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紗季達は滴の慌てようも知らずにおばさんとの話を続けている。 滴の様子に気付くことはなさそうだ。
「……プリちゃん、ちょっと良い?」
滴は声を潜めてプリちゃんに話しかける。
プリちゃんは滴の様子に気付いたのだろうか。
彼女はただこくりと頷いた。
ちょっと夜風に当たってきます、とおばさん達には言い残し、様子をうかがいながら滴はプリちゃんと一緒に外へ出る。
「どうしたの?」
プリちゃんに尋ねられたがどう答えるかまでは決まっていなかったので、滴は言葉に詰まった。まさか、ここは小説の中の世界だとか言っても信じてもらえると思えないし。
少し黙っていると、プリちゃんまでがそわそわし出した。
「……なにか大変なことに気付いちゃったとか……?」
滴はびくりとする。
何故わかったのだろう。
プリちゃん、まさか超能力者?
いや、有り得ない。
ってことは、おばさんにもばれてしまったのだろうか。
最悪なことを考え、その考えを外に出すように滴は頭を振った。
「……それがね」
滴はおかしいと思ったことと何に気を付けなければならないのかを簡潔に伝えた。勿論、小説の世界とかそういうことは話していない。
「いやぁ、大丈夫でしょ。滴の考えすぎじゃない?」
思った通り、プリちゃんは相手にしてくれなかった。危険だと思った理由がしっかりしたものではないからだろう。
「……うん、そうかも」
滴は仕方がないと思い、プリちゃんと家の中へ戻っていった。
夜になった。
滴は相変わらず警戒を続けている。
プリちゃんと話したときは退いたが、やはりここが安全だとは思えなかった。
そう、小説ではここで一人がおばさんに襲われて死ぬのだ。誰かに追放されてとかではなく。
スー……。
6人の寝ている部屋の扉が開いた。
滴は寝ている振りを続けながら、軽く目をあける。
そこには、ギラリと光るナイフとにやにやと笑うおばさんの姿があった。おばさんが見つめているのは……波だ!
小説の内容と同じであることを確認し、滴は力一杯叫ぶ。
「起きてっ!! 早く外に出てっ!!!」
いきなりの大声におばさんは固まった。
今がチャンスである。
滴は布団をガバリと上げ、家の外へと飛び出した。滴以外の皆もそれに続く。
「いきなり何なんだ!? 大声出して」
光が問いかけて来るが、今はそれどころではない。
皆は走る滴をただ追いかけた。
「……ちょっ、ちょっと、待って! 足も痛いしぃ、疲れてもう走れないよぉ」
愛が泣きそうになりながら滴に訴えた。
走り出してまだ2分経っていないが、確かにもう滴も辛かった。
何しろ、急いで出てきたので靴もはいていない。
初めから全速力だし、今日は1日歩き通しだったのだ。
走り続けられた方が凄い。
ちょっと休憩しようか、そう思ったときだった。
「どうしました? そんなに急いで。まだ夜中ですよ。女の子がそんな時間にどちらへ行くの?」
木の枝に腰を下ろしているのは、紛れもなくあのおばさんであった。
「あら、そんなに怯えることないじゃないの。おかしいわねぇ。わからないように気を付けてたのに」
うっすらと笑みを浮かべるおばさん。
お、おばさん足速すぎ!
悲しすぎる。こんなに走ったのに意味なしとか……。
足の皮がボロボロに剥けるのも気にせずに走ったんだよ?
6人は絶句して、おばさんを見つめた。
読んで下さってありがとうございました。




